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今年の片倉も面白い!楽しさの中に自主性を育ませる片倉メソッドに迫る!

2019.04.13

 八王子市に所在する都立片倉。昨夏はベスト8まで勝ち進み、準々決勝では日大三と大接戦を演じた。今春もベスト16入りを果たし、夏のシード権を獲得した。今年の都立片倉は指導方針、選手ともに面白いチームであること。選手の個性を大きく伸ばす都立片倉の方針に惹かれる方も多くなるはずだ。

楽しいだけではない。選手の思考力を鍛えた野球ノート

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シートノックを行う様子

 練習では笑顔が見られ、指導者の罵声もほとんどない。試合になれば、得点や好プレーが出れば、一気に盛り上がる。そんな都立片倉の練習や試合を見ると、「本当に楽しそうに野球をやっているなあ…」という印象を受ける。楽しそうというというのはただ笑顔で適当にプレーしているのではなく、真剣に走り、点を取れば、どこのチームよりも喜び、ピッチング、バッティング、フィールディングを見ると、1人1人が自分の技術を追求している様子が見られるからである。

 たとえば打撃練習。遊撃手・柳本康希がしっかりとステップしたり、ノーステップで打ったりしている。なぜなのか聞くと、「投手によってクイックで投げたりする投手もいますので、それに合わせて練習をしています」としっかりと意図を答える。

 さらに高校通算12本塁打を誇る上田一成は打撃練習で意図的に一本足で上げて、独特のタイミングを計りながら行っている。その意図について聞くと、「体重移動を意識してやっています」という。これは宮本監督の指示ではなく、全部、選手自ら行っている。この思考力の高さや自ら考える習慣を生み出しているツールがあるという。それが野球ノートである。

 野球ノートは昨秋のチームスタート時から始めた。必ず書かなければならないものなど、特にルールはない。宮本監督が求めているのは自分のためにやることだ。

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高校通算12本塁打を誇る上田一成(都立片倉)

 「指導者に見せるためのノートにならないこと。つまり背伸びしている感じなんですよね。お前のためだろ!と叱りますね。だから素っ気なく書いてあっても、自分のために書いてあるんだというのが分かればよいと思います」

 たとえば上田は日々の打撃練習から自分の状態を書く。その時、好調時、不調時の内容を記述することで、いざ大会や練習試合が近づくと、自分の状態に立ち返ることができるのだ。上田はノートのおかげで打撃をより深く考えられている。
 「ノートをとったことで自分の打撃を立ち返ることができる。技術的にも追求することができるようになりました」

 また、新チームから公式戦・練習試合を通じて9本塁打を放っている清水謙伍(2年)はノートによって、しっかりと考えを整理して、打席に向かうことができている。
 「去年の秋は1年生ながら公式戦を経験させてもらったのですが、本当に緊張していました。今は慣れて緊張せず打席に向かうことができていますが、ノートがあることで自分の打席を振り返り、しっかりと準備して立ち向かえることになるようになりました」

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押しつけがないことが選手の自主性を育ませる

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エースの室津泰介(都立片倉)

 宮本監督が見てきた中で、最もノートの内容が優れているのはエースの室津泰介だ。最速133キロのストレートと縦に鋭く落ちるスライダーが武器の好左腕だが、昨秋から肩のケガに苦しんでいた。その期間、病院や理学療法士の指導の下、肩の状態を改善させていったが、その期間、書いたノートは宮本監督も驚きの内容だった。
 「ケガをしているからこそ、肩の機能など専門的なことが書いてあるんですよね。ケガをしたことで、いろいろ学んでいる様子が見られましたよ」と目を細める。

 室津は「ケガがあったからこそ改めて体の状態について知ることができましたし、トレーニングも以前より意識高く持って取り組むことができたと思います」と振り返る。復帰してから取り組んできた縦スライダーも完成。
 「仲間から握りを聞いたり、スライダーの変化や状態をノートに書き続け、試行錯誤した結果、この春、最も良いスライダーが投げられていると思います」

 その言葉通り、シード権をかけた3回戦の啓明学園戦では7回を投げて、13奪三振の好投を見せた。「自分でもこれほど三振が取れたのは驚きでした」と笑顔を見せた。厳しいブロックを勝ち抜き、夏のシード権を獲得したのであった。

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主将の松井晴比古(都立片倉)

 なぜ選手がこれほど深く考えられるのか。それは宮本監督の指導が大きいだろう。例えば守備では必ずこういう形で捕れというものはない。早くアウトにできる形であれば何でもOK。ショートの柳本は逆シングルで捕球することが多くなった。また宮本監督が罵声を挙げる雰囲気もなく、取り組む選手たちは楽しそうだ。かといってふざけている雰囲気もない。押しつけがないことが選手の自主性を育んでいるといえるだろう。

 主将・松井晴比古は片倉の良さについてこう語ってくれた。
 「中学時代、練習の雰囲気の良さを見て片倉を選びましたが、自分で考えて取り組む片倉の雰囲気は好きですし、この学校に選んでよかったと思います」

 他の選手も松井の言葉に同調し、雰囲気の良い都立片倉が好きであることを語ってくれた。
 こういう気風だからこそ、個性的で才能の高い選手を育成するのだろう。4回戦では国士舘と対戦する。3月17日、国士舘との練習試合をしたが、大敗を喫した。ただその時はエースの室津の仕上がりはまだまだだった。しっかりと調子を上げた今ならば、あの時よりも戦える予感は誰もが持っている。

 強豪ぞろいの西東京であっと言わせる戦いは見せられるのか。夏まで見逃せない。

(文・河嶋宗一

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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