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『目標』ではなく『決意』の域へ!兵庫県の公立の雄・社が痛感した勝負への姿勢【前編】

2019.01.09

 昨秋の兵庫大会では、小野津名関西学院市立尼崎を退け、4強入りを果たした。準決勝で明石商に敗れた後に臨んだ報徳学園との3位決定戦では延長13回の死闘の末、惜敗。あと一歩の所で近畿大会出場は逃したが、昨夏の甲子園大会でベスト8に輝いた名門を追いつめた一体感のある戦いざまは強く印象に残った。
 12月中旬、兵庫県加東市に位置する高校を訪れた。校内にある野球部専用グラウンドへ歩を進めると就任5年目の山本巧監督が笑顔を携え、出迎えてくれた。

「決意」の大切さを痛感した秋

『目標』ではなく『決意』の域へ!兵庫県の公立の雄・社が痛感した勝負への姿勢【前編】 | 高校野球ドットコム
ノックを打つ山本巧監督

 「近畿大会まであと一勝のところまでいきながら、最後に勝ち切れなかった一番の要因は『決意の不足』だと思っています」
 秋の戦いを振り返った指揮官は、穏やかな表情に若干の悔しさを滲ませつつ、そう語った。

 「決意の不足が甘さにつながった。甲子園出場を目標に掲げていましたが、うちは未だ秋も夏も兵庫の決勝すら進出したことのない学校。目標という感覚のままでいる限り、未知のゾーンを突き抜けることはできないなと。必要なのは『目標』ではなく『決意』の域にもっていくこと。『絶対にやるんだ!』という強い気持ちで戦いに臨むことの重要性を痛感した秋でした」

 勝負に臨む大前提を認識した秋は、新たな試みを導入した秋でもあった。「秋季大会中に変化を遂げる」というテーマの下、例年ならば、秋の公式戦終了後におこなう「体づくり」を8月のお盆明けからスタート。「強化レベル」のハードなウエイトトレーニングと向き合いながら、秋の公式戦を戦う方針を採った。

 「今までも秋季大会期間中にウエイトトレーニングはやってはいましたが、試合に向けてのコンディショニング面を考えると、『疲労をためたくない、故障やケガもこわい』という気持ちが勝ってしまい、筋力を維持するレベルのトレーニングにとどまっていた。でも昨秋は、外部トレーナーと相談しながら、極力試合にコンディションを合わせつつ、強化レベルの負荷の高いトレーニングを思い切って秋季大会中にやり続けました」

 冬場のオフ期間を経て、ようやく手に入るレベルのボディを前倒しで手に入れられれば、体格に恵まれた選手の多い強豪校との差を秋の段階で縮めていけるのではないか。新たな試みの根底にはそんな考えがあった。
 大会の後半になるほどに相まみえるチームのレベルは上がり、戦いの激しさは増す。しかし、昨秋は新たな取り組みが功を奏し、大会スケジュールが進むごとにナインの体躯には逞しさが宿り、チームの平均体重が右肩上がりで増えていった。兵庫の上位陣に対してもパワー、スピード面で互角に渡り合えたことは、県4位という結果を力強くアシストした。

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プロ注目の147キロ右腕・藤本竜輝投手

 「大会のはじまりと終わりとでは明らかに選手たちの体つきが変わっていた。やはり身体が変わればプレーも変わる。大会序盤はまったく計算のできなかった控え投手陣も大会が進むにつれ、体つきが逞しくなり、投げるボールがどんどん力強さを増していきました」

 新チーム結成時は、最速147キロを誇るプロ注目右腕・藤本竜輝に頼らざるを得ない状況だったが、準決勝、三位決定戦では控えの古西祥真鐘搗啓介明石商報徳学園打線に対し、ともに自責点ゼロの好リリーフ。特に古西は「ここまで秋に伸びた選手は見たことがない」と指揮官に言わしめるほどの成長を遂げた。
 「古西は秋季大会期間中に体重が約10キロ増えたんです。お盆過ぎの古西と大会終盤の古西は見た目も投げる球ももはや別人でした」

 入学当時、120キロ程度だった最高球速は現在136キロ。秋だけで約5キロのスピードアップに成功した。
「元々、打者の手元でボールが伸びる球質だったのですが、今では実際にボールがホップしているように感じられるイメージの球を投げられるようになり、真っすぐで空振りがとれるようになりました。夏までに藤本との二枚看板が形成できる可能性は高いと思っています」

[page_break:目指したのは「打ちにいって見逃せる技術」]

目指したのは「打ちにいって見逃せる技術」

『目標』ではなく『決意』の域へ!兵庫県の公立の雄・社が痛感した勝負への姿勢【前編】 | 高校野球ドットコム
夕焼けに包まれる中行う打撃練習

 攻撃面では「低目のボールゾーンの変化球をいかに見逃せるか」を一大テーマに掲げ、秋季大会に臨んだ。「勝ち上がれば必ず待ち受ける、報徳学園林直人くん、明石商中森俊介くんクラスの好投手を攻略するにはどうすればいいか、ということを考えました。やはり好投手は低目のボール球を振らせるのがうまい。しかし、そのボール球をしっかり見逃すことが出来れば、好投手が好投手でなくなる。ストライクゾーンの甘いボールも必然的に増えてくるはずだと」

 ポイントは「打ちに行った上でボール球を見逃す」こと。はなから見逃すつもりで投球を待つのではなく、「しっかり打ちにいったけども投球がボール球だったから打つのをやめた」という見逃し方をチーム全体で追求した。

 「バッティング面で大事なことだとよく言われる要素ではありますが、実行するのは案外難しい。練習時から打ちに行く中で低目のボール球を見極める意識を徹底しました」

 テーマ誕生のきっかけは、昨夏、大阪桐蔭履正社が激突した北大阪大会準決勝だった。この試合、大阪桐蔭は1点ビハインドで迎えた9回、二死無走者から4連続四球で同点に追いつき、最終的に勝利を収めた。

 「4連続フォアボールで同点に追いついた9回、大阪桐蔭の選手達は待球作戦をとったわけではなく、あくまでも打ちにいっていた。四球狙いをしている打者は誰一人としておらず、打ちにいったけどもボール球だったから見逃していた。ストライクコースはどの打者もフルスイングしていましたから。甘い球がいけばもっていかれるというプレッシャーを相手投手に与えられていたからこそ、ストライクが入らなかったともいえる。そんなプレッシャーをいかに相手バッテリーに与え、圧力をかけていくことができるか。目指したのは、あの試合の大阪桐蔭さんの9回の打者陣のメンタルと技術です」

 秋季大会中、「打者の技術でもぎとった四球」は数多く見られた。
「もぎとった四球は、ベンチが『よっしゃー!』という雰囲気になり、ヒットよりも盛り上がるものです。チーム全体の四球は増えましたし、ボール球を振らなくなったことで好機に甘いゾーンにくるケースも増えた。今年の夏までにこの技術をさらに磨いていきたいと思っています」

前編はここまで。後編では、このオフの期間の取り組みや夏の甲子園出場に向けた強い決意に迫ります。後編もお楽しみに!

(文・服部 健太郎

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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