勝つ確率の向上を呼び込む徹底力とフィジカルでまだ見ぬ景色は甲子園で見る!明石商【後編】
後編では、「確率」と「トレーニング」の2つのキーワードにスポットを当てる。それらが明石商にもたらす効果とは何なのか。彼らの野球の神髄に迫ります。
一事が万事。明石商の緻密な野球は想像以上の手間暇が詰まっていた!【前編】
徹底力はどこにも負けない
走者をつけて常に実践を想定する明石商の選手たち
無死、もしくは1死二塁の場面で三塁前にゴロが飛んだシーンで「どこまでの当たりなら二塁走者は三塁へ進塁可能なのか」というテーマひとつとっても、チーム全体で徹底的に向き合った。
「走者付きのノックを繰り返しながら進塁可能な打球と二塁に戻るべき打球を見極める作業をオフの間もずっと続けました。瞬時の判断が要求されますし、そこまでやっても試合本番で成功するかどうかはわからないけど、できる確率は上げて行かなければいけない」
インタビュー中、狭間善徳監督は「確率」というワードを幾度も口にした。
「右打者を追い込んだバッテリーがストライクからボールになる外の変化球を投げた時には三遊間寄りに守ったほうがアウトを奪える確率は高い。そんな時に三塁ライン寄りに守ってしまう選手が試合に出ていたらアウトを奪える確率が低くなってしまう。
外野手には『投球が低いと思った瞬間に前へ歩きなさい』と伝えています。頭上を越される確率よりも前方に飛ぶ確率のほうが高くなるわけですから。野球は確率のスポーツ。確率を少しでも上げる姿勢が最善の備えにつながり、勝つ確率の向上を呼び込む。そう信じています」
重宮涼主将は「うちの徹底力はどこにも負けないと思う」と証言した。
「正直、入部した時はびっくりしました。ここまでやるのかと。勝つための執念がすごい。勝つ確率を少しでも上げるための徹底力がすごい。ひとつひとつしっかりつぶしていきますから。徹底力は明石商業野球部の大きな武器だと思っています」
トレーニング改革が呼び込んだ充実のフィジカル
練習前にトレーニングすることで怪我防止になる
「5年前からトレーニングの質が格段によくなったと感じています」
2014年秋より、篠田健治トレーナーの指導の下、年間を通し、ウエイトトレーニングに取り組んでいる明石商。スピードとパワーの向上を目的としたメニューを週3回、練習前に約20分間実施。「それまでもウエイトトレーニングはやっていたけど、今思えば根拠に乏しい内容だった」と狭間監督は苦笑いで振り返る。
「それまでは練習の最後にウエイトトレーニングをおこなっていたのですが、練習でクタクタに疲れた後に集中するのは難しいですし、無理して追い込めばケガにもつながる。以前は一冬に腰痛などで10人程度の故障者が出ていましたが、篠田さんに来ていただいてからは、故障者がまったくでなくなった。
練習前にトレーニングをおこなうことで、取り組んだ内容をそのあとの投打の動作につながるように落とし込んでいける。選手たちも自分のためになることを体で実感しているからか、一切手を抜かず、真剣にトレーニングと向き合っています。トレーニング改革は3度の甲子園出場を語る上で欠かせない要因ですね」
昨年秋には教育実習で母校を訪れたOBの松本航(西武)が大学時代に効果を実感した体幹トレを野球部の後輩に伝授。選手たちの好評を博しているという。「まだやり始めて数ヶ月ですが『軸のぶれが少なくなった!』という声も聞こえてきますね。理にかなったいいトレーニングが今はできているなと感じています」
昨年の公式戦終了時から3月までの約5か月間で5キロの体重増がチームの合言葉だったが、ほとんどの選手が目標をクリア。一冬で確かな進化を遂げた充実のフィジカルで春の聖地に乗り込むことに成功した。
甲子園で見たことがない景色を見てみたい
狭間監督が自ら選手に手本を見せる
「打線は12年間の監督生活で1番いいですね」
7カ所でおこなわれていたフリー打撃練習の様子をうかがいつつ、狭間監督はそう断言した。
「来田涼斗、水上桂、重宮をはじめ、調子に波がある選手が少ないし、たとえ調子が悪くても結果を出せる選手が揃ってる。ここまで粘り強く、チャンスに強い打線は初めてです。中森俊介、宮口大輝を軸とした投手陣が3点以内に抑えることができれば、絶対に勝てるかどうかは別にして、いい試合にはなると思う」
最後にセンバツに向けての意気込みを聞いた。
「去年の秋からできなかったことをしっかり一個一個つぶし、『ここまでやって勝たれへんかったらしゃあない』と全員で言えるほどのことをやってきた。3年前のセンバツではベスト8までいきましたが、この春はそれ以上いきたい。『日本一になる』という選手たちの夢を叶えてやりたい。今まで明石商が甲子園で見たことがない景色を見てみたいです」
3月27日におこなわれた国士館との1回戦は7対1で快勝を収めた明石商。
目標に向け、順調なスタートを切った兵庫の雄の春に要注目だ。
(文・服部 健太郎)