強い個性を力に変えて「強い嘉穂」を取り戻す 嘉穂(福岡)
福岡県飯塚市にある、福岡県立嘉穂高等学校。県内でも指折りの進学校である同校は、かつては野球部も県大会上位常連校として名を馳せていた。
だが、近年は大会の序盤で敗れることも多くなり、同じ筑豊地区でも今や強豪校となった飯塚の後塵を拝している。
今回は『臥薪嘗胆』の部訓の下、古豪復活を目指す嘉穂の取り組みと課題に迫っていく。
今年は「打てるチーム」として上位進出を目論む
嘉穂野球部
「昔は練習量で支えられてきたチームであって、野球人口もとても多い地域でした。
ですが、練習時間の制約も出てきた中で、時代に合わせなければいけない状況になっています。短時間で効率よく練習をやっていくということを念頭に置いてやっています」
そう語るのは、嘉穂を率いる遠藤靖監督だ。かつては圧倒的な練習量を強みに、1979年夏、1980年夏と2年連続で福岡県大会の決勝へ進出するなど、県内屈指の強豪校であった嘉穂。だが、近年は練習時間の短縮や有力選手が地区外に流れていく時代背景もあり、満足のいく成績を残すことが出来ていない。
「今は時間的にも、トレーニングまで見てやるということができません。なので、そこは各自の意識をしっかりと持たせて、グランド以外でもトレーニングをやっていくように意識づけをしながらやっています」
シートノックを受ける嘉穂の選手たち
だが、そんな中で今年の嘉穂は打撃力を持った選手が揃っており、「打てるチーム」として上位進出に大きな期待が持てると遠藤監督は話す。
打線の核となるのは、クリーンナップを任される3番・前田翔伍と4番・松岡良樹だ。ミート力と長打力を兼ね備えた前田と松岡が持ち味を発揮することで、得点力は大きくアップしてチームに勢いをもたらす。
主将を任される長野将大郎も、今年の嘉穂の特徴は個のレベルが高いことであると話し、チーム力の高さに自信を覗かせる。まだまとまりが無い部分もあると前置きしながらも、長野はチームの特徴を次のように解説する。
「今年のチームは、個人の力が高いチームだと思います。また個性が強くて、盛り上がっていけるチームです。キツイ練習をみんなでやっていくことで、よりまとまりのあるチームにしていきたいと思っています」
高い打撃力に加えて、それを際立たせる強い個性を武器とする今年の嘉穂。かつて福岡県内の強豪と称されながら一度も届かなかった聖地に、到達するためのキーワードになってくるだろう。
[page_break:夏への試金石となるのは伝統の定期戦]夏への試金石となるのは伝統の定期戦
ノックを打つ遠藤靖監督
大きな武器を持つ一方で、秋季大会では課題も浮き彫りとなった。嘉穂は秋季福岡県大会の4回戦で、昨年の選抜出場校の東筑と激突。
「大きな力の差はない」と感じる中での対戦となったが、一つのミスから大量失点に繋がってしまい、結果は2対9で7回コールド負けを喫した。
秋季大会の敗北を踏まえて、主将の長野は現在のチームにはメンタル面に課題があると語る。
「東筑戦では、自分も含めて緊張からミスをしてしまいました。相手とはそこまで大きな差はないと思いましたが、一つのミスから崩れていき、最後まで投打が噛み合わずにコールド負けとなってしまいました。今振り返っても悔しい試合です」
秋季大会を終えて遠藤監督は、これまでよりも一層、日頃の練習から「考えて動く」ことを求めた。日頃から一人一人が考えて動くことで、それが個人の成長に繋がり、試合の中での自信にも繋がっていくのだ。
「遠藤先生からは『考え動け』といつも言われています。言われてからの数日間は出来るのですが、継続力がないところに自分たちの弱さがあります。言われなくても、一人一人が考えて動けるチームにしたいです」
主将として個性の強いチームをまとめる長野将大郎
そんな中で遠藤監督が、夏に向けた試金石として考えているのが、毎年夏の大会前に行われている嘉穂東との定期戦だ。
東京六大学野球の名物である早慶戦を、筑豊地区でもできないかというところから始まった伝統ある定期戦は、何と今年で106回目を迎える。定期戦は両校共に全校応援で行われ、学校をあげての行事となっており、夏の大会さながらの雰囲気が味わえるのだ。
「県内で定期戦という形で試合をするのは、恐らく嘉穂高校と嘉穂東高校が最初だと思います。
全校応援することで学校が一つになり、夏の大会の前哨戦として緊張感のある試合も経験できます。この雰囲気を経験して夏の大会に臨めることは、他の学校にはないことだと思います」
昨秋は怪我で戦線を離脱していた、エースの井筒誠志も復帰を果たすなど、夏に向けたチーム作りは着々と進んでいる嘉穂。まずは21日に開幕する春季大会で、古豪復活に向けた足が掛かりを作る。
(文・栗崎 祐太朗)