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強い共栄をセンバツで示す 春日部共栄【後編】

2019.02.28

 新チーム指導と共に大きな改革を行い、県大会優勝を遂げた春日部共栄。後編では、関東大会の横浜戦で最速153キロ左腕・及川雅貴を攻略した舞台裏を追っていく。すると意外な事実が見えてきた。

及川雅貴はどうやって攻略したのか?

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関東大会での春日部共栄

 秋季大会では、エース・村田賢一が投打の大黒柱へ成長。本多監督から言われた「ガラスのエース」を返上し、頼れる存在となっていた。

 ところが関東大会初戦の藤代戦は、まさかの不調で、7対6と辛くも勝利。いよいよ横浜戦に臨む。横浜を倒すにはエース・及川雅貴の攻略が必至だ。春日部共栄の対策は左腕の打撃投手を約16メートルの位置から投げさせるというもの。とは言っても、この対策をしたのは試合開始の4時間前で、「正直いって対策としては今一つですよね」と村田は苦笑いする。
 実際、ゲーム序盤の感想を聞くと、選手たちの答えは予想通りのものだった。

 「ボールが見えなかったです」(村田)
 「指が離れた瞬間にボールがミットに入っていました」(森 飛翼
 「速くて、きわどいコースは手が出ないほど速かったです」(平尾 柊翔
 「とにかく速かったです」(石崎 聖太郎
 「マジで速かったです」(平岡 大典
 1回裏、1番黒川 渓、2番木村 大悟が空振り三振。
 植竹幸一部長は「ベンチからは本当に速い、速いという声があがっていましたね」と振り返る。

 だが3番・平尾の場面で風向きが変わった。平尾は四球で出塁した場面をこう振り返る。

 「ボールだと思ってしっかりと見逃した球はあまりなく、きわどいところは全く手が出ませんでした。ただ最後に四球になったのは、明らかなボールでした」

 そして4番・村田も四球で出塁。

 「速くてなかなか見えなかったのですが、最後のボールは明らかに四球だと思いました」。そして、5番・石崎も四球。

 「ストレートにヤマを張っていました。四球になったボールはスライダーだったのですが、余裕を持って見送りました」

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4番でエースの村田賢一(春日部共栄)

 そして満塁で平岡。フルカウントの場面。平岡はこう割り切っていた。

 「ストレートに狙いを絞っていました。スライダーがきたらごめんなさいという心境でした」

 狙い通りのストレートが来ると、強振。
 打球は右中間を鋭く切り裂き、走者一掃の二塁打で3点を先制。平岡は笑顔でこの場面を振り返った。

 「正直、出来過ぎの打撃でした。今でもあんな打撃ができたのは信じられません」

 平岡の一打でチームは勢いに乗った。石崎も「先制点を挙げたいと思っていたので、気持ちが楽になりました」と平岡をたたえた。そして2回裏には8番・森が打席に入った。チームでは一番の飛距離を誇り、練習試合を含めるとチームトップの5本塁打を放っている。植竹部長が「心優しい力持ちなんですよね」と植竹部長が評する森は、大仕事を果たした。及川のストレートを捉ると、打球はレフトスタンドへ吸い込まれた。

 「本当に速かったんですけど、ストレートを振ったら当たっていました。でも、手ごたえはばっちりでした」と本塁打の場面を振り返る。さらには村田も本塁打を放ち、及川を3回途中で降板させた。打線はその後も勢いに乗り、チームはコールド勝ちを決めた。

 植竹部長はこのコールド劇を見て、「子供たちの成長ってすごいなと思いました。2005年の甲子園に出場したときは、辻内投手(大阪桐蔭)対策としてマシンを150キロ以上に設定しました。最初は全く当たらないんですが、2日くらい経つと選手たちガンガン本塁打を打ちました。そして、実際に試合でも辻内君を攻略しました。横浜戦での素早い対応力は、その一戦を思い出すものでした」と目を細める。

 こうして強い共栄を取り戻すための「改革元年」は、関東大会準優勝という形で終えることができた。

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センバツで勝つために星稜を想定して

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左から石崎聖太郎、平尾柊翔(春日部共栄)

 春日部共栄は年末の8日間、高知県黒潮町でキャンプを行った。メニューは球場での実戦練習から、砂浜の走り込みに至るまでまさに野球漬けの毎日となった。

 村田は「とにかくきつかったです」と振り返り、石崎も「走り終わった後の達成感は凄かったです」と感慨にふけった。

 1月末に選抜出場が決ったことで、植竹部長によると、チームのモチベーションはさらに高まったという。

 「選手たちの自覚が伝わってきますし、チーム全体として良い雰囲気で来ていると思います」と語り、石崎も「みんなも僕自身も、高い意識で野球に取り組めています」と語る。

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「KYOEI」の文字が入った特製のトレーニングバット

 センバツでの躍進を目指し、練習に励む春日部共栄ナイン。石崎は星稜を意識して練習しているという。

 「特に捕手の山瀬慎之助選手にはスローイング面では負けたくないです。エースの奥川恭伸投手は高校生なのか?と思うぐらい凄い投手。でもあのレベルの投手を打たなければ勝ち進むことができないので、奥川投手を想定して打撃練習をしています」

 関東大会で横浜・及川投手を攻略した時と同様に、甲子園でも高い目標を掲げる姿勢に春日部共栄の強さの一端がうかがえる。

 コーチと選手が対話を続け、適度な緊張感と明るい雰囲気で練習に取り組む春日部共栄の選手たち。強い春日部共栄を甲子園で示し、全国に向けて復活を証明する。

(文・河嶋 宗一

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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