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勝負を楽しむ気持ちを継続し、僅差で勝てるチームへ 目白研心【後編】

2018.11.27

 前編では目白研心監督の鈴木淳史氏の選手の育成論や今に至るまでの経緯を伺った。後編の今回は日大三戦を振り返ってもらいつつ、今後のチーム作りの展望を明かしてくれた。

指揮官も驚く勝負を楽しむ姿勢

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目白研心野球部・山田瑞記

 10月1日、都大会初戦の相手が日大三に決まった時、選手たちはひるむ様子はなく、気持ちを燃やしていた。正捕手を務める山田瑞記が当時の状況をこう振り返る。
 「チーム全体として勝てばニュースだなと。勝ってやろうぜって感じです。燃えているというほど固くはなかったですが、程よく気合を入れていました。」

 鈴木監督も、選手たちの楽しむ・面白がる姿勢には驚きを隠せない。
 「やらないといけないではなく、やってやろうと面白がっていたんです。」
 その姿勢に心配もしてしまったほどだが、この野球を楽しむ姿勢こそが日大三を倒せた最大の勝因であり、今のチームの武器で、鈴木監督が選手から学んでいる部分でもある。そして鈴木監督はこの武器をなくさないことに一番注意している。

 だが、どうしてこんなにも野球を楽しめるのか。実は鈴木監督もわかっていない。選手間で勝手にできた雰囲気の秘密を、主将である加藤友朗に聞いてみた。するとその鍵は、先輩たちの姿にあった。
 「先輩方はトレーニングを妥協せずに追い込んでやっていました。その姿を見て練習に取り組む姿勢を受け継いでいます。ですが、それだけではなくここまでやるなら楽しくやりたいと新チームから選手間で話をしました。練習をやり切るだけではなくて、こだわってやったり、暗い雰囲気ではなく明るい雰囲気でやったりすることを意識しました。」

 この取り組みが結果として今の目白研心のカラーを作りだし、これが日大三戦でも発揮された。これがいつも通りのパフォーマンスに繋がったのだろう。

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目白研心野球部・玉木結大レアンドロ

 だが鈴木監督が驚いたのはこれだけではない。実はもう一つ、選手の姿を見て驚いたことがあった。それは動じないこと、試合後も平然としていることだった。
 「終わったあとも喜んではいますが、落ち着いているんです。試合を楽しんでいますが、プロセスを楽しんでいるイメージですね。結果ではなく、過程なんです。楽しんでいるところが。」

 技術は相手が格上ですが、試合を楽しむことで力を発揮する、選手たちの面白がる姿勢には監督自身も勉強になるところがあった。だが、プロセスを楽しんで、試合後には楽しみ切っている。「その精神状態は凄い」と、選手たちの試合後の落ち着きに一目置いていた。

 相手は甲子園ベスト4の日大三。去年のチームは逆転劇が多かった。そのDNAは引き継いでいるに違いない。だからこそ冷静でなければならなかった。勝てるという気持ちが油断につながると戒めていた。

 キャッチャーの山田が「試合中はあまり勝てると思うと、ダメだと思っていた」と語れば、マウンドにいた玉木結大レアンドロも「日大三は終盤に逆転できるチームでしたので、これで終わらないと思っていました。」
 相手の実力と底力を理解したうえでマインドコントロールを行い、その結果が今回の勝利に繋がった。

[page_breakもう一歩先のチームへ]

もう一歩先のチームへ

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目白研心主将・加藤友朗

 試合後の選手たちが派手に喜ばなかった理由として、これまでの思いがある。主将の加藤は、
 「次の戦いもあったということもありますが、自分たちは目白研心に入ってから勝つことより負けることが多かったので、その分悔しさや後悔を経験してわかっている。だからこそあの時、勝ったから喜んだら相手は不快な気持ちになると思ったので、自分たちは勝っても落ち着いていました。」

 決して特別なことをせず、10年間続けたチームで戦うこと、そして普段通り野球を目一杯楽しみながらも、決して浮足立つことなく戦った結果がこの秋の大金星に繋がった目白研心。だが、次戦の東京日本ウェルネス戦は1対2で惜敗。あと一歩のところで創部初のシード権を逃す結果となった。

 あの敗戦について鈴木監督は、「最終回一死満塁が来た時に、勝ちたいと強く思ってしまったんです。決めちまえと思ったんです。」また違う声の掛け方があったのかな、と最後の攻め方に悔しさをにじませていた。

 しかし秋の都大会出場のおかげで春も都大会からスタートとなり、公式戦に向けて準備できる期間がほんの少しだけ長い。そんなオフシーズンに鈴木監督は、ケースバッティングをすることで選手たちのスキルアップを狙っている。
 「相手の配球やランナーの足。さらにはイニング、カウントを考えてスイングをするのがケースバッティング。そこをチーム全体で考えることで引き出しを増やすことが一番の目的です。」

 あくまで技術の習得よりも、状況に応じた打撃をするための方法を考える過程の方に重点を置くのが鈴木監督の狙いである。鈴木監督の要求は難しいことであり、まだできていないと感じているが、「楽しそうにやっています」と選手たちの取り組む姿勢には思わず笑みがこぼれる鈴木監督。

 さらに鈴木監督は「選手たちの今の取り組みの姿勢をもう一歩先に進めたい」と考えている。それは東京日本ウェルネス戦で1点差で敗れた経験から「1点差で勝てる、勝ちをもぎ取れる、掴み取れるチームにしたいです。」とハッキリ断言した。

[page_breakこれからもすべてに対して全力で取り組めるチームに]

これからもすべてに対して全力で取り組めるチームに

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目白研心

 接戦に強いチーム。それこそが鈴木監督の目指す目白研心のチーム像だった。ただそれはあくまで10年間積み重ねた目白研心の野球はそのまま変わらないことが前提になる。
 「10年間通じて変わらなかったこと。それはすべてに全力で取り組み、全力でやる野球、一生懸命やる野球ですね。」

 何事にも全力でやる姿勢を残すことで、変える場所ではないがOB・OGが懐かしむ、元気をもらってほしい。鈴木監督はそれを大事にするからこそ、10年間選手たちに伝えることは同じであり、自身のテーマとなっているのだ。

 そんな監督のもとに野球を全力で楽しむ選手たちが集まったことで、強豪を打ち破ることができた。

 これからは一番忘れがちな、楽しむ気持ちを残したままいかに勝ち続けられるか。「勝利」の二文字を意識せずに掴み取ることに、難しさと繊細さがあると鈴木監督は語る。だが、「できると思います」と断言した。

 野球の楽しさを存分に味わいつつも、試合で勝てるチーム。そんなチームこそが夏のトーナメントは勢いで勝ち上がる。春、そして夏に快進撃を見せるために、目白研心は既に助走体制に入っている。

(文・写真=編集部

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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