前途多難なスタートから盤石の強さを持った東邦(愛知)へ成長!【前編】
2年連続の選抜出場に期待がかかる東邦。愛知私学4強と呼ばれる中、実現すれば2016年以降、甲子園出場は春夏合わせて4回目の出場となる。盤石の強さを持ったチームと思われているが、実はスタート直後、かなり厳しいチーム状態だった。それでも底上げを果たし、東海大会優勝まで決めた軌跡を振り返る。
最初は不安ばかり。それでも成長できる要素は大きく備わっていた
ティーバッティングを行う熊田任洋(東邦)
上位進出に期待がかかる東邦。高校通算38本塁打のエース&3番を打つ石川昂弥、高校通算15本塁打の4番熊田任洋を中心とした破壊力抜群の打線。投手陣では石川、最速142キロ左腕・植田結喜、140キロ右腕サイド・奥田優太郎と140キロを超える投手が3人揃う。
県大会以降、東海大会優勝まで負けなしで勝ち上がった。こうしてみると戦力は充実しているように見えるが、新チームスタート直後、多くの選手が「ボール回しもできず、エラーも多く、本当にまずい。県大会までいけるか、県大会までいっても勝ち上がれるかなと不安でした」と振り返る。
また率いる森田監督も厳しいスタートになるとみていた。
「前チームから主力だったのは熊田、石川しかいない。軸となる投手もいない。打線も弱いということで未知数。前途多難なスタートになると思いました」
それでもなぜ勝ち進むことができたのか?
「最近は甲子園に行くことが多く、勝ち進むことが多かったので、どうやったら勝てるのか、勝つためにどういう練習をすればいいのかを間近で見てきたのが大きかったと思います」と森田監督。
また森田監督は今年の選手について努力を継続できる資質を評価している。
「そういう選手が多かったからこそ成長ができたと思います」と語る。
大会に入ると、順調に勝ち進む。主将の石川は「勝ち進むごとにチームはまとまっていたと思います」と成長に手ごたえを感じていた。森田監督は勝ち進めた要因として、主将の石川をエースとして任命し、成長を見せたことを収穫に挙げた。
「それまで経験がほとんどない中、よく投げてくれたと思いますし、彼がしっかりと投げたことでチームに安心感が出てきたと思います。それは非常に大きかった」
石川はいわゆる野手投げのフォームで140キロ前半の速球を投げ込む、とてつもない素質を持った逸材。それでも抑えてしまう野球センスの高さが今年のチームを救った。さらに打順もてこ入れした。森田監督がポイントに置いたのは、誰が石川の後を打つのか。本塁打を連発し、勝負強い石川を見れば4番で起用したくなるが、森田監督は「初回から石川の打席を迎えたいので」と3番で起用することにこだわった。そして4番打者は前チームまでトップバッターとして活躍していた熊田となった。
「打線を考えれば石川の後を打つ4番打者こそ大事。それを考えると、前チームから活躍していた熊田が4番となりました」
自然な流れに見えるが、熊田自身は重圧があった。
「昂弥(石川)はホームランをよく打つので、後を打つといろいろ考えるので力が入ります。自分はつなぎの4番と考えるようになってから切り替えることができるようになりました」
こうして3番石川・4番熊田を中心とした打線は機能し、県大会では47得点、8失点と圧倒的な勝ち上がりで優勝を決めた。
[page_break:逆転の東邦は健在!選手は最後まで諦めなかった]逆転の東邦は健在!選手は最後まで諦めなかった
インタビューを受ける石川昂弥
県大会優勝を決めて臨んだ秋季東海大会。この時、チーム力は「東海大会に出場したどのチームとも戦える」と手ごたえをつかんでいた。その言葉通り、大会初戦、10月21日の岐阜第一戦では7回コールド勝ちを収め、準決勝進出を決めた。準決勝の相手は中京学院大中京。試合は序盤から苦しい立ち上がり。9回表終わって、3対8と敗色濃厚の試合展開。だが選手は諦めていなかった。森田監督によるとベンチのムードは明るかったという。指示は
「まだ諦めないで、1つずつ返していこう」
すると、9回裏、東邦は反撃を開始する。先頭打者が安打で出塁。しかし頼みの3番石川が三振に倒れる。普通ならば意気消沈するところだが、4番熊田が安打で出塁。熊田は「昂弥が三振になったとき、やばいと思ったのですが、このままでは終わりたくなかったですし、もう1回甲子園にいって、借りを返したかった」という思いが実り、安打でつなぐ。そしてその後も安打で続き、一死満塁から6番坂上大誠の右前安打で2点を返し、フルスイングが自慢の7番長屋 陸渡が初球を打って3ラン本塁打で同点に追いつく。10回裏には一死一、三塁から5番成沢 巧馬が適時打を放って、逆転サヨナラ勝ちを収めた。
サヨナラに喜ぶ東邦の選手たち
劇的なサヨナラ勝ちについて選手たちはこう振り返る。
「甲子園に行きたい気持ちが中京さんよりあったのでああいう結果につながったと思います」(熊田)
「今までの先輩方も『逆転の東邦』と呼ばれていて、自分たちは最後まで諦めないことを、練習でも目標としてやっているので、よかったです。あと僕は10回表にミスをしていて頭が真っ白になっていました。最後は成沢が打ってくれて本当に良かったです」(松井涼太)
「仲間の底力を感じましたし、準決勝に勝ってほっとしたという気持ちが強かったです」(石川)
最初は前途多難なスタートだった東邦。この準決勝は森田監督がカギだとみていた4番熊田が9回裏、望みをつなぐ安打を放ち、7番長屋が土壇場で本塁打を放ったように石川・熊田以外の選手が活躍を見せ、チームの成長を印象付けた試合となった。なぜここまでの強打のチームになったのか。松井の言葉が今年の成長を物語っている。
「去年のチームは本当に打てる打者が多く、強打のチームと呼ばれていました。今年は打てなくて、なんだこのチームは?と思われたくないと思って練習してきました」
強豪校というのはここまで到達して当たり前という基準がある。近年の東邦は甲子園に勝ち進むごとに、勝つにはここまで到達していないといけない基準ができた。それが引き継がれ、熱心に取り組む選手たちが多かったからこその結果といえる。
決勝の津田学園戦は10対2で大勝し、東海大会優勝を決めた。こうして東邦ナインは力試しといえる明治神宮大会に臨んでいく。
後編では来る春へ向けてチームの課題。主力選手が語るそれぞれの課題に迫っていきます。
(文・河嶋宗一)