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「守備の帝京」に手応えを掴んだ春。総合力を高め、8年ぶりの甲子園へ!【後編】

2019.06.07

 東東京を代表する名門・帝京。夏の甲子園出場12回、センバツ14回、春夏の合計優勝回数は3回と輝かしい実績を残している。そんな帝京といえば、高校生離れした体格から投手は140キロ連発、野手は本塁打連発なスラッガーがいるイメージが強いのではないだろうか。そんな今年の帝京は従来のイメージとは違う。「守備の帝京」として2011年夏以来の甲子園を目指している。

 前編ではなぜ守備の帝京が誕生したのか。その裏話を伺ったが、後編では春季大会の戦績を振り返ってもらいながら、夏への意気込みに迫った。

 今年は「守備の帝京」で勝負。例年にはないチームカラーを見逃すな!【前編】

堅守・帝京の鍵を握る主将・大内の存在

「守備の帝京」に手応えを掴んだ春。総合力を高め、8年ぶりの甲子園へ!【後編】  | 高校野球ドットコム
帝京のノック中の様子

 守備力強化へ。帝京はトレーニングのウエートが多くなる冬の期間でも実戦形式の練習を重ねた。その取り組みについて前田三夫監督は「前のチームの冬より中身の濃い練習ができました。冬の練習はワンパターンになりがちなのですが、実戦形式の練習を取り入れたことで非常に緊張した中での練習ができていました」と充実の冬だったと振り返る。

 前田監督は昨年12月、東京代表の監督としてキューバ遠征を行ったが、自由闊達な動きを見せるキューバの内野手も参考にした。
 「ただ、あくまで日本は基本重視。それで横柄なプレーをした選手は叱りました。その路線を外さない限り、参考にすることは許容しました」

 逆シングルでの捕球練習も取り入れるなど、守備の幅を広げた。ここまで話を聞くと、前田監督は方針を変えたものの、守備について前に乗り出していないところだ。選手に話を聞くと、前田監督が熱心に指導するのは「打撃」。守備については直原大典コーチに任せ、選手の取り組みを尊重しているところがある。それは主将・大内智貴の存在が大きい。

 今年の都大会前に大内は主将を任されるようになったが、理由として前田監督は「小学校時代から日本代表を経験して、中学でも全国大会優勝を経験しているので、野球を知っているからです」と語る。

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大内智貴選手

 大内は小学校6年時、第2回 IBAF 12Uワールドカップを経験。さらに大宮シニア時代は日本一を経験する。大内は中学時代の教えが現在に生きていると語る。
「大宮シニアは中学にしては細かい野球を行っていて、雨が降ってグラウンドで練習ができない日は公民館で、連携や野球のルールの確認を行うミーティングをずっとやっていました。サインプレーをかなりするチームだったので、非常に学びになりました」

 また大内自身、ポジショニングを中学時代に極めた。投手、打者の力量差を感じ取り、打者のインパクトを見て、瞬時にどこへ打球が飛ぶのかを読む練習を繰り返し行ってきた。今では守備範囲の広さ、打球勘には自信を持つようになり、自分の守備だけではなく、レフト、ライトなどにポジショニングや落下地点の指示を出すことができる。

 大内の観察眼は前田監督、選手からの信頼も厚い。前田監督は「彼はレベルの高い舞台を知っているから、指示が的確ですよね。指導者からすれば彼のような存在はありがたい」、セカンドを守る小松涼馬も「大内さんは視野が広くて、ポジショニングの指示も的確なので、本当に信頼しています」と語る。

 昨秋から着実に固めてきた守備力を武器に春の都大会に臨んだのであった。

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持ち味を発揮した春。夏まで総合力を高め頂点へ

「守備の帝京」に手応えを掴んだ春。総合力を高め、8年ぶりの甲子園へ!【後編】  | 高校野球ドットコム
春季都大会の桜美林戦の逆転サヨナラ勝ちの瞬間

 シートノックはノッカーと守る選手の1対1のやり取りになるが、挟殺プレーや連携はいろいろな選手が絡んでくる。そうなると勝手な意識ではプレーができず、共通認識を持ってプレーをしなければならない。

 「守備の帝京」が存分に生きた試合はシード権をかけた都大会3回戦早大学院戦だ。1回表に4点を先制したが、5回裏に追いつかれ、防戦一方の試合展開。それでも点を与えなかったのは、左腕・田代涼太の粘り強い投球、堅い守備が大きかった。大内はこれまで鍛えた守備に自信に満ち溢れていた。

 「守っていて逆転される確率は低いと思いました」
 延長戦まで持ち込み、主将・大内の適時打で勝ち越しに成功。4回戦進出を決めたのだった。試合後、前田監督は「よく我慢した」と選手たちをたたえた。

 そして4回戦桜美林戦では9回表に逆転を許してしまい、2対4。後がない帝京はその裏、一死満塁のチャンスから3番小松が逆転の走者一掃適時二塁打を放ち、準々決勝へ進出した。準々決勝国士舘戦では5対7で敗れたが、センバツ出場で、都大会でも準優勝した国士舘相手に接戦を演じ、成果のある戦いを見せた。

 前田監督は大会前、選手たちにこう話していた。「冬の練習は去年よりやっていると。だからその結果は一生懸命やれば出るはずだから、心配しないでやれと。だから国士舘戦もあと一歩でしたし、よく粘ってくれました」

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エルゴメーターでトレーニングする選手たち

 春はベスト8まで勝ち進み、持ち味を発揮することができた。ただ夏では同じような戦い方、戦力では激戦の東東京は勝ち抜けない。帝京は5月になっても、アップを2時間かける。ウエイトトレーニング、体幹トレーニング、手押し車、エルゴメーターなどハードなトレーニングを行っている。

 今の時期は夏へ向けてしっかりとトレーニングを行い、少しずつトレーニングの強度を下げていきながら、7月前半にはキレの良い動きができるように調整を行っている。例年、このやり方が奏効し、昨夏も強打を発揮した。今年もその流れを続くことを期待している。

 また投打ともに頼もしい1年生が加わりそうだ。昨年のジャイアンツカップ準優勝の東練馬シニアの3番打者・田巻脩三、投手陣では130キロ後半の速球を投げ込む野宮夢咲も期待が高い。課題とする投手陣も左腕・田代涼太、右腕・柳沼勇輝(2年)、右腕・武者倫太郎(2年)を中心に底上げを図っている。

 新戦力が加わり、全体の底上げができても、「守り勝つ」カラーは変わりない。
 「今年は例年にはない帝京が見られると思います」と前田監督が語るように、安定した守備と土壇場の勝負強さを発揮し、8年ぶりの甲子園出場を実現する。

(取材・河嶋 宗一

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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