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中央学院「普遍性」と「再現性」で中央学院旋風を

2018.03.21

 3月22日から開幕する第90回全国高等学校野球大会。今年は初出場校が10チームも登場するフレッシュな大会の中、昨秋の関東王者として初甲子園に臨むのが中央学院(千葉)である。過去、千葉県内では上位に勝ち進みながらも「あと一歩」が届かなかった彼らが、一気に壁を超えた理由とは?今回はチームコンセプトである「普遍性」と「再現性」にスポットを当てつつ、センバツで旋風を起こすためのファクターを探ってみた。

急成長の基盤となった「主将捕手・池田 翔」

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急成長の基盤となった池田 翔選手とエース大谷 拓海選手(中央学院)

 一昨年秋は関東大会ベスト8。しかし夏では2回戦で銚子商に1対7で敗れ初戦敗退。中央学院・新チームのスタートは例年よりも早く始まった。そこで相馬 幸樹監督をはじめとする首脳陣は「試合経験が少ない選手が多かったし、ハードな日程をこなす中でどういう選手が出てくるのか」を図るべく、約60試合の練習試合を休み期間に設定した。

 結果は吉と出た。1年生三塁手・長沼 航など新戦力が数多く台頭した中央学院。ただ、その成果も、このまとめ役なくしてはありえなかった。「池田がいなければ関東大会制覇はない」コーチ陣が口をそろえる絶対的主将・池田 翔(新3年・捕手)。実はこの池田も努力で今の座をつかみとった苦労人である。

 千葉東リトルシニアから入学時は遊撃手。しかし、高2年春からはこれまで経験のなかった捕手にコンバートされる。ヘッドコーチ格の福嶋 翔平コーチはその狙いをこう明かしてくれた。
「彼は2年生の中でも野球頭が良く体格も打撃も良いので、早くから捕手にコンバートさせて新チームへ向けて育てたかったんです」。秋になると打線では中軸。守っては強肩を生かし、機転が利いたリードを見せた池田。さらに、池田の存在はチームの大黒柱・大谷 拓海(新3年)にも劇的な化学変化をもたらす。

 2年夏までは「自分の世界に入り込んで周りが見えていなった」と本人も認めるように気持ちにムラがあり、不安定なピッチングが続いていた大谷。そこで首脳陣は新チーム発足直後、遊撃手への一時コンバートを画策。「視野もだいぶ広くなったし、足の運び方を学んだことで、体重移動もよくなった」手ごたえを得た上で、腕の振りをスリークォーター気味にし、池田とのバッテリーを組ませたのである。
 
「キャッチャーミットへ一直線に伸びるストレートを投げることができるようになった」のも池田への信頼感があってこそ。投手として大事なものを得た。さらに腕の振りもスリークォーター気味に変えて、こうして軸となる選手が池田を中心に育ったことが中央学院の秋躍進につながった。

[page_break:個人が頑張り、チームを引き上げる「サイクル」]

個人が頑張り、チームを引き上げる「サイクル」

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練習中の様子(中央学院)

 秋季千葉県大会準優勝で駒を進めた関東大会。相馬 幸樹監督をしても「驚きだった」出来事が準決勝の強打・東海大相模(神奈川)戦で起こった。
 継投策を当初は想定して先発マウンドに送り込んだのは普段はチームNO1の俊足を買われ、右翼手を務める右腕・西村 陸(新3年)。東京・江戸川中央リトルシニア出身の西村は、準々決勝・作新学院(栃木)戦での猛打に東海大相模相手に「すごい」と感じながらも「やってやろうという気持ちしかなかったです」と意気込んでいた。

 意気込みには確かな裏付けもあった。右横手でコントロールに自信があったものの、2年夏まで打ち込まれる試合もたびたびだった西村。だが、主に投手を指導する菅井 聡コーチから、「しっかりと足を挙げたり、クイックで投げたり、じっくりと投げたりと投球によって間合いを変えて、タイミングをずらすことを意識する」投球術を学ぶと、マウンドでは「外野の頭を超える長打は避けて、シングルヒットならばOK」と冷静さを発揮、終わってみれば2失点完投勝利。大谷の負担を軽減し決勝戦・明秀日立(茨城)戦への流れを作ったのである。

