思いを語りぶつけ合う、日誌こそが小山台野球、強さの秘訣 都立小山台(東京)【前編】
昨夏の東東京大会、決勝で二松学舎大附に敗れはしものの、準決勝では全国制覇実績もある帝京を下した都立小山台。この春の東京都大会でも、名門早稲田実を下してベスト4に進出。準決勝でセンバツ甲子園帰りの国士舘に屈したものの、その戦いぶりは「小山台は勝負強い」ということを印象づけた。グララウンドは狭い上に、さまざまな制限がある環境。定時制の関係もあって、17時には完全下校が義務付けられている。そんな中で実績を残していかれる都立小山台の強さの秘訣を探ってみた。
新チームスタート時は、最弱のチーム
都立小山台野球班
目黒駅から東急目黒線で二駅、武蔵小山駅を出るとすぐに、都立小山台高校がある。商店街とマンションなどに囲まれて大都会の住宅街の一角だが、それほど大きくない校門には誇らしげに他の班活動(一般的な部活動を小山台では“班活動”という)の実績とともに「野球班、第100回全国高校野球選手権東東京大会準優勝」の横幕が掲げられている。
昨夏の準優勝に続いて、今春の東京都大会も2006(平成18)年には全国制覇を果たした早稲田実などを下してベスト4入り。あと一つ勝てば、初の関東大会進出も果たせるところだった。
「準決勝では、自分が先(勝てば初の関東大会進出)のことを考えすぎてしまって、失敗しました。反省点です」
と福嶋正信監督は言う。ただ、新チームがスタートした時は、「小山台で10年目になりますが、スタート時点では一番弱いチームでした」という状況だった。しかし、そんなチームが、わずか半年でどうして東京ベスト4にまで進出するチームになれたのだろうか。
「史上最弱から最高へ」
そんなスローガンを選手たちが自分たちで掲げて、真の全員野球に取り組んでいった成果が着実に実ってきている。それを実感させる要素があるからである。
都立小山台で驚かされるのは、本当に17時には生徒全員が校門を出なくてはいけないということである。だから、16時50分頃からの10分間はいろいろな生徒が、駆け足で校門を後にしていくのである。もちろん、野球班も同じである。
ただ、金曜日などはその後に近くの会議室を借りて、ミーティングやグループごとに分かれて、一つのテーマについて話し合い、それを発表し合うという形の意見の出し合いなども行われる。そこで本音で話し合うことで、真の団結やチームワークを育んでいるということがしっかりと分かる。そこには、言葉だけの全員野球ではなくて、本当の意味で全員が同じベクトルで同じ方向を見つめている目に見えない力が育まれていることがわかる。
都立小山台の伝統「野球日誌」
野球日誌をピックアップした小山台野球部だより
それは、都立小山台の一つの伝統にもなっている「野球日誌」にも象徴されている。図らずも、この日は、「日誌について考える」というテーマで話し合われていた。「毎日、日誌を書くことが、負担になっているのではないか」という指摘が、一部の父母からの話であったということも踏まえて、福嶋監督が、「それならば、日誌について選手たちで真剣に討議して意見を出し合ってみよう」ということで提案されたものである。
そもそも、都立小山台の野球日誌というのは福嶋監督が「ペンの野球」と言うように、技術的なこと、精神的なこと、あるいは日々の学校生活で気づいたことなどを日誌に記していくのだ。そして、それを他の仲間が読んでいくことで、お互いの考え方やモノの捉え方などを理解していくというものである。さらに、その中で印象的なモノ、是非全員に読んで欲しいというページは福嶋監督がピックアップして全員に配るというシステムである。
「小山台にとって日誌は絶対に必要であり、小山台の命」
「日誌に何を書こうか、ということを考えることで、視野も広くなっていく」
「日誌はメンタルトレーニングの一環でもあり、心が磨かれていく」
「相手のことを理解できるようになるし、人のことを考えられるようになる」
「直接は言いにくいことや、他人には言えないことを日誌には書ける。そのことで、心が強くなれるし、文字として残っているので後で見返すこともできる」
こういった意見がまとめられて次々と各グループの代表が発表していった。しかも、その発表の姿は、いずれもが堂々としていて、まるで企業の新企画のプレゼンテーションのようでもあった。
「いい日誌を書こうとしなくてもいい。心の思いをしっかりと書いていくこと」
これが日誌を書く心構えとして伝えている。
「小山台は日誌で育った。選手たちの日誌を読むことで、自分も指導者として考え方も変わってきたところもあるし、日誌を読みながら『ありがとう』と言う気持ちになっている」
福嶋監督の日誌に対しての思いでもある。
今回はここまで!次回は夏へのキーマンを中心に、さらに都立小山台の強さを追及していきます。次回もお楽しみに!
【後編】太く強固な84本の矢となって東東京を勝ち抜く!都立小山台(東京)
(取材・手束仁)