Column

市立岐阜商(岐阜県)平成最後の夏に台風の目となる!

2018.06.08

 住宅街を歩いていると、活気ある声が聞こえてきた。その声を頼りに向かった先にあったのが、今回の野球部訪問で訪れた岐阜市立岐阜商業高等学校の野球部である。

 県内では常に上位に食い込む強豪校で、過去4度の甲子園出場経験もある。その実力通り昨秋はベスト4入りするも、今春の県大会では2回戦で関商工に3対2で惜敗。春の悔しさを胸に、夏に逆襲を目指す彼らの今に迫った。

堅守を支える高い意識

市立岐阜商(岐阜県)平成最後の夏に台風の目となる! | 高校野球ドットコム
市立岐阜商のノック中の様子

 練習の様子をしばらく見ていると、いきなり市岐商の意識の高さを見せつけられる。ただボール回しをするのではなく、次のプレーを意識したスローイングを心掛けていた。相手が次のプレーに移りやすいように、胸に投げるのではなく少し左右にずらして投げるように選手同士で指示を出し合っているのだ。

 こうすることで捕球した野手が次のステップを踏みやすく、スローイングにも繋がる。しかし、一歩間違えれば送球ミスに繋がるだけに、ハイリスク・ハイリターンという訳ではないが、それだけ高いレベルを要求している。

 それだけではなく、タッチプレーを意識したボール回しならば、タッチしやすい高さに投げ込むように指示を出す。どちらも言うことは簡単だが、実際にプレーするのは難しい。しかし選手は高いレベルを求め、やってのける。ここだけでも強豪校たる所以が垣間見える。

 その意識の高さはノックに入っても途切れることはない。内野手には、一歩目のスタートを徹底して意識付けをさせる。どれだけ速く・強く切れるのか、ここを大事にしていた。

 外野手に目を向けると、一か所だけではなく二手に分かれてノックを受ける選手の姿を捉えた。この光景はよく見かけるものだが、驚くべきはノッカーの方である。
何と、通常の金属バットでロングティーを打っているのだ。飛びすぎて、フェンスに直撃してしまうこともあるが、この方が実践に近い打球を処理することができる。

 内外野ともに、高い意識を持ってプレーをしていることこそが、伝統的な堅守を支えているのだろう。しかし秋田和哉監督に話を伺うと、意識の高さを築き上げた要因は反復練習にあった。

 陸上部との兼ね合いで、グラウンド全面が使える日が限られている市岐阜商野球部。それでも「守備は数をこなしていけば身に付けられるもの」だと考えている秋田監督は、投内ノックだけは毎日必ず取り組んでいる。
内野ノックではなく投内ノックをするのは、投手も含めてノックをすることで、内野の守備を固める重要性を投手にも理解させるという意図があった。こうして守備の意識を選手たちに伝え続けてきたのだ。

 そんな秋田監督が守備に求めるものは、確実性である。「守備率が一番高い」からこそ、取れるアウトを確実にアウトにする。難しいプレーよりも、バント処理などのプレーを確実にやることを大切にしている。

 そのために重要なのがスローイングだと秋田監督は考える。「高校野球では送球による守備のミスが多い」と感じており、捕球によるミスはあまり気にしていない。それよりも悪送球になってしまうことを恐れている。

 だからこそ、この日はスローイングに繋がる打球への入り方を大事にしていた。「冬場で身体が大きくなって、パワーもスピードもついた。その分、勢いでプレーをしている」ように見えたからだ。

 こうした監督の細部にまで行き届いた守備への意識が、選手に浸透していることこそが、堅守の市岐阜商を築き上げたといっても過言ではないだろう。そのために反復練習をこなし、身体に染み込ませているのだ。

[page_break全国で勝つために武器を増やす]

全国で勝つために武器を増やす

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市立岐阜商の秋田和哉監督

 県内では強豪として数えられる市岐阜商だが、2008年を最後に全国の舞台から遠ざかっている。昨夏も準決勝で大垣日大に完封負けを喫した。さらに秋も3位決定戦で完封負け。得点を奪えなかったことに、秋田監督は打撃向上の必要性を見出した。

 そのため冬場は、一日1000スイングをこなしたり、ハンマーを使った練習を取り入れるなどして、スイングする力を付けてきた。

 こうして全国レベルの相手と戦うために打撃向上に取り組み、臨んだ春季大会。ある程度の手ごたえを感じながらも、新たに見えた課題。それはメンタル面だった。

 「試合中に選手たちが一喜一憂しやすい」と感じている秋田監督。その結果、主導権を握ってもすぐに相手に奪い返されてしまうケースが、秋・春ともに出てしまった。

 昨秋準決勝の中京学院大戦では、4点を奪うもすぐさま5点を奪われ、試合の流れを明け渡してしまった。
春は先行逃げ切りで行ける時は、スムーズな試合運びができた。しかしそうでない時は、試合の流れを作れなかった。だからこそ逆転する勝ち方など、最終的に1点差で勝つために必要な戦い方のバリエーションを増やしたい、と秋田監督は話す。

 夏までに残された時間は少ない。メンタルを鍛えることはそうたやすくないが、克服すべき課題である。メンタル以外にも今後も課題は浮き彫りになるだろう。だが、日々の反復練習が必ず課題を解消させ、メンタルにも変化が訪れるだろう。反復練習に裏付けられた自信という形に変わって。

[page_break活気と自立心を持った家族で岐阜の台風の目に]

活気と自立心を持った家族で岐阜の台風の目に

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市立岐阜商野球部

 夏に向けて走り出す市岐阜商。反復練習が毎年必ず上位に食い込むメソッドとなっていることは間違いない。では、選手の育成はどうだろう。どういった方針を持って選手を育てているのか。そのポイントは家族にあった。

 市岐阜商はコーチ陣4、5人が手分けしてノックを打つ。また、選手のトレーニングの様子などもチェックする。監督自ら細かなチェックを出さないのには理由がある。

 秋田監督は「見てないようで見ている」ようにしたいために、コーチ陣に選手と共に練習をしてもらうようにしている。選手からすれば、共に汗を流してくれるコーチには親近感が湧いてくる。そこに秋田監督の真の狙いがあったのだ。

 「選手にとって、本音で話せるお兄さんではないが、そういった存在」がチームにいた方が選手は自分の意見を素直に話せる相手が生まれ、活気を持って動けると判断した。
だからこそ、監督自らは意見を真っすぐ、そして素直に伝えることで距離を保った。しかし、コーチは選手との距離を近づけることで、ある程度の緊張感の中で、選手は伸び伸びとプレーできる環境を築き上げた。

 自分は父親、コーチ陣は兄といった家族をイメージさせるチームを作ることで、勢いや活気ある選手を育て上げた。
 それだけでなく、選手には自分たちで考えてプレーしてもらいたいという意志が秋田監督にはある。
試合全体の流れを見ることができず、悔しい想いをここまでしてきたからこそ、自分たちで感じ、考えてプレーできるような選手に育てたいというのが狙いなのだろう。

 今度の夏は100回記念大会となる。また、平成という年号も最後である。そんなメモリアルな大会を迎える夏に「ノーシードですが、必ず獲るんだという想い」を持って臨む。
岐阜の大きな台風の目として、鍛錬を積んでいくと意気込んだ秋田監督率いる市立岐阜商の快進撃が始まる。

(文・写真=編集部

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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