真の全員野球を体現して強豪私立に挑む! 検見川(千葉)野球部訪問 vol.2
vol.1では検見川高校野球部の酒井光雄監督が歩んできた教員生活を中心に、検見川高校の基盤となる部分に迫っていった。vol.2では検見川オリジナルの取り組みについて迫っていった。
チームの基盤を作り上げた特別な4年間 検見川高校 野球部訪問 vol.1
自分が背負った使命を試合で理解させる
ティーバッティング中の検見川の選手たち
酒井光雄監督は、特別支援学校勤務時代に、そこで出会った子どもたちに心を動かされた。そして、野球の基盤だけではなく、生きていくための基盤をそこでの4年間で作ってもらえたと感じていた。
同時に、「子どもたちの想いをつなげていくためにも、いつか高校野球の監督として、活躍してやる」と決心したのだった。
そんな強い決意をもっている酒井監督は、いくつかの取り組みをしている。そのうちの1つが、全員が試合に出場するというモノ。それは大会中であればベンチにいる20人全員が試合に出場、練習試合であれば部員全員が試合に出るという取り組みだ。
なぜこの取り組みをしているのかと問いかけると、2つの答えが返ってきた。
「生きている以上、人には必ず使命があります。その使命を果たすために、自分の使命は何なのか、それを気付かせる野球というか、自分の立場を考えさせるためです。でもその立場は、決して自分優先ではなくて他人優先です。」
他人優先の立場についての具体的なチームの取り組みとして、ホームランの話をしてくれた。
「打席のバッターがホームランを打ったとしても、次のバッターがいます。ウチのチームは打ったことを喜ぶよりも、次のバッターに対してその選手がどういう声をかけているのか、打った直後に次のバッターのことを考えてどんな打席を迎えさせるのか、それを選手たちに考えさせています。」
選手たちに指示を出す酒井光雄監督
さらに、全員を試合に出す意図の2つ目についてはこう話す。
「人間は一人では生きていけないので、自分優先で生きていると何も意味がないです。なので、常に選手には自分自身がリーダーとして生きていく中で、周りとどうやって関わっていかなければいけないのか考えてもらいたい。リーダーっていうのが自分優先ではなくて、そういうことができるリーダーとして試合に出場させたいんです。」
この2つの想いがあるからこそ、検見川は勝っていても負けていても、全員が試合に出場する。そうやって選手全員が自分の役割を果たすのが全員野球だと酒井監督は考え、本当に全員野球をしているのは検見川だけだろうと自信を持っている。
しかし、 時にはこの方針を理解してもらえないこともある。
「『何で全員出さないといけないんですか。それじゃ勝てないじゃないか』と。しかし、自分のことだけではなく、リーダーとして周りが見える人になってほしいので、大会だけではなく練習試合も含めて試合に全選手を出しています。」
監督という立場であればどうしても試合に勝ちたい、気持ちよく勝ちたいと思ってしまうが、それは考えられない。なぜなら、選手たちが野球をやっているのは、自分の人生のためであって、監督の人生のためにではない。だから勝利を最優先にはしない。
[page_break:私立に勝つために生み出した育て方・戦い方]私立に勝つために生み出した育て方・戦い方
綱を使ってトレーニング中!
「子どもたちのことを考えた野球しかやるつもりはありません」という酒井監督。特別支援学校時代から高校野球に向けて着々と準備をしていた。
「甲子園の近くのホテルで一週間ずっと泊まり続けて、春と夏の甲子園を見続けたり、千葉県の春と夏の大会も一通り足を運んで、チームの特色とか全部確認したり。それらを見て、自分が普通の県立高校のチームの監督になった時、どうしたら勝つための野球ができるか」を考えた。
こうした準備の末に編み出したのが、無駄を省いた練習だった。
「後ろで待機しているのが野球の練習でよくある光景だと思うのですが、ウチは誰も待機していません 。ティーが足りない時はマネージャーが投げてくれます。
そのマネージャーたちも選手たちのご飯を作るので、練習中に暇をしているのは誰もいません。そこがやっぱり違う独特な特徴かもしれません。」
後ろで待機している時間を省くことにした酒井監督。そして大会で勝つためにどうすればいいのか。甲子園と県大会の観戦を通じてあることに気づいた。
「ベスト8、ベスト4で対戦する時は強豪の私学しかいないです。それで私学の特徴って、投手が良くて長距離砲や先頭打者の足が速いんです。
だったらその子たちを塁に出さなければいいと。その野球であれば実力のない公立高校でも戦えるのかなと。そのためにも癖とか傾向とかを事前に見るようにして、頭脳野球で戦っています」
バッティング練習をする検見川の選手たち
キープレイヤーを抑えることと、そのためのデータ収集を大事にすること。これらを前提に、酒井監督は細かい野球であれば勝つことができると考えついた。
ではどれくらい細かいのか。
「無死、もしくは一死でランナー二塁のピッチャーゴロだったら、二塁ランナーはだいたい止まると思いますが、ウチはゴーです。
結局止まっていてもファーストに投げてバッターランナーはアウト。それはそれでいいですけど、もしそこで何かアクションを起こすとすれば二塁ランナー飛び出して、挟殺プレーを作らせる。
もし二塁ランナーがアウトになっても、その間にバッターランナーが二塁まで進んでくれればいいだけなので。けど、挟殺でミスをしてくれれば1点入るかもしれません。」
1つのプレーで3つ先のプレーまで常に想定していると酒井監督は語る。この細かさに、寺﨑涼投手は、「今はできていると思いますが、中学の時にそんなに細かいところまでやってなかったので、1年生の時はそんなプレーがあるのかと驚きました。
当時はなんでそのプレーが起きているのだろうと考えましたが、その間にひとつのプレーが終わって次のプレーに入っていました。結局練習中に頭の中に入れることができず、家でノートにメモをするようにしないとわからないぐらいでした。」と語る。
主将である小見山颯生は、「入学前に酒井先生とお話をさせて頂いた時から、野球に対する考え方が細いと凄く感じていました」と語った。
vol.2はここまで。最終回となるvol.3では酒井監督の野球の考え方の原点、そして春への意気込みについて語ってもらいました。vol.3もお楽しみに!
(文・編集部)