Column

県立高松商(香川)「超伝統校のモダンベースボール」さらなる高みへ

2019.01.24

 昨秋は香川県大会、四国大会を制し明治神宮大会でもベスト4。昨年涙を呑んだセンバツ出場に堂々と青ランプを灯した香川県立高松商業高等学校野球部。1909年創部・1924年の第1回センバツ優勝をはじめ過去春2回・夏2回、国体1回の優勝を誇る超伝統校である。
 その中でも2016年には前年、明治神宮大会初Vの勢いそのままに強打を軸にする「モダンベースボール」でセンバツ準優勝まで駆け上った彼らは、4年の歳月を経てさらなる高みへ進もうとしている。

「自己評価シート」を交えての「他己評価」

県立高松商(香川)「超伝統校のモダンベースボール」さらなる高みへ | 高校野球ドットコム
甲子園出場ベンチ入りメンバーが刻まれたモニュメント前で集合写真に収まる高松商の選手たち

 「ここね。どうだろ、お前はどう思う?」「でもさ、これはできていたんじゃないか?」「いや、できてないだろ!」「なんでできなかったの?」

 2019年・高松商の練習はじめとなった1月4日午後。選手たちの姿はグラウンドでなく会議室に。そしてボールでない、数人ずつに分かれての言葉でのキャッチボールが繰り広げられていた。彼らの目の前に広げられたのは……。3年前のセンバツ出場時にも導入されていた「自己評価シート」である。

 ここは少々説明が必要だろう。この自己評価シートは高松商の選手がマンスリーで使用するもの。まずは各月の当初時期にまずキャッチコピーを記し、野球面では技術面・体力面(目標体重)・メンタル面の3項目。人間面では生活面と学習面の2項目について「目標設定」と「目標設定のためにやるべきこと」を明記。最後にセルフウォーミングアップの方法を記入して1か月間トレーニングルームに掲げ、翌月当初に達成度を100%中〇〇%で自己評価する。

 選手たちにとっては明確に成長の進捗度を知れると同時に、一塁側ベンチのホワイトボードに記すデイリー目標への落とし込みも容易。加えて長尾 健司監督をはじめとする指導者側にとっても、アドバイス面で的確なアプローチを行うことができる。まさに「一石二鳥」だ。

 事実、2015年から2016年はこの自己評価シートを最大限活用した選手たちが次々と壁を打ち破っていった。神宮の杜でてっぺんに立ち、聖地を驚愕させた高松商躍進の一端はこの「自己評価シート」にあったと言っても過言ではない。

 ただ、「今回が初開催です」と長尾監督が私たちに告げたミーティングはちょっと毛色が違う。自己評価というよりも周りを評価する要素が強い。いわば「他己評価ミーティング」。それでも、「『エグい』とか『ヤバい』とかじゃなく、具体的な評価をしよう」と事前に要点だけを告げ、しばらく経って会議室に現れた指揮官は、穏やかに彼らのグループミーティングを眺めていた。

[page_break:「双方向ミーテイング」で四国を制す]

「双方向ミーテイング」で四国を制す

県立高松商(香川)「超伝統校のモダンベースボール」さらなる高みへ | 高校野球ドットコム
同ポジション同士での自己評価シートミーティングを行う高松商の選手たち

 かくして30分ほどのミーティングでチームメイトから様々なアドバイスを得た選手たちは達成度を記入し、2019年1月度の自己評価シート作成へ。少し作成の様子をのぞかせてもらうと、12月度よりさらに突っ込んだ、具体的な記載がどの選手からも為されていた。

 ただ、これも高松商にとっては想定内の化学反応である。そもそもこのチームはは立ち上げ当初から「1人1人の力はないので、みんなで考えて次につなぎ、ゲームを作っていく」(長尾監督)を目指してきた世代。その具体的方法論もミーティングからであった。ここは昨秋公式戦32打数16安打1本塁打11打点とチームトップ打率を残した浅野怜(2年・右翼手)に聞いてみよう。

 「この代のミーティングは最初に外野・内野・バッテリーのポジションごとでミーティングをしてから、まとめた話を全体ミーティングで共有しています」

 左腕・香川卓摩(2年)、右腕・中塚公晴(2年)の最速140キロ超両輪をリードした新居龍聖(2年・捕手)がさらに説明を加える。「バッテリーミーテイングについては、投手陣と捕手陣は配球メインに、捕手陣では技術共有と相手の作戦分析をしています。だから、公式戦でもベンチで見ている捕手からアドバイスをもらっていました」

 こうして高松商は細かい網を組み合わせ、さらに網目を細かくする作業を夏の練習試合ごとに繰り返した。「新チーム当初は野球を解っていなかったが、夏を通じて状況状況でしなければいけないことを理解できた。だから、昨年とは違って厳しい試合でも焦らなくなったと思います」。旧チームからのレギュラーでもあるリードオフマン・飛倉爽汰(2年主将・中堅手)が成長の過程を語れば、エース・香川も「四国大会準決勝の高知商戦では初戦の明徳義塾戦でストレート中心で行ったことを逆手にとって変化球を使えました」と胸を張る。

 結果は3年ぶり秋季四国大会制覇。明治神宮大会1勝でベスト4。1年前、四国大会準決勝でのコールド負けで手をかけていたはずのセンバツを逃した彼らは、堂々とセンバツ確定の青ランプを灯したのであった。

「評価しあう」習慣づけでさらなる高みへ

 「周りからの客観的な視点でいいところ、悪いところを言い合って把握できる。変えていけると思います」

 会議室で誰よりも発言していた香川が「他己評価ミーテイング」感想でもまず口火を切った。すると「自分では細かい所を把握していても実際にはきつい練習を自然に逃げている指摘を受けた」浅野をはじめ選手たちもうなずく。
 続いて「県大会の最初は声を出すことが仕事だったけど、本番で力を発揮できた」明治神宮大会逆方向アーチの立岩知樹(2年・一塁手)を筆頭に、具体的にセンバツへの課題と目標を述べる主力選手たち。どうやら今回の試みは成功だったようだ。

 そして最後に口を開いた主将・飛倉は「周りから評価されることでより解ってできるようになるし、もっともっと成長していけることができる」と他己評価ミーテイングを分析した上で、来るセンバツへこう意気込んだ。

 「チームとして全員がまとまり、常に挑戦者として気を抜くなく1試合1試合成長していきたいです」

 まず目指すは1勝。ただ、「野球の感覚を鍛えてきた」(長尾監督)彼らの積み重ねの道程が飛倉の言うように成長として増幅されれば……。明治神宮大会準決勝で星稜奥川恭伸(2年)に抑えられた打線がリベンジを果たし、超伝統校・高松商が「モダンベースボール・2019年版」で59年ぶり、平成最後のセンバツ王者に輝いたとしても、何ら不思議ではない。

(文・寺下友徳

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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