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個性派集団をまとめた五常の徳。激戦区・東兵庫を制し甲子園へ 滝川第二(兵庫)

2018.07.14

 兵庫県神戸市に所在する滝川第二。夏の甲子園出場4回、春の甲子園出場3回を果たしている名門校である。今年は春に近畿大会ベスト4入りし、3年ぶりの甲子園出場に期待を持たせた。そんな同校はいかにして、甲子園を狙えるチームになったのか。チーム作りの過程と夏へ向けての意気込みを語ってもらった。

守備の乱れでの敗退。秋以降、2年生左腕・田邉が台頭

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滝川第二野球部

 滝川第二は主将・高島大輝、エース・市原 弘隆を中心にスタート当初から個人の能力は高く、山本監督は秋の近畿大会出場へ大きな期待を込めていた。

 しかし秋では県大会で神港学園に5対7で敗れた。守備から乱れ、失点する形となり、大いに反省点が多い試合となった。山本監督は「そのあと、神港学園さんが近畿に行けましたから、しっかりと守れたら近畿大会に行けるチームでした。選手たちには『でも今は5点とっても、6点以上取られるチーム』と、そこをなんとかしていこう」と選手に指示を出した。

 秋以降は内野手、外野手で基本的な守備のフォーメーション、連携、守備技術を見直した。また、秋以降は2年生左腕・田邉大登が台頭した。田邉は中学時代まで投手経験がなかった選手だった。それでも首脳陣が田邉のキャッチボール姿を見て、「投手として必要な柔らかい腕の振りをしている」と投手転向を決断した。滝川高校OBで近鉄や横浜で活躍した池上誠一投手コーチの指導によりメキメキと成長し、秋以降の練習試合で好投を見せる。四国大会優勝の明徳義塾と神宮大会前に練習試合を行って、明徳義塾相手に完封勝利を挙げた。ここで一気に自信をつけていった田邉は春では欠かせない主力投手へ成長していった。

 野球の技術的なこと、個々の選手のスキルアップを目指した滝川第二だが、今年は個性が強い選手が多い世代。なかなかチームがまとまりきらなかった。

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チームをまとめた5常の徳 マネージャーの気配り

 そこで副主将の向井怜央の発案で授業で学んだ「5常の徳」を紙にまとめ、部室などに貼ったり、選手たちに配った。

個性派集団をまとめた五常の徳。激戦区・東兵庫を制し甲子園へ 滝川第二(兵庫) | 高校野球ドットコム
5常の徳

 人を思いやることなど一見、当たり前の行動に見えるが、それが目に見えるだけでも違う向井は考えたのだ。この5常の徳を実践できているのか、できないのかのチェック役に回ったのは女子マネージャーたち。女子マネージャーはグラウンドにいる選手たちの様子をつぶさに観察した。そうすると、気遣いができていない、グラウンド整備をさぼっているなどいろいろ見えてくる。山本監督はマネージャーたちに思ったことをすべて選手たちに伝えることを指示した。

 

 滝川第二の女子マネージャーは選手たちよりも目上な立場。彼女たちの正確な指摘に選手たちはただうなづくだけだったようだ。もちろん女子マネージャーたちは良いところも見つけてほめる。そういうことを重ねるうちに自然とチームはまとまっていた。

 

 山本監督は「指摘することは私たちと変わらないのですが、指導者から言っても聞かないんです。でも彼女たちが言うと、しっかりと言うことを聞くので、即効性があると思います。だから彼女たちの働きは本当に大きいと思いますよ」と女子マネージャーのサポートぶりを評価した。さらに女子マネージャーたちは公式戦になると、選手1人1人の特徴を見て、例えば足が速い選手には「積極的に、足を生かせ」と、紙コップにメッセージを送っているという。選手の間ではとても好評で励みになっているそうだ。

 

 山本監督は「今年のチームを操っているのは、私たちではなく、マネージャーですね」と笑う。

 

 こうしてチームが形となってきた滝川第二は快進撃を見せる。春の地区予選では秋に敗れた神港学園に快勝し、春の県大会ではいきなり報徳学園と対戦。2対1で競り合いを制した。山本監督は「秋から課題にしていた、守備のミスをすることなく、競り合いを制する野球ができた試合でした。それができたことに選手たちは自信になったと思います」と手応えをつかんだ一戦となり、主将の高島も、副主将の向井も「この試合でチームが1つになった」と転機になった試合だと振り返った。

 滝川第二市立西宮神戸国際大附市立尼崎といった強豪校を破り、決勝進出。決勝では明石商に競り負けたが、接戦を演じ、近畿大会では選抜出場の乙訓に勝利。準決勝の智辯和歌山戦では7対9と打撃戦を演じた。

 

 5常の徳を発案した向井は「乙訓に勝てたことは自信になりましたし、春の大会は勝ち上がっていくことになってチームが1つになったと思います」と団結したことに手応えを感じていた。

 

 秋で課題となった守備面を克服するだけでは近畿では勝てなかった。向井、女子マネージャーが主体となってチームメイトを叱咤激励したことで、滝川第二はチームとして成長し、選手本来の能力を発揮するようになったのだ。

[page_break:瀧川学園は学校創立100周年 記念大会に花を添えたい]

瀧川学園は学校創立100周年 記念大会に花を添えたい

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高島主将、向井副主将

 そして夏の大会に向けて、投打ともに準備は仕上がっている。 

  

 今年は奇数の打順がキーとなっており、1番・高島、3番・遠藤秀太、5番・木谷駿、7番・江端宙斗が軸。4人とも勝負強く、偶数の打順がどれだけつなげられるかが勝負だと山本監督は考えている。また4番・長谷川幹人は一発がある右の強打者。確実性を高め、より長打が出るようになれば、さらに打線の破壊力は増す。今年は機動力を使えるのも強み。1番・高島を中心に俊足揃いで足を絡めた攻撃も得意にしている。昨年、超俊足の高松理がプロ入りしたが、滝川第二のグラウンドでランニングホームランを9本打った実績を持っており、高松を見ている今年の3年生たちは自然と走塁の意識は高くなっている。

 投手陣では春で自信をつけた田邉、速球の速さでは一番の右腕・市原 弘隆、2年生ながら田邉とともに台頭した本格派右腕・中原凛も活躍が期待される。山本監督は3人がともに活躍すれば大きいと考えている。

 この夏は4回戦で報徳学園と対戦する可能性があるが、山本監督は「1つ1つ勝っていくだけですから。強豪校と当たることは特に関係ないです」と語る。むしろ早い段階でよかったと考えている。
「田邉など主力投手が連投していない状態で迎えられるのは良かったと思います。しっかりとした状態で迎えることができますからね」
選手たちは報徳学園が大きな山だと思っている。主将の高島は
「一番手強い相手だと思うのですが。そこを勝たないと甲子園にはいけないので、なんとか勝っていい波に乗っていきたいなと思います」
また向井も
「東兵庫の中では1番力があるチームだと思うので、最終的に報徳学園に勝たないと甲子園には繋がらないので報徳学園とやる時は自分たちの野球ができればと思います」と意気込んだ。

 今年は滝川第二の学校法人である「瀧川学園」が創立100周年を迎える。3年ぶりの甲子園出場を実現し、記念の一年に花を添える。

(文=[writer河嶋 宗一[/writer])

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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