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緻密な「ノーサイン野球」で古豪復活の狼煙をあげる 小倉工(福岡)

2019.03.10

 春夏合わせて17度の甲子園出場を誇る小倉工。福岡県内でも指折りの古豪は、6年前に若干24歳だった牧島健監督が就任して以来、年々成績は上がっており、昨年の秋季福岡県大会では2年ぶりにベスト4進出を果たした。

 だが、そんな小倉工の練習環境は決して恵まれている訳ではない。グラウンドは他の部活と共用のため、普段はフリーバッティングすら行うことが出来ず、実践練習も限られた中での練習となる。
 そんな中で小倉工は、いかにして力をつけていったのか。その根底には青年監督が編み出した大胆かつ、緻密な戦略があった。

選手自身が状況判断を行う「ノーサイン野球」を実践

緻密な「ノーサイン野球」で古豪復活の狼煙をあげる 小倉工(福岡) | 高校野球ドットコム
タイヤを叩く打撃練習を行う小倉工の選手

 今年の小倉工の特徴は、間違いなく打撃力だ。俊足巧打の1、2番コンビ、木村一翔本木優翔がチャンスメイクし、1年生ながら高校通算11本塁打を放つ長距離砲・久木田和志へと繋がっていく打線は県内でもトップレベルの得点力を誇り、新チーム結成直後の北九州市内新人野球大会では4試合で35得点、秋季福岡県大会でも6試合で47得点を叩き出した。

 だが小倉工を率いる牧島健監督は、打撃力には一定の自信を持っていることを認める一方で、それだけでは強豪がひしめく福岡県を勝ち抜くのは難しいと語る。

 「バッティングに自信はありますが、打てない投手と対戦したら結局、終わりです。ここ数年でも、そのようなことが何回かありました。もうそんな負けはしたくないと思っています」

 そこで牧島監督が2年前から実践しているのが、選手自身が状況判断を行なってプレーしていく「ノーサイン野球」だ。「ノーサイン野球」と言えば、昨年の第100回選手権大会で常葉菊川が実践していたことでも話題になったが、フルスイングを信条としていた常葉菊川の「ノーサイン野球」とは、真逆の道を小倉工は行っている。

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フリーバッティングが出来ないためバックネットに向かって打撃練習を行っている

 ゲームプラン、相手投手の出来、試合展開など、その時の状況を選手全員が読み切り、考えてプレーする「ノーサイン野球」を牧島監督は求めたのだ。

 「ゲームプランは先に言いますし、責任を持つために勝負どころではサインは出します。でも、あまりこっちが言い過ぎると考えることを止めてしまします。かなり高いこと求めていると思いますが、この環境の中でできることは何かを考えたときに、選手自身が考えてプレーことが重要だと思いました。そしてそれは、人間力の向上にも繋がります」

 牧島監督が目指す「ノーサイン野球」は、昨年の秋季大会で真価を見せた。準々決勝の九産大九産戦で、小倉工は2点のビハインドを背負った状態で最終回を迎える。連続でヒットで無死一、二塁のチャンスを作ると、打席に迎えるのは6番の常軒。バントも考えられる場面であったが、相手投手の球威が落ちていることを感じ取った常軒は、強行策に出て中前タイムリーを放つ。1点差に迫った小倉工は、その後同点に追いついて、延長で一気に逆転。「ノーサイン野球」ががっちりとハマり、ベスト4進出を決めたのだった。

 牧島監督の高い要求に対して、選手たちは苦労を見せる一方で、今の自分たちにとって大事なことであると前向きに捉えている。主将の本木優翔は、牧島監督の厳しい指導を次のように語る。

 「求めるものも高いですし、牧島監督のような厳しい先生は今あまりいないと思います。ですが、逆に自分たちにとってはそういう先生がいた方が強くなると思っています」

[page_break:駆け引きがあって見応えのある野球を子どもたちに見せたい]

駆け引きがあって見応えのある野球を子どもたちに見せたい

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小倉工の主力を務める左から本木優翔、木村一翔、高橋駿介、久木田和志

 選手たちに自ら考えてプレーすることを求める牧島監督は、今年のチームに関しては少しづつ選手たちが考えて行動が出来るようになってきたと話し、一定の手ごたえを口にする。
 だがその一方で、チーム全体の力としては、まだまだ私立の強豪校には及ばないと感じており、更なるレベルアップを選手たちに求める。

 「力があるチームではないです。でも、ここまでは不思議と勝っていくチームでした。
 今の2年生(新3年生)は一年生大会で準優勝したチームなので、もしかしたら『勝つ感覚』は選手たちの中にあるのかもしれません。その分、どこかで負けるときが来るだろうと思ってしまいます」

 また選手たち自身も、強豪校にはまだまだ力が及ばないこと感じている様子を見せる。主将の本木は、現在の自分たちの課題を振り返り、更なるレベルアップの必要性を強く語る。

 「自分たちは終盤に弱くて、それが克服できずに流れに持っていかれて負けてしまいました。また、守備でもが守っている時間が長かったり、ミスしても切り替えができない選手もいるので、そういうところを改善できるようにやっています」

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牧島健監督と崎村諭コーチは共に福岡工大城東から東海大の経歴を歩んだ

 これらの課題を克服していく上で、牧島監督が選手たちに求めたのが、ここでも「自ら考える」ことであった。小倉工では練習メニューも選手たちで考えており、チームの現状や課題を踏まえて、どんな練習を行えばレベルアップできるのかを、主将の本木を中心に日々試行錯誤している。

 「牧島先生からは、根拠のあるプレイをしろとよく言われます。なぜこのプレイをしたのか説明できるようにしろ、常に考えることが試合で勝つことに繋がるといつも言われます」

 対外試合が解禁となり、春季大会開幕まで早くも二週間を切った。小倉工は、1回戦で八幡と対戦することが決まっており、同じブロックには昨年の第100回選手権北福岡大会の代表校である折尾愛真もいる。今年の福岡県も激戦区の様相を見せるが、チームを率いる牧島監督に、最後に春季大会や夏に向けて意気込みを語っていただいた。

 「今の選手は、ドカベンのような駆け引きのある野球漫画も読んでなくて、プロ野球を見ない選手も多いです。駆け引きがあって、見応えのある野球を子どもたちに見せたいと思っています。
 春は九州大会出場を目指して、優勝できるように頑張っていきます」

 福岡工大城東から東海大と強豪チームを渡り歩いたエリート監督が、2019年に古豪復活の狼煙をあげる。

(文・栗崎祐太朗

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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