「目線は常に日本一へ」兵庫の公立の雄・社が固めた強い決意【後編】
昨秋の兵庫大会では、小野、津名、関西学院、市立尼崎を退け、4強入りを果たした社。準決勝で明石商に敗れた後に臨んだ報徳学園との3位決定戦では延長13回の死闘の末、惜敗。あと一歩の所で近畿大会出場は逃したが、昨夏の甲子園大会でベスト8に輝いた名門を追いつめた一体感のある戦いざまは強く印象に残った。
後編では、オフの期間の取り組みや甲子園出場に向けた強い決意を伺った。
【前編】『目標』ではなく『決意』の域へ!兵庫県の公立の雄・社が痛感した勝負への姿勢
オフ期間に実施した新たな試み
ミーティングを行う様子
走塁面では「盗塁力の向上」を課題に掲げた山本監督。カギとなるのは「タイミングはアウトでも、捕手の送球が逸れてセーフになればオッケー。結果オーライのように映るセーフでもそれは立派な盗塁という考え方をチーム全体で持てるようになること」と話す。
「ストップウォッチで測った机上の計算では盗塁が厳しいと思われる場面でひるむ選手になってほしくないという思いがあります。キャッチャーの送球が逸れたということはスタート前からプレッシャーをかけることができたと解釈すればいい。多くの高校生捕手はここ一番の場面でなかなか二塁にストライクを投げることができませんし、公式戦で送球が逸れる割合は練習試合の倍はあると思っています。『思いのほか送球は逸れるもの』という感覚が宿れば、スタートを切る勇気も増しますから」
オフ期間のランメニューに関しては、今オフは新たな試みを実施した。これまでは、オフ期間突入と同時にいわゆる「冬場の走り込み」メニューを組み入れてきたが、今オフは、12月いっぱいの走り込みを封印。その狙いを山本監督は次のように語った。
「秋季大会期間中に大きくしてきた体をさらにスケールアップしたいという思いがありました。筋力を上げることでエンジンを大きく、強くすることができれば走るスピードも上がっていく。これまでは冬場は、長距離走、300メートルダッシュ、短距離ダッシュなどを冬場にガンガンおこなってきましたが、走り込みをおこなうと、体はなかなか大きくならない。まずはウエイトトレーニングと自重トレでエンジンのスケールアップをはかり、年が明けてからランメニューを入れていく、というやり方でこのオフは進めています」
チーム全員が高い意識を持つために合言葉を変更
2018年ドラフトでは近本光司(阪神)、辰己涼介の2選手がドラフト1位でプロ入りを果たした
対外試合禁止のオフ期間は約3ヶ月。長い期間に感じがちだが、社ナインは「オフは実質8週間」という意識の中でオフ期間を過ごす。
「正月休み、修学旅行、3学期の定期考査、学校の入試期間をそれぞれ1週間とカウントすると、チーム全体でしっかり練習できる期間は4週間も削られてしまう。つまり12週間マイナス4週で8週間。高校球児にとっては長く感じてしまいがちなオフ期間ですが、実際はそんなに時間はないということに気づいてもらいたいんです」
「2ヶ月」ではなく「8週間」と伝えるのは、「週で表した方が、『時間は思ったよりもない!』という感覚がより強調されるかなと思いまして…」と山本監督。
「選手たちに『8週間前の自分と今日の自分ってどれほど変わった?』と質問すると、みんな突然、恐怖に陥ったような表情をするんです。そんなに変われてないぞと。8週間前なんてついこないだのことじゃないかと。長いと思っていたオフが実は思ったよりも短いということに気づけることで、選手たちは一気に集中モードに突入することができる。それが最大の狙いです」
42名の部員を率いる長井誠哉主将は、来たる春、そして夏に向けての思いを次のように語った。
「今までは『甲子園に出場し、勝利を挙げる』を合言葉に掲げ、日々の練習を追求してきたのですが、そこに目線を置いていたのでは、そこにすら届かないということを秋の戦いを通じ、思い知らされました。そこで、つい最近、選手全員で話し合い、どんな相手がやってきてもうちは大丈夫といえるように『甲子園大会の決勝レベルの相手をイメージしながら練習し、日本一になる』という合言葉に変更しました。そのためには学年、立場に関係なく、全員がキャプテンの意識をもって、チームのためになると感じたことを遠慮なく発言できるチームになる必要がある、と。この夏、どのチームがやってきても兵庫を制覇できるよう、目線を常に日本一に置き、日々、日本一の練習を重ねていきたいと思っています」
(文・服部 健太郎)