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松山聖陵(愛媛)「非全力・慎重起用・開かない」が投手育成の出発点【前編】

2019.01.25

 2016年夏、創部47年目での甲子園初出場に続き、昨年・今年とセンバツ連続出場が濃厚で四国屈指の強豪の座を確固たるものとしつつある松山聖陵。そこには2019年ドラフト指名を目指す、嘉陽宗一郎(亜細亜大~トヨタ自動車)、昨年52試合登板で6勝2敗5ホールドのアドゥワ 誠(広島東洋カープ)。そして千葉ロッテマリーンズ8位指名のルーキー・土居 豪人に代表される「好投手輩出」が大きなファクターを秘めている。

 では、なぜ松山聖陵はこのように次々と好投手を創り出せているのだろうか?今回は荷川取 秀明監督と、来るセンバツでも活躍が期待される根本 大蓮(2年主将・投手)にご協力頂き、これまで高校球児・指導者にも大いに参考になる「投手育成メソッド」の一端を3編にわたってお伝えしていく。前編はメカニズム練習の前提となる考え方について指揮官が3人のエピソードも交えて語っていく。

「心の野球」「全員野球」と対をなす「投手育成メソッド」

松山聖陵(愛媛)「非全力・慎重起用・開かない」が投手育成の出発点【前編】 | 高校野球ドットコム
松山聖陵の集合写真

 「本当は全員で練習をしてもいいんですけど……。ここで許したらダメなんです」
2018年1月8日。3学期始業式後の練習。黙々と草抜きを続ける1年生たちをみやりながら、荷川取 秀明監督がつぶやいた。その1年生が草抜きをしている理由は「寮内のスリッパをそろえていなかったから」。「心の野球」「全員野球」を掲げるチームの絆を乱す行動には徹底して改善を促す。これが今年、創部50周年のメモリアルを迎える松山聖陵野球部における本質である。

 そのためには指導者側の選手観察が不可欠。事実、昨秋における彼らの勝ち進みは「いい状態の時に結果を出せてあげたい。控え選手が頑張れる雰囲気を作ってあげたい」指揮官のタクトなくしてはありえなかった。中でも愛媛県大会準決勝で聖カタリナ学園にコールド負けし、剣が峰で迎えた3位決定戦・今治西銭は圧巻だった。

 先発マウンドに立ったのは、公式戦は春の四国大会でリリーフ登板したのみの1年生右腕・平安山 陽。「あの試合の悔しさを持ってリリースポイントを前で離すトレーニングに取り組んでいたので、そのエネルギーを出してくれればと思っていた」荷川取監督の願いは「初回から飛ばして、いけるところまで行こうと思った」平安山自身のモチベーションと見事に合致する。

 最速137キロを叩き出し8回3失点でチームを四国大会に導いた背番号「12」の力投は、エースナンバーを背負う根本 大蓮(2年主将)の奮起をも引き出すことに。四国大会準々決勝では平安山が川島打線を13奪三振1失点完投で封じると、センバツ切符がかかった準決勝・富岡西戦は6回3失点の平安山を継いだ根本が「(準決勝敗退の)せんぱいたちを超える」気持ちを前面に出し3回無失点リリーフで締めた。

 かくして2年連続のセンバツ切符を手にした松山聖陵。ただ、この平安山の台頭を荷川取監督は半ば確信していた。そう、この投手になぞらえて。「土居(豪介・2018年ドラフト・千葉ロッテマリーンズ8位指名)と同じ道でした」

 そう、これこそが監督室内にもある無数の野球技術本などを参考に荷川取監督が独学で積み上げた「松山聖陵・投手育成メソッド」。1学年下の安樂 智大済美~東北楽天ゴールデンイーグルス)らと共に愛媛県を代表する右腕に成長した嘉陽 宗一郎(2013年度卒・亜細亜大~トヨタ自動車)がエースの時代に効果を表し始め、その後、アドゥワ 誠(2016年度卒・広島東洋カープ)、土居と引き継がれた系譜は、平安山や根本らにも着実に浸透している。

[page_break:「開かない」正しい投げ方到達までは「非全力・慎重起用」]

「開かない」正しい投げ方到達までは「非全力・慎重起用」

松山聖陵(愛媛)「非全力・慎重起用・開かない」が投手育成の出発点【前編】 | 高校野球ドットコム
独自の「投手育成メソッド」を持つ荷川取秀明監督

 「身体を開かない」を軸にした「投手育成メソッド」。技術的アプローチ法は中編以降に記すとして、その大前提となるのは指導者側が各投手の特徴をつかんだ上で、「無理をしない投げ方を教える」ことである。

 「投げて痛みが出るということはどこかに無理をしていること。だから、負荷のかからない投げ方を根気強くしてやっていくことが大事です」。そのためには我慢が必須。よって最初に記した「心」を鍛えることが自ずから求められるというわけだ。

 もう1つ。荷川取監督が松山聖陵の投手たちに教えていることがある。「非全力=力まない」。実際に投球練習の過程を見ても最初はストレートのバランスを取りながら5割、次に同様の形で7割程度。全力投球は数えるほど。さらにスライダーを投げた時は、ダウンのキャッチボールはスライダーと手を逆に捻るチェンジアップで締め、日によっては利き腕と逆の手で投げることもある。ケガを最大限防止するケアも忘れてはいない。

 「全部力投していては1試合は持たない。実際の公式戦での勝負は1球で決まるわけではありませんから」。よって練習試合登板も入学時の1イニング程度から徐々に排気量を高め、最終学年にスペックを最大に持っていく手法を取る。

松山聖陵(愛媛)「非全力・慎重起用・開かない」が投手育成の出発点【前編】 | 高校野球ドットコム
左から松山聖陵時代の嘉陽宗一郎、土居豪人、アドゥワ誠

 入学時から190センチを超える身長で話題を呼んだアドゥワ 誠の場合もそうだった。「すぐ身体が突っ込むし軸足を残せない」悪癖を発見した荷川取監督は、1年夏はベンチからあえて外し、1年秋から2年夏までも2番手格に留め投球間隔をコントロール。「軸足が骨盤に乗る時間・タメを作る」感覚を植え付けた上で最終学年で主戦とした。昨年の一軍デビュー時、最速130キロ中盤でもピンチをしのげた理由は、ナチュラルに手元で変化するストレートと同時に、指揮官が発する「基本!」の掛け声と共に日々ボールを最後まで極力隠すフォームに取り組んできた賜物と言えるだろう。

 また、嘉陽の場合は2年夏の状況を見て新人戦では登板を回避。「プールトレーニングなどで気持ちと身体を休めさせた」結果が最後の夏・147キロにつながった。

 「まだ完成品でない」と指揮官も認める土居はさらに慎重な起用法を選択。1年8月に聖カタリナ学園から転向してからの1年間は練習試合登板も「感覚を忘れない程度」に留め、147キロを出したセンバツ後もトレーニングを積みながら出力を調整。そしてある練習試合の最終回に「リミット解除」の指令を出し148キロ。これがスカウト陣の目に止まり「力がある」と認知してもらったことが、千葉ロッテマリーンズドラフト8位指名の一因となった。

 「じゃあ、実際にやってみましょう」。かくして過去の選手を引き合いに理論を語った荷川取監督が動いた。マウンドに呼ばれたのは188センチの根本。なんと、今度は実際の投球メカニズムを荷川取監督が自ら解説してくれるという……。

(文・寺下友徳

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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