6年間の集大成を全国の舞台で!甲子園優勝へ突き進む札幌大谷(北海道)【後編】
前編では明治神宮大会を制するまでの道のりを振り返ってもらいつつ、新チーム結成時から着手した打撃に力を入れた指導方針への変革について話してもらった。後編では守備の話を伺いつつ、春先への意気込みを語ってもらった。
常識を打ち破って上り詰めた頂点!創部10年で神宮大会を制した札幌大谷(北海道)【前編】
想像以上のスピードで進化したチーム
全体アップでしっかり身体をほぐす札幌大谷の選手たち
力を入れた攻撃面ではもちろんだが、投手陣を含めた守備面でも選手たちは成長した。
札幌支部予選、全道大会と調子の上がらなかったエース・西原健太に代わって、頭角を現したのが太田流星(2年)。もともと試合をつくる救援投手としてチームになくてはならないサイドハンドだったが、全道大会初先発となった準々決勝では、強打の白樺学園打線を5安打1失点10奪三振の完投勝利。
さらに準決勝は8回1/3、決勝では7回と、いずれも序盤で崩れたエースに代わってロングリリーフでチームを勝利に導いた。全国舞台でも準決勝の筑陽学園戦であわやノーヒットノーランの快投を演じた。
また、守りの要である捕手の飯田柊哉主将は、5日間で4試合という明治神宮大会で、相手を分析する時間がほとんどない状況の中、試合での観察力に磨きがかかった。
「太田に関しては、練習試合であんなに抑える印象はなかったんですけどね。予想以上というか期待以上でした。飯田もぶっつけ本番の試合が続く中で、相手チームをよくみてリードしてくれました」と、指揮官は想像を超えるスピードで進化してく選手たちを頼もしく見つめた。
中高一貫指導体制を支える豪華指導陣
五十嵐 大コーチ(左)はじめ豪華なスタッフで選手たちを支える
札幌大谷が創部10年目で秋の頂点に立った大きな要因の一つには、中高一貫指導体制がある。
札幌大谷中には道内唯一の硬式野球部があり、今回の明治神宮大会のメンバーも18人中10人が同中学出身。中、高6年間のスパンで選手育成、チーム作りが行われている。札幌大谷の初代監督でもある太田英次さん(51)が中・高、さらには大学の総監督という立場で、各世代の橋渡し役としてコミュニケーションを図り、野球部を総合的にプロデュース。月に1度のミーティングで指導者間の情報を共有し、強化してきた。
指導者の顔ぶれもそうそうたるものだ。
船尾隆広監督は社会人野球の新日鉄室蘭、NTT北海道で10年連続都市対抗野球に出場。97年インターコンチ杯では日本代表として世界一も経験している。五十嵐大部長(31)は04、05年と夏の甲子園を連覇した駒大苫小牧のメンバー。
前監督で現在は中学のコーチを務める五十嵐友次郎さん(47)は、大昭和製紙北海道などで内野手として活躍。大学の神田幸輝監督(46)はJR北海道の元エースで、太田総監督も大昭和製紙北海道出身で、我喜屋優監督(68=現興南監督)のもとでマネージャーを務めた経験も持つ。
秋の頂点に立った今回も、この指導体制が機能した。
札幌支部予選、全道大会とまったく自分の投球ができなかったエース・西原は、全道大会が終わるとすぐに大学の神田監督のもとを訪れた。「自分でも何が悪いのかわからなくなっていました。神田監督に相談して、すぐにフォームチェックしてもらいました」と右ひざの使い方を指摘され矯正すると、あっという間に本来の投球がよみがえってきた。
「そこだけ意識すれば、勝手にいい球がいくようになりました。変化球のコントロールも安定しました」と、明治神宮大会までの短い期間できっちりと仕上げ、全国の舞台でその真価を発揮した。
スイングスピードアップで全国制覇を目指す!
船尾監督の思い切ったチーム作りと、中高一貫指導の中で着実に積み上げられてきた実力でつかみ取った秋の栄冠。それでもあくまでチームが目指すのは、甲子園での全国制覇だ。
「この優勝はもちろん自信にはなりますけど、神宮大会優勝を目標にやってきたわけではありませんから。そのためにやることもちゃんと持ち帰ってきましたしね」と船尾監督。
決勝の星稜戦で7回途中から登板してきた今秋のドラフト1位候補・奥川恭伸(2年)に、手も足も出なかったことが、チームの強烈なモチベーションとなっている。
スイングスピードを上げるため、試合で使う金属バットよりも100グラム軽い木製バットを振り込むことで、速いスイングを体に染み込ませている。また投手陣は、スケートの練習で使うスライドボードを導入して下半身の強化に努め、球速アップを図っている。
「まだまだ力は足りない。ただこれまでなら“目標は全国制覇”といっても、“何言ってんの”と思われていたでしょうけど、これからは堂々と“目標は甲子園優勝”と言えますから」と船尾監督。秋を制した新鋭校が、夢舞台でどんな姿を見せてくれるのかが楽しみだ。
(文・京田剛)