佐野日大の秋の躍進を生んだ「団結力」と「守備力」の秘密【前編】
佐野日大高校へ訪れたのは、選抜甲子園の出場校が発表される2日前。選抜への出場は当落線上と見られていただけに、落ち着かない気持ちがチームに流れているのではないかと予想していた。
しかし実際に訪問すると、以外にも吹っ切れたような表情で練習に打ち込む選手の姿があり、筆者の予想は見事に外れた。
結果的に選抜甲子園への出場はならなかったが、佐野日大を率いる麦倉洋一監督を始め、選手たちは皆口を揃えてこう話す。
「選抜はないものと考えてやっています」
今回は、そんな佐野日大の麦倉監督と主将の八ツ代敢大(やつしろかんた)にお話を伺い、秋季栃木大会を制すことができた要因、そして夏へ向けた課題と意気込みなどを伺った。
学年でチームを分けたことで生まれた「団結力」
麦倉洋一監督(佐野日大)
佐野日大が秋季栃木県大会を制したのは、2013年の秋季栃木県大会以来となる。当時の佐野日大は、プロ注目で絶対的エースだった田嶋大樹(現オリックス)を中心に高い総合力を持つチームであったが、今年のチームは少し状況が異なる。
「今年のチームは、目立つような選手はいません。ヒットは出ても長打は出ませんし、ホームラン0本で県大会を優勝したのはウチのチームくらいだと思います」
そう語るのは、佐野日大を率いる麦倉洋一監督だ。では個の力がない中で佐野日大が秋季栃木県大会を制すことが出来た要因は、いったいどこにあるのだろうか。
ここでまず麦倉監督が挙げたのが、チームの団結力だ。
ティーバッティングの様子
「昨年から3年生をAチームとして、2年生以下をBチームとするようにしました。上級生の中に下級生が入ると遠慮するというのが見えてたので、学年でチームを分けて、秋からのチームを目指そうということで今の2年生はやってきました」
前チームから2年生だけのチームで動いていたことで、3年生が引退するよりも前にチーム作りを進めることができ、2年生としてのチーム力を高めることができた。これこそが、麦倉監督が秋季栃木県大会優勝の要因として挙げた「団結力」の正体だ。
「Bチーム単独でよく練習試合に行ってもらっていました。団結力もありましたし、一つ成功したな、間違ってなかったかなというのは感じています」
[page_break:固い守備を作り出したのは「先を読む意識」と「松倉の制球力」]固い守備を作り出したのは「先を読む意識」と「松倉の制球力」
先頭でストレッチを行う主将の八ツ代敢大
また、佐野日大の野球を語る上で欠かすことができないのが、堅い守備力だ。秋季関東地区大会でもひと際目立っていた堅い守備は、チームの持ち味として日頃から特に意識を高く取り組んでいると、主将の八ツ代敢大は話す。
「守備に関しては、捕れる球は100%捕れるように練習しようというのは、監督さんからも言われていますし、選手もみんな意識してやっています」
この「100%捕れるようにする」という言葉を実践していくために、麦倉監督がグランドでよく口にするのが「先を読んで守れ」ということだ。打順やランナーの有無、カウントなどの情報から、次に起こりうるであろうプレーを頭の中で準備しておくことで、「捕れる球は100%捕れる」状況を作り出すことができるのだ。
「打球に対して、一歩目でしっかり動けることが大事です。そのためにポジショニングに関しても、私は結構動かします。栃木県は人工芝の球場もありますので、インフィールドから出て守れとか、データで引っ張る傾向のバッターなどもわかるので、塁線に寄ったりですとか。
そうすれば、キャッチャーもサインを出しやすいと思いますし、野手も先を読んで守りやすくなると思います。すべて繋がってきますよね」
守備練習の様子
だが、これらの全てはコントロールが良く、ある程度打球方向が読めるピッチャーがいてこそ成り立つものだ。つまり今年の佐野日大には、「捕れる球を100%捕れる」状況を作り出せる投手が存在する。その投手こそが、チームのエースである松倉亮太だ。
「松倉は、ボールにキレがありコントロールが良い投手です。松倉が安定しているので、守備に関してもある程度いけるなというのがありました。派手さはないですけど、みんな本当に守ってくれます」
麦倉監督は、松倉に対して大きな信頼を寄せている。
捕れる球は100%捕れる練習が出来ており、尚且つある程度の打球方向が読めるコントロールを持つ投手がいる。この状況を作り出せたことで、佐野日大は文字通り「守備からリズムを作る」ことができ、秋季関東地区大会に進出することができたのだ。
前編はここまで!後編ではこの冬場の取り組みや夏に向けた意気込みについて迫っていきます。後編もお楽しみに!
(文・栗崎 祐太朗)