見逃せない遠軽町の助成事業。目指すは町民の心を熱くするチームへ 遠軽(北海道)【後編】
遠軽町唯一の遠軽高校。遠軽の強さを語る場合、町との関係は必要不可欠である。今回は遠軽町の助成事業に迫っていきたい。これは全国の公立高校、自治体にとっても参考になる取り組みかもしれない。
町をあげての助成事業で生徒数も部員数も増加
バスをバックに集合写真を撮る遠軽の選手たち
遠軽高校は遠軽町唯一の高校ということもあり、非常に期待も高い。読者の皆様にとっては野球部が強いイメージと思うが、実は吹奏楽局も12年ぶりに全国大会に出場するなど、他部活も盛んだ。町は学校に対して、通学・下宿の手当ての補助を行っている。平成27年10月1日に助成事業の要項が発表。その内容はウェブサイトでも掲載されている。
通学定期券を購入して通学する生徒 購入額の2分の1以内の額、また下宿費用は上限3万を町が負担している。
町としては年間数千万を負担していても、この事業を推し進める理由は生徒数を確保したい思惑がある。生徒数を確保することで、それにかかわる教員の確保にもつながり、結果的に教員の雇用につながるのだ。
遠軽野球部は下宿生が多く、主将の浅野駿吾も下宿生で、「親の負担が軽くなるので、進学理由として大きかったです」と語る。また浅野だけではなく、「下宿費用の補助は大きかったです」とこの事業を知って、進学を決めた選手が多い。これは野球部だけではなく、他部活の生徒も下宿している生徒が多くなっている。
ノックを受ける遠軽の選手たち
また野球部の環境も整備されてきた。専用グラウンドがあり、外野後方にはビニールハウスの練習場と2013年に選抜出場した際の寄付金で、完成した雨天練習場や、野球部専用の大型バスもある。
さらに遠軽町は強豪校の夏季キャンプの誘致にも積極的で、その1つが横浜隼人。毎年7月末に訪れ、キャンプを行い、遠軽も練習試合を行っている。
選手の意識も、組織力も高い横浜隼人との交流は遠軽ナインにとっては大きな刺激となっており、阿波監督は「とてもありがたいことで、その恩返しは結果を残したり、応援してもらえるような人間性を身に付けていかなければなりません」
町の期待に応えられるチーム作りを行っている。
町民の心に響くチームへ
打撃練習を行う遠軽の選手たち
今年の遠軽はそんな町の期待に応えられる選手が集まっている。捕手としてスローイングタイム1.9秒台の強肩を誇り、好左腕・石澤大和から4打数4安打を放ち、投手としても146キロを計測する主将・浅野、パンチ力溢れるセカンド・間村湧介、広角に長打が打てる強打の一塁手・東海林大貴の3年生に加え、2年生には遊撃手・投手を兼任する市川 竜輝は140キロ台の速球にも対応できる打力を持ち、マウンドに上がれば、最速135キロのストレートと縦スライダーを武器にリリーフとして好投を見せる。
さらに市川は中学時代から実績が優れ、捕手としてベンチ入りする楢林 優斗とともに、2017北海道選抜U-15代表に選ばれた実績を持っている。
今回の北見支部予選では3試合を戦って、すべて6点差以上の勝利と圧巻の試合内容だった。
左から岡本、浅野の遠軽バッテリー
町民は試合の観戦にも訪れ、初戦で実力校・網走南ヶ丘を破った試合は町民にとっては感激の試合内容だったようで、今まで以上に遠軽野球部を注目しないといけないという声が多かった。
それは選手たちの実力はもちろん、一体となって戦う姿が町民の心に響いていた。
強豪揃いの北北海道を勝ち抜くためにさらに鍛錬を続け、遠軽初の夏の甲子園を実現する。
(取材・河嶋宗一)