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創成館高校【後編】「ノーステップ打法」の真実

2018.03.22

 3月23日(金)から開幕する「第90回記念選抜高等学校野球大会」第4日・第1試合で下関国際(山口)と対戦する創成館(長崎)。昨秋は明治神宮大会準優勝で34年ぶり3回目の出場を決めた原動力には130キロ後半の速球を投げる投手を4人そろえる投手陣とノーステップ打法があった。今回はその一端を前後編に分けてご紹介、好投手がそろう理由が多角的に語られた前編に続き、後編では昨秋準優勝の明治神宮大会で話題となった「ノーステップ打法」について迫っていきます。

「ノーステップ打法」は技術面向上の源

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創成館 野球部

 初出場となった昨秋の明治神宮大会。創成館おかやま山陽聖光学院に続き、王者・大阪桐蔭を破って決勝進出。特に大阪桐蔭戦は140キロ台を連発する根尾 昂からも1点を奪うなど、12安打6得点。圧巻だった。
そして3安打を放った主将・峯 圭汰はこう話す。「対戦した投手はみんな速くて、特に根尾 昂君は今までで一番速かったです。だけれど、ノーステップ打法にしたことでなんとか対応することができました」。そう、彼らの強打力を養ってくれたのは稙田 龍生監督が就任した2008年から実践している「ノーステップ打法」。創成館がこの打法を採り入れる理由は以下2点である。
1.振り遅れを防ぎ、球速が速い投手に対応するため
2.目線を下げて、低めの変化球を見極めるため

打撃で一番大事なのは「タイミング」だと考えている植田監督。神宮大会の活躍により「戦術面」としてクローズアップされるノーステップ打法も、実はその技術力を上げるための一方法なのだ。

「ノーステップ打法は私が九州三菱自動車でプレーしていた時に採り入れたのですが、下半身の使い方がうまくなって技術力向上に役立ちました。特にまだ技術が完成していない高校生には、技術的な見直しにとても良い打法。私が推奨するノーステップ打法はステップをしないだけではなく、スタンスの幅を広げて、目線を下げた打ち方となりますので、必然的に下半身を意識した打ち方となるんです」

[page_break:「ノーステップ打法」の先に見据えるもの]

「ノーステップ打法」の先に見据えるもの

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ノーステップ打法の構え(創成館)

 よって創成館に入学した選手たちはまず「ノーステップ打法」に取り組む。
「入学したての選手に打たせるとほとんどの選手が筋力がないので、上半身の反動を使って打っていることが多い。そうすると力が入りすぎて、バットがなかなか出ていかないので、振り遅れがしやすい。さらに変化球も見極められない。これはトレーニングをして、力をつけたとしても、その癖はなかなか直らない。だから、ノーステップ打法を取り入れているんです」(植田監督)

 選手たちにも話を聞いてみよう。まずは主将の峯。
「僕はもともと上半身が力みすぎる悪癖が入り、入学からノーステップで練習をすることで、苦手だった変化球の見極めができるようになっていきましたし、反動で打つ癖はだいぶ抑えられるようになったと思います」

 右方向への打撃技術が光る正捕手・平松 大輝も「僕も上半身手動で打つ癖があったので、ノーステップ打法をしたことで、そういう癖を抑えることができたと思います」と技術面の向上過程を語る。
 また、4番を打つ杉原 健介は「僕は追い込まれてからも低めの変化球を見極めることができるようになりましたし、タイミングの取り方をつかむことができました」とノーステップ打法の効果を明かしてくれた。

 その先に見据えるのはノーステップを使わなくても、レベルが高い投手に対応できること。植田監督は語る。
「どの投手に対しても、タイミングをつかんで対応できる選手は一流にいなれると思いますし、過去に創成館でレギュラーになった選手はそういう選手ばかり。ノーステップを通して技術を磨いてほしいです」

 あくまでも戦術ではなく技術を高めるための「創成館ノーステップ打法」。彼らは聖地でのハイレベルな戦いを通じ、さらなる技術力向上へと帆を広げていく。

[page_break:センバツで魅せる「課題克服」]

センバツで魅せる「課題克服」

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練習を見つめる創成館の植田監督

 そんな創成館・稙田監督は明治神宮大会4試合を戦った中で新たな課題も見出した。
「神宮大会に出場したチームのほとんどは本塁打を打てる「大砲」がいましたが、ウチは確かにヒットは出ましたけど、本塁打がなく、長打も少なかった。
 ウチにもクリーンナップを中心に本塁打を打てるパワーを持った選手はいるんです。ただ、それを常に発揮できる技術がなかった。さらにパワーも神宮を経験して他校の選手の体格を見て改めて足りないことを実感しました。なので選手たちも明治神宮大会後、自主的にトレーニングへ取り組むようになっています」

 峯は7キロの増量に成功。平松はスクワット160キロを持ち上げて下半身強化に成功。4番杉原は筋力量を増やすことに取り組み、スクワットは、160キロ、ベンチプレスは112キロを持ち上げるまでに成功した。3人とも「以前より遠くへ飛ばすことはできている」と話す。

 創成館はこの冬、体全体の使い方を覚えるため長尺1キロバットで、ロングティーもこなした。ただ打つだけではなく体重移動を覚えるために歩きながら打つ。そして選手個々が映像等を参照し「なりたい姿」をイメージし続けた。

「僕は内川 聖一(福岡ソフトバンクホークス)さんの打撃を参考にしました。内川さんの打撃技術は本当に高い。打率も上げていきたいですし、技術で遠くへ飛ばせるようになりたい」(峯)
「僕は腰の使い方とフォロースルーを吉田 正尚(オリックス・バファローズ)さんから学んでいます。少しずつ遠くへ飛ばせるようになっているので、センバツまでには甘い球を本塁打にできるパワーを身に着けたいです」(杉原)

 かくして好投手集団とノーステップ打法の発展形を突き詰め続けた創成館。「課題克服」が「センバツ初勝利」の文字に変わった時、彼らは全国レベルの強豪校へ昇華する道を切り拓く。

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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