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キーワードは「配球を読む力」 東海大福岡(福岡)に今なお息づく原貢氏の野球観【前編】

2019.05.23

 東海大福岡と言えば、2017年の選抜甲子園大会に出場して、清宮幸太郎を擁する早稲田実などを破ってベスト8に進出したことが記憶に新しい。
 今年のチームも秋季福岡県大会ではベスト16、春季福岡県大会でもベスト16と、相変わらず堅実な強さを維持しているが、当時のメンバーを知る3年生の選手たちからすれば、物足りない成績であることは言うまでもないだろう。

 今回は、そんな東海大福岡の杉山繁俊監督と主力選手の話しを交えながら、チームの現状や課題、方向性について迫っていく。

夏を前にようやく役者が揃い始めた

キーワードは「配球を読む力」 東海大福岡(福岡)に今なお息づく原貢氏の野球観【前編】 | 高校野球ドットコム
練習試合にて得点を挙げてハイタッチを交わす東海大福岡の選手たち

 3年生投手である重田正輝大久保啓、そして安定感抜群の正捕手・藤木貫太を中心に、今年のチームも堅実な野球を見せる東海大福岡。バッテリーを中心に質の高いチームを作りを進めていることを感じさせたが、実はこの春まで、チームは常に主力を欠く状態で戦いを強いられていた。

 「右腕の大久保啓は、入って来た時はすごく球持ちの良く、低めに丁寧に投げるような投手でしたが、力みからフォームを崩して、ストレートが全く走らなくなった時期がありました。キャッチャーの藤木貫太も、福岡県大会で三塁打を放った際に骨折し、キャプテンの森田哲平もずっと怪我で出ていませんでした。
 ここにきて、ようやくチームが夏に向けてまとまってきたかなといったところです」

 そう語るのは東海大福岡を率いる杉山繁俊監督だ。
 昨秋は、ベスト8を懸けた戦いであるブロック予選のパート決勝で、九州国際大付と対戦し、結果は10対1と7回コールドで敗退。この春の春季福岡県大会でも、ブロック予選のパート決勝で飯塚と対戦し、終盤に点差を突き放されて5対2で敗退と、いずれもベスト16の壁を破ることが出来なかった。

 満足に戦力が揃わない状態が続いたが、ゴールデンウィークに入った辺りからようやく怪我人も復帰し、チームが万全と言える状態に近づいてきたのだ。

 だが、選手たちは主力を怪我で欠いていたことを理由に挙げない。
 主将の森田哲平は、秋、春の敗因はあくまでチーム内にある精神面の弱さにあると話し、メンバーが揃ったとしても、心の在り方を大切にすべきであることを強調する。

 「ここまで勝ちきれていないのは、自分たちの気持ちの弱さが原因だと思います。まだ自分の殻を破りきれない人が多くいて、まずは強い気持ちを持つこと最優先に練習を取り組むことを課題にしています」

[page_break:「配球を読む力」は身に付けて然るべき能力]

「配球を読む力」は身に付けて然るべき能力

キーワードは「配球を読む力」 東海大福岡(福岡)に今なお息づく原貢氏の野球観【前編】 | 高校野球ドットコム
東海大福岡の主力を務める左から大久保啓、重田正輝、藤木貫太、森田哲平

 チーム内にある精神的な弱さを強調する森田であるが、当然ながら「戦い方」の面でも多くの課題がある。中でも杉山監督は、配球を読む力に大きな課題があると強く感じており、普段の練習から、相手の状況を考えながら打席に立つことを選手たちに求めている。

 「いいピッチャーには、質のいいボールだけでなく配球もあります。その中で上に行くためには、(カウントを)取りに来る球を狙って打つことが必要がと考えています。
 試合中に次のバッターにピッチャーの特性を伝えたり、相手の勝負球は何なのか見極めたり、打ち取られた後はどんな配球で来るか考えたり、そのレベルまで行かないとチャンスで打つ状況に行きません」

 杉山監督が、配球を読む力をここまで重要視しているのには理由がある。
 杉山監督にとって東海大相模、東海大学時代の恩師である故・原貢氏が、配球を読む力に非常に長けており、原貢氏のサイン通りに配球を読むことで、打率が上がった原体験があったためだ。

 「監督さんは、いいピッチャーになったらこのボールを狙えというサインを出していました。出したものを振っていかないと怒られるということもありましたが、そういった配球を読む力が監督さんはすごく長けていたなと思います。監督さんは、配球を読んでいる訳ではなく、自分の勘だと仰っていましたが(笑)」

 杉山監督は、狙っているボールを芯で捉えることができるレベルに達して、ようやく打率は2割前後に達すると理論を語る。
 良い投手になれば直球の切れも上がり、尚且つ変化球も多彩になってくる。そういった考えの中で、激戦区・福岡を勝ち抜く手段を考えていくと、「配球を読む力」は身に付けて然るべき能力であるのだ。

 ここまでチームの主戦を担ってきた重田正輝は、杉山監督の配球術には驚きを口にする。
 「杉山監督の配球の考え方にはいつも驚かされます。練習試合では、たまに杉山監督がベンチからキャッチャーにサインを出すこともあるのですが、その通りに投げると本当に一本も打たれません。勉強になることは多いです」

前編はここまで!後編では、杉山監督が考える夏を勝ち抜くための戦い方や、選手たちの意気込みに迫っていきたいと思います。後編もお楽しみに!

(取材・栗崎祐太朗

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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