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理論と根拠で築き上げる!中国準V・米子東の強打 ~力強い打球を飛ばす源は重心移動にあり~【前編】

2019.01.24

 中国大会決勝から約1ヶ月後の2018年12月1日。「第6回日本野球科学研究会」の会場となった筑波大学のキャンパスに、中国大会で決勝進出を果たした米子東の選手たちの姿があった。
 参加者が日頃取り組んでいる研究の成果を披露する「ポスター発表」に挑み、「ゴロ打ちは正しいのか」、「表情や姿勢および言動とパフォーマンスとの関係性について」の2つのテーマで考察結果を発表した。

 6回目の開催を迎えた日本野球科学研究会では初となる高校生の発表は、特別新人賞を受賞。理論に基づいた研究と、中国大会で4試合合計23得点を記録した打撃。そこの繋がり、野球の練習に止まらない米子東の取り組みに迫るため、グラウンドへと足を運んだ。

「SSH指定校」の強みを活かしての研究発表

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仲間たちにノックを打ち、時には厳しい声をかける

 2017年度から文科省の定める「SSH(スーパーサイエンスハイスクール)」の指定を受けている米子東。SSH指定校で実施されている、生徒自身で研究テーマを定めて学習する「探求授業」内で野球部が冒頭で紹介した2つのテーマを研究。かねてから日本野球科学研究会に足を運んでいた紙本庸由監督の発案で、同研究会での発表を行うこととなった。

 「コーチのひとりが個人的に野球科学研究会に参加していたことで研究会の存在を知りました。私自身も実際に足を運んだことで、『この雰囲気を選手たちが味わったり、大勢の参加者の前での発表を経験したら大きく成長できるんではないか』と思ったんです。米子東の場合、SSHに指定いただいているので、授業の一貫として野球を研究することができる。この恵まれた状況で、やらない手はないと」

 研究内容だけでなく、ポスターのレイアウトなども選手たち自身で考え抜き、何とか完成にこぎ着けた。発表当日の会場には指導者、野球を専門に扱う研究者など、広い見識を持つ参加者が多く集まり、時には鋭い質問が投げかけられた。しかしながら、選手たちはたじろぐことなく、真摯に回答を述べており、その姿からは実年齢以上に成熟した印象を受けた。

打撃指導における「ゴロ打ち」は正しいのか?

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特製の置きティーを使って練習中

 米子東の選手たちが考察した「ゴロ打ちは正しいのか」というテーマ。MLBを中心に広がった「フライボール革命」の影響もあり、昨今の野球界では盛んに議論されているトピックスのひとつだ。研究発表では、打撃結果などの各種データに基づき「ゴロ打ちは正しいとは言えない」という結論を導き出していたが、紙本監督の考えはどうなのか。

 「チームとして所謂『フライボール革命』と呼べる取り組みはしていませんが、『ゴロを打とう』、『叩きつけよう』といった意識は持たせないようにしています。その意識が強すぎると、上から切るようなスイングが染み着き、理想的なスイング軌道を身につける妨げとなりますし、戦術を考える上でもマイナスになると思っています」

 古くから野球界に伝わる「上から叩く」とは一線を博す理想のスイング。そのスイングを身につけ、実戦で結果を残すための取り組みについて紙本監督、打撃指導を担当する田中雄大コーチに伺った。

[page_break:「体重を後ろに残さない」打撃とは?]

「体重を後ろに残さない」打撃とは?

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バッティング練習では木製バットを使って練習する

 「もう少し前で! もっと大きく動いていいぞ!」

 フリー打撃に励む部員の後ろでアドバイスが飛び交う。打撃内容に応じて選手にかける言葉はそれぞれ変わっていくが、頻繁に登場したのが冒頭のアドバイスだ。

 一般的な打撃指導でよく使われるのが、「後ろでガマンする」、「引き付けて打て」など、「体重を後ろに残す」ことを意識させるフレーズだ。それらとは“真逆”にも思える言葉を選手にかける意図はなんなのだろうか。

 「高校生のバッティングを見ていると、体重移動が不十分な状態で打っている選手が少なくありません。“突っ込む”ことを恐れて、後ろ脚(捕手側の脚)に体重を残したまま、その場で回転しようとする。これでは身体を十分に使えませんし、力強い打球を打つことは難しいと思います」

 こう理由を説明する田中コーチ。打撃に必要な“体重移動”について伺うと、こう答えが返ってきた。

 「きっちり体重移動、重心移動ができたときには、後ろ脚が投手方向に向かってスライドします。体重を前脚にぶつける、『体重が前脚に乗った』状態でインパクトを迎えることが重要です」

 次々と打撃ゲージに入り、快音を響かせる選手たちに目をやると、田中コーチが説明した形でインパクトシーンを迎える選手が多くいることに気付く。レギュラー、控えに関係なく、動作への意識が徹底されている証拠だろう。しかしながら、入学直後からこのチェックポイントをクリアしている選手は少ないという。

 「入学した段階で、問題なくこの動きができている選手は少ないですね。現チームのレギュラーを例に挙げると、岡本大翔(秋は「1番・遊撃」で出場)も後ろに残して打つ意識が強い選手でした。そのイメージを取り払うために、「前に出ながら打つ」、「動きのなかでインパクトを迎える」という言葉を使っています」

 とはいえ染み着いた意識を変えていくことは一筋縄にはいかない。本人にとしては十分な体重移動ができたように感じられても、体重が後ろに残っていることも多々ある。

 「後ろに残りがちな選手に話を聞くと『自分としては体重移動できていると思うんですが…』と答えが返ってくることも少なくありません。実際の動きとイメージを一致させるために、撮影した動画を本人に見せながら、アドバイスをすることもあります」

 この日の練習でも田中コーチが自身のスマートフォンで選手の打撃を撮影し、「この場面では後ろ脚がもっと前に出てないといけない」などと声をかける場面が見られた。自分の動きを映像で客観視し、理想とする動作と擦り合わせていく。この取り組みを重ねることで、実戦の打席で理想のスイングを再現することが可能となっていくのだ。

 また、アドバイスを送るタイミングについても注意を払っていると田中コーチは語る。

 「選手にとって、本来打撃は楽しいものであるはず。打っている途中に僕がゴチャゴチャ言ってしまうと身に着くものも身に着かないと思うんです。打撃を終えたタイミングで端的に声をかけたり、選手から聞かれたときにアドバイスを送るように心がけていますね」

 前編はここまで。後編では打撃、投球において大事な働きを担うと考える胸郭の話や、昨秋の中国大会での反省。そしてこれから先の意気込みも伺いました。後編もお楽しみに!

(文・井上幸太

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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