 一方、池田をサポートする副主将・平野 翔(新3年)も昨秋はグラウンド内外で大きな役割を果たした。本人の弁をここは聴いてみよう。
「僕は1年生から試合に出場させていただきましたが、先輩がやりやすい環境を作ってくれましたので、僕もそうしていこうと、やりやすい環境を作ることを心掛けました」

 こういった個人の成長がチーム戦術強化の一助にもなった。象徴的なのは走塁面。野手部門を指導する福島コーチはこう語る。
「走塁に関しては入学から継続的にやってきて積み重ねたことが形になってきたと思います。夏の練習試合で多くの経験を積んだことが、実戦慣れにつながり、走塁面でも良い影響を与えたと思います」

 この冬はOBの遠藤一樹氏(中央学院大~JR東日本)を外部走塁コーチとして迎え、「機動破壊」で名をはせた健大高崎の走塁にも着目するなど、さらなる走塁強化に注力した中央学院。まずは個人が頑張りチームに活力を与えた上で、戦術強化でチーム力を底上げするサイクルは、彼らのよき伝統となりつつある。

[page_break:「普遍性」と「再現性」で聖地を沸かせる]

「普遍性」と「再現性」で聖地を沸かせる

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トレーニングに取り組む大谷 拓海選手(中央学院)

 かくして初の甲子園へと足を踏み入れる中央学院。ただ、初出場チームにありがちな浮ついた感情は一切ない。彼らの脳裏には昨秋、初の全国大会出場となった明治神宮大会・明徳義塾戦での苦い経験が刻まれているからだ。

 この試合では連携ミスを含めて守備でのミスを連発した中央学院。これまで戦ったことがない細かさを押し立てる明徳義塾にエース・大谷も、バックも苦しんだ。遊撃手の平野も衝撃を受けた1人である。
明徳義塾戦では足が止まってしまうことがありました。だから、全国レベルの脚力を持つ選手もアウトにできる守備力を身に付けなければならないと痛感しました」。野手陣は大会後に再度基本的な足の運び、スローイングまでの流れを見直し、守備力強化を図ってきた。

 投手陣の課題も明治神宮大会を通じ露わになった。それは夏の千葉大会も見据えたエース・大谷、「これまで外角のコントロールを大事にしていきましたが、そこはしっかりと押さえつつ、内角でも勝負できるようになって、全国レベルの打線を抑えられるようになりたいです」と語る西村に次ぐ3番手投手の台頭である。

 その一番手は昨秋の関東大会決勝に先発登板。「体がまだ細いですが、身体ができれば楽しみな存在」と菅井コーチも期待する最速130キロ超の右本格派・畔柳 舜(新2年・180センチ63キロ)。
「3番手までいい投手を育てるのはなかなか難しいんですが、そこが僕の仕事。いろんな投手を見ていきながら、育てていきたい」菅井コーチの情熱にどの投手が応えていくかが焦点だ。

 そして「2018・中央学院」が成長する上で、絶対忘れてはならないキーワードがチームスローガンでもある「普遍性と再現性」。このキーワードについて、現役時代は市立船橋高~大阪体育大~シダックスで投手として全て全国舞台を経験し、特にシダックス時代は野村 克也監督から「ID野球」の薫陶を受けた相馬監督は「普遍性と再現性」」の真意についてこう話す。

 「このチームにとって『普遍性』という意味合いは、『環境に左右されない』ことです。野球はどんな状況でも、どんなグラウンドでも、ダイヤモンドの距離とマウンドの距離は変わらない。それを理解しながら、何事にも動じない選手になってもらいたいです。
 また『再現性』は『チームが日々、行っているフォーメーションを繰り返しこなし、公式戦では当たり前のようにできるようになってもらいたい』という意味です」

 「出場することが目標ではなく、勝つことが目標です」(平野)。残された仕事は自分たちの形を創った自信を「普遍性」と「再現性」のレールに乗せること。そこが成し遂げられた時、彼らの努力は聖地を沸かせる「中央学院旋風」の6文字に変わる。

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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