丁寧に築き上げた藤代の城壁!戦いを通じて形になった堅いディフェンス【前編】
県立校ながら01年のセンバツ初出場を皮切りに、春2回、夏3回の甲子園出場を誇る藤代。美馬 学(楽天)や井坂 亮平(元楽天)といったプロ野球選手を輩出して甲子園では3勝。
現在も常総学院、霞ヶ浦、土浦日大、明秀日立など強豪私立がひしめく茨城にあって奮闘し、昨秋も茨城大会で準優勝と見事な戦績を収めて関東大会にも出場した。そんな公立の雄を率いる菊地 一郎監督に、今季のチームの足跡を振り返ってもらった。
心のリフレッシュでほぐれた緊張
藤代 菊地一郎監督
1学年上の昨夏のチームと比べると、今季は苦戦を予想していたという菊地監督。
「昨年は140キロを投げるピッチャーが3人いて、サウスポーなどのバリエーションもありましたが、今年は実戦経験が少ない投手ばかりで実力も未知数。打線もパワーが劣っていたので『一年かけて鍛え、夏に勝負』と考えていました」
そんな状況のなかで、菊地監督が目を付けていたのは投打以外の部分だった。
「公立校は(実力のある選手が安定して多く入ってくるわけではないので)集まった選手の長所を突き詰めて、毎年、強化するテーマを変えるのですが、今年は守りがきちんとできて、足の速い選手が多かったんです。ですから、『守り勝つ野球』をテーマに掲げました」
新チームは昨年7月下旬に始動。8月中旬には秋季大会のシードを決めるための大会が開催されるため、「すぐに試合ができるようにランナーを付けたノックをして、『このシチュエーションでは、こういう守り方するんだ。こう動くんだ』というフォーメーションの約束事を確認していきました」と、実戦に近い練習を繰り返した。しかし、そのシードを決める県南選抜大会では同じ公立の竜ヶ崎一に敗戦。しかも「一方的にやられてしまった」ということもあり、チームは暗く沈んだ。
そこで、菊地監督は思い切った策に出る。
「8月末に4連休を与えました。元々、ウチは『力がないんだったら、人一倍、練習をしなければならない』という考え方なので練習はしっかりとやるチームなのですが、選手に精神的な疲れが見えていたので休みを取らざるを得なかったというのが正直なところです。この時期に練習を休みにするのは私にとっても初めてのことでしたし、選手もどうしていいのか分からない様子でしたね」
そんなチーム状態のため、秋季大会ではまず地区大会を突破するのが目標だったという藤代。だが、連休を取ってリフレッシュしたことで状況は好転していった。
県南地区大会の代表決定戦・牛久栄進戦では4回裏に一挙、8点のビッグイニングを作ると5回裏にも2点を挙げて10対0のコールド勝ち。「実は一昨年の秋に県大会への連続出場記録が途切れたのですが、今年の選手たちには『実力のある先輩たちでも出場できなかったのに、自分たちが行けるのか』という不安があったのだと思います。でも、県大会へ勝ち上がることができたので、みんながホッとしてチーム内の緊張感もほぐれていったんです」
成長と課題が見つかった秋季大会
鉄球を使ってトレーニングをする選手たち
茨城大会では攻守がかみ合い、あれよあれよという間に勝ち進んでいった。特に投手陣は好調で、初戦の水戸葵陵戦と続く3回戦の守谷戦は小島 拓也が好投。すると、準々決勝では中山 航が強豪・霞ヶ浦を3安打1失点に抑える完投勝利を挙げた。
準決勝の石岡第一戦ではリリーフのマウンドに上がった小島が再び力投。延長13回のタイブレークまでもつれる接戦を制し、ついに決勝戦まで駒を進めることとなった。
「準々決勝は中山、準決勝は小島がよく投げてくれました。ただ、決勝まで進めたのはこの2人の力だけではなく、守備力が備わっていたことも理由の一つです。毎朝、1時間弱の朝練で内野手は手で転がしたゴロを延々と捕り続け、外野手は後方へのフライをキャッチする練習をしています。入部した時からずっとそうやってグラブの出し方や足の運び方といった守備の基本を作ってきたことが、今、形になってきて大会で活きているんです。
特に今年のチームは謙虚な選手が揃っていて、地味な練習でも、丁寧に淡々とやることができる。それが接戦での強さにもつながっているのかもしれません」。
主将を務める藤井 皓大も「野手陣はみんな真面目で『しっかりと練習をしよう』と声をかけたら、みんなきちんとやってくれるんです」と話しており、「昨年の秋季大会前はランナー付きのノックできちんと状況判断をすることができずに怒られてばかりで『県南地区大会で勝つのが精一杯のチーム』と言われてきましたが、試合をするごとに上手くなっていった感覚があって、それが結果につながったのだと思います」と振り返る。
打力アップのためにもバットを振り込む!
しかし、決勝戦の常総学院戦は0対15の大敗を喫した。「言い訳になってしまうのですが、昨秋は大会の日程が厳しくて9日間で5試合を戦わなければいけなかったんです。しかも、ウチは接戦続きでコールドもなかったので試合前から体力的にヘロヘロ。ですから、投手陣の出来が悪かったですし、打者はバットが振れていないところに速球派のピッチャーをぶつけられてしまい歯が立ちませんでした。
ただ、3点ビハインドの4回表に無死満塁のチャンスを作り、相手も1点をやっていいという守備隊形をとったのにも関わらず無得点に終わってしまうシーンがありました。あそこで1点でも返しておけば、その後の展開も変わっていたはずなので、そういった試合のポイントをモノにできない弱さがあったのだと思います」。
一方、藤井主将も常総学院との力の差を感じていた。「試合前は『勝ってやろう』という気持ちでいたのですが、常総学院の打線は想像以上で、能力の高さを感じました。
試合後、監督からは『この点差が今の差。もっと練習をやらないとひっくり返せないぞ』と言われ、本当に情けない気持ちだったのですが、その後のミーティングで『課題を克服していこう』と話し合ったんです」。
その課題とはバッティングだった。「常総学院戦では相手投手のどのボールを狙っていくのかを深く考えることができていませんでした。だから、完封されてしまったので、バッティングを強化していこうということになったんです」
前編はここまで。後編では関東大会での戦いを振り返ってもらいました。そして春に向けてトレーニングを続ける藤代が目指すゴールはどこなのか、話を伺いました。後編もお楽しみに!
(文・大平 明)