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野球を通じて人間を磨く 鹿児島県立枕崎高校(鹿児島)【後編】

2018.09.29

 前編では枕崎監督・小薗健一監督が現在に至るまでの経緯。そして選手を人として育る上で大切にしていることに迫りました。後編ではテクニカル面でどのような指導をしているのか迫ります。

「日本一の補欠」を目指す

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小湊晴矢

 主将の小湊晴矢(2年)は枕崎市内の立神中出身。兄は鹿児島実で野球をしたが「地元の学校で甲子園を目指す」ことに自分の高校生活をかける気持ちで枕崎を選んだ。

 同級生からは「就職や進学は大丈夫か?」と心配されたが、小薗監督率いる野球部なら自分の夢が実現できるのではないかと思った。

 左腕のエース上野倖汰(2年)も「小薗監督の存在」が決め手になったという。枕崎中1、2年の頃は何となくやっていた野球だったが、3年夏の最後の県大会で準優勝し、「上のレベルで野球をやってみたい」気持ちになった。

 強豪私学などからも誘いはあったが、小湊と同じく地元から甲子園を目指す道を選んだ。2人とも自宅から通えるが、1年の頃から試合に出ていたこともあり、2人で話し合って1年秋から寮に入った。

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上野倖汰

 寮生活で厳しく躾けられるのは「時間を守ること」(小湊主将)。6時起床、朝練習をして朝補習があるときは7時35分、ないときは8時15分の登校時間に間に合うように、寮生は全員そろって行動する。

 授業中に寝ないことも意識し、体育祭、文化祭などの学校行事はクラスのリーダーとして率先して取り組むことを心掛けているという。

 野球で心掛けているのは「日本一の補欠になる」ことだと小湊主将は言い切る。「補欠」とは練習でも試合でも、常に「チームのために」動ける人間だ。チームのために身体を張ってゴロをさばく。チームのために送りバント決めて塁を進める。

 練習前の道具出し、練習後のグラウンド整備、上級生下級生関係なく全員で取り組む。そんな集団になることを日々目指している。「1年生で入った頃は何も分からなかった子たちも、2年、3年と進んでいくごとにそういうことが分かってくるようになるんですよ」と小薗監督は頼もし気に語った。

 「そうやって人間的にも磨かれた集団が出来上がって、厳しい勝負になった時グッとまとまって勝つ力になる」と信じている。

[page_break:「重心」を同化させる]

「重心」を同化させる

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バッティング練習の様子

 結果を出さなければいけないプレッシャーはない小薗監督だが、勝つことへのこだわりは人一倍ある。胸を張れるほど負けた経験があるだけに、「負けない野球」をまず作る。

 打撃全盛と思われがちな高校野球でも「やっぱり一番欲しいと思っているのは良い投手とどの監督も思っている」という。

 「0点をもぎとる」守備や「0対3で負けている終盤、スクイズの1点で流れが変わることがある」と野球の深遠な流れを読むことを大事にしている。

 プレーで大事にしているのは「重心」である。ゴロを処理する際は打球のところまで足を使って重心を移動させて捕れば、ミスも少なくその後の送球動作もスムーズに移れる。イメージ的には「ボールの重心と、自分の重心を同化させるように」動くということ。

 打撃も同じで、外角のボールに小手先で当てにいってもしっかりした打球は飛ばない。重心からバットに力を伝えるイメージで打つことを、「2秒ティー」と呼ばれる2秒に1回、500本打つ打撃練習などでも心掛けている。

 打撃と守備、走塁、一見違う動きをしているようにみえても重心を意識するのは共通しており「守備練習をしていても打撃が鍛えられ、打撃をしていても守備が自然と鍛えられる」(小薗監督)という。

 内野は深野木太洋コーチが、外野は白澤耀コーチがノックを打つ。2人とも枕崎での小薗監督の教え子であり、深野木コーチは96年秋優勝した時の主将だった。

 「ぶるぺん」の社員で週末は寮監に入り、夕方は野球部の指導に入る。東京の消防で働いていた白澤コーチだったが、3年前恩師が再び枕崎で指揮すると聞き、地元の消防を受け直してUターンしてきた。

 「ゴロに『アウト』って書いてあるぞ!」。深野木コーチが叱咤激励する。ゴロをしっかりさばいてアウトを取れれば、それだけ勝利に近づく。その意識をかつての教え子たちも協力し、練習から徹底して植え付けていた。

[page_break:南薩大会を忘れない!]

南薩大会を忘れない!

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枕崎野球部

 8月下旬、秋の県大会のシード権がかかった南薩地区大会で、枕崎は決勝に進み、神村学園と対戦した。序盤3回は両者無得点。中盤は点の取り合いとなったが6回まで2対4と僅少差で食らいついていた。「力で負けているとは思わなかった」(小湊主将)が、8回に一挙4点を奪われ、2対8で敗れた。

 喫したエラーは6つ。完全な自滅だった。力では負けていないつもりだったが「ユニホームの『神村』の名前に自分たちが勝手に負けてしまった」(上野)悔しい敗戦だった。

 寮と室内練習場の間のスペースに置いてあるホワイトボードに、この試合のランニングスコアと「E6」の文字が書いてあった。「南薩大会の悔しさを忘れない!」ために小湊主将の発案で書き残したものだ。

 秋の県大会を前に「県大会を勝って、九州に行き、センバツに出る!」。高校球児なら当たり前に持つ夢を枕崎球児も胸に描く。大切なのは「目標から逆算し、毎日のやるべきことを積み上げていく」(小薗監督)ことだ。

(文=政 純一郎

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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