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一事が万事。明石商の緻密な野球は想像以上の手間暇が詰まっていた!【前編】

2019.03.29

 昨秋は4季連続となる兵庫制覇を果たし、近畿大会では決勝で龍谷大平安に惜敗を喫したものの3年ぶり2度目の選抜出場切符をつかんだ明石商。県内相手の公式戦は目下、27連勝中。センバツ大会を控えた兵庫の雄の練習グラウンドを訪問すべく、学校が位置する兵庫県明石市へ向かった。

上達を後押しする至高のダイヤモンド

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綺麗にならされたグラウンドで連取をする明石商の選手たち

 (いかにもイレギュラーしなさそうな綺麗な内野グラウンドだなぁ…)

 校舎に隣接するグラウンドに到着し、真っ先に驚かされたのが、黒土が敷き詰められた内野部分の質の高さだ。手入れがしっかり行き届いていることが伝わってくるダイヤモンドは阪神甲子園球場の内野部分を彷彿とさせる。公立高校のグラウンドでここまで段差のない状態のインフィールドはなかなかお目にかかれない。

 「あ、これ、甲子園と同じ土なんですよ」
 バックネット裏で出迎えてくれた狭間善徳監督の言葉に合点がいった。聞けば、甲子園球場のグラウンドを管理している会社に委託し、数年前に内野部分の土の総入れ替えを実施。その後も定期的にメンテナンスを施す契約を結んでいるのだという。

 「マウンドの高さも甲子園と全く同じにしてもらいました。イレギュラーがほとんどなく、思い切りできるから内野手もうまくなる。やっぱりイレギュラーがあるかもと思いながら練習すると余計な力が入ってしまいますからね」

 就任12年目の狭間監督。高校野球の監督として過ごした日々は、指導者生活28年の約半分を占めるまでになった。高知・明徳義塾中軟式野球部監督として全国大会優勝に4度導いた後、高校野球の土俵に立ったのが42歳の時。無名の公立校を激戦区・兵庫を代表するチームに育て上げた名将は、記憶の目盛りを昨年の8月に合わせ、3度目の甲子園出場を成し遂げた現チームを結成時から振り返った。

[page_break: 練習試合ラッシュで始まった新チーム/妥協知らずの課題つぶし]

練習試合ラッシュで始まった新チーム

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選手たちに指示を出す狭間善徳監督

 「夏の甲子園に出場したことで新チームの始動が県で一番遅くなってしまいましたからね」

 八戸学院光星に惜敗を喫したのが8月11日。新体制のスタートの遅れをカバーすべく、翌12日から練習試合を可能な限り組んだ。

 「甲子園出場校は8月中旬から始まる秋季兵庫県予選を免除されるので、県大会が始まる9月12日までの一ヶ月間で31試合の練習試合を消化しました。たくさんの練習試合を通じ、できなかったことをひとつひとつつぶした上で県大会に入っていけたことは大きかった」

 実戦を重ねる中であぶり出された課題とは具体的にはどういったものだったのだろうか。
 「投手でいえば、まずランナーをしっかりと抑えて投球ができるかどうか。クイックで投げる、けん制ができる、投球後にすぐに野手になり、マウンド周辺のフィールディングができるか、といった基礎的な部分から徹底的にやっていきました。

 練習ではできても試合になると緊張や『打たれたくない』という気持ちが加わるため、セットポジションに入ってからけん制、投球までの間隔や首の動きなどがワンパターンになってしまう投手も新チーム時点では多い。でもそのままにしておくと秋の公式戦で走られやすい投手になってしまう。相手にバレやすいクセがあれば矯正する作業と徹底的に向き合う。
 毎試合のように出てくる課題を克服することはけっして簡単なことではないですが、勝つためにはできるまでひとつひとつつぶしていくほかありませんから」

妥協知らずの課題つぶし

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中継プレーでミスしないのは手間暇かけて見つけた「適正距離」でプレーをするからだ

 中継プレーのミスをゼロに近づけるべく、外野に打球が飛んだ際の捕球した外野手とカットマンとの「適正距離」にも徹底的にこだわった。

 「打球の処理の仕方、捕球した体勢によってカットマンへ無理なく返球できる距離は同じ選手でも変わってくる。例えば、同じ捕球地点でも、体の前で前進しながら捕ったら50メートル、止まった状態で正面捕球した際は40メートル、右横に走りながら逆シングル捕球した際は30メートルといったように送球の出力に差が出るものです。
 そして無理なく投げられる距離は選手によって異なる。つまり適正距離をとるためには、カットに入る側が、自チームの外野手が無理なく投げられる距離を捕球体勢ごとに把握することが不可欠になってきます」

 狭間監督は「無理して投げるからカットマンへの送球が逸れる確率が高くなり、余計な進塁を許してしまう確率も高くなり、ひいては失点の確率も高くなってしまう。新チームにありがちな連携ミスを減らすには無理して投げる状況をつくらないことがなにより大切」と続けた。

 「送球する外野手サイドも『ちょっとカットマン遠いな』と感じたら、『この捕り方をしたときはもう少し詰めてくれ』といったようにきちんと言葉で伝える。適正距離の精度を高めるには選手同士のコミュニケーションも不可欠です」

 明石商業の中継プレーが破綻した光景を目撃した記憶はほとんどないが、その根拠には想像していた以上の手間暇が詰まっていた。前出の具体例は狭間監督が示してくださった一端だが、まさに一事が万事。根気強く、手間暇をかけて課題をつぶしにいく姿勢は項目が変われど一貫していた。

 前編はここまで。後編でも明石商の強さの秘密に迫っていきます。そこから見えてきた「確率」と「トレーニング」の2つのキーワード。それらが明石商にもたらす効果とは。後編もお楽しみに!

(文・服部 健太郎

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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