Column

盛岡大附(岩手)強打のモリフメソッドを特別伝授 自分が打つストーリーを創り出せ!

2018.03.17

 昨年、二季連続で甲子園ベスト8入りした盛岡大附。高校通算63本塁打の植田 拓(バイタルネット入社予定)、高校通算37本塁打の比嘉 賢伸(巨人育成1位指名)を軸とした打線の破壊力は伝統となっており、昨夏の甲子園でも4試合4本塁打と聖地を沸かせた。では、盛岡大附はどのようにして今回は強打のチームを創ってきたのか?今回はその系譜と実際のチーム創りについて話を聞いた。

大谷翔平攻略から始まった方針転換

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プロ入りした比嘉賢伸選手

 今でこそ強打のチームとして注目を浴びる盛岡大附。だか、かつては守備を重視するチームだった。それが一転、強打のチームに転換したのはなぜか?”
 きっかけは昨年、、ポスティングシステムでMLB挑戦を決意し、ロサンゼルス・エンゼルスでプレーする「二刀流」。2010年4月に同県のライバル・花巻東に入学してきた大谷翔平である。

 当時から140キロ台を悠々と投げる大谷。そのピッチングを目の当たりにして、関口 清治監督は痛感した。「大谷を倒さなければ甲子園に行けない」。早速チーム方針を切り替え1点を守り切る野球から、強打の野球に転換した盛岡大附は、強打者育成のスペシャリスト・光星学院監督を退任したばかりの金沢 成奉氏(現:明秀日立監督)を招へい。以下の教えを聴いた。

・振り幅が大きいラインバッティング
・タイミングを早めに取ること

 今まで耳の上からたたくレベルスイングを心掛けていた盛岡大附にとっては画期的な打撃変更。しかしこの改革が実を結び、2012年夏の岩手大会決勝では、二橋 大地が先制本塁打を打つなどして大谷を攻略。花巻東を破り4年ぶりとなる夏の甲子園出場。以降、春は2013・2017年、夏では2012・2014・2016・2017年と計6回も出場し、2013年春には待望の甲子園初勝利。今年は春夏連続でベスト8進出を決めた。指揮官は「今までやってきことに成果を感じていましたが、やはり高校生トップレベルの投手と対してしまうと、まだ打ち崩せない。成果と課題を両方感じた1年でした」と振り返るが、春2回、夏6回の出場で1勝が遠かった2011年までと比べると飛躍的な進歩だ。

 ではいかにして盛岡大附は強力なバッティングを作り上げているのか?実は彼らに対する具体的打撃指導は2年秋から、レギュラーの選手は1年秋からと意外にも遅い。「まだ体が出来上がっていないので、いきなり技術を詰め込んでもけがをするだけ」(関口監督)と、入学後すぐに行うのはウエイトトレーニング。それもトレーニングルームではなく、打撃練習とのセットでネット裏でのベンチプレスを中心に行う。旧チームで言えば植田 拓も、比嘉 賢伸もこの形でパワーを磨いき、「モリフ(盛岡大附の略称)メソッド」注入への準備を整えた。

[page_break強打を導き出す2つの約束事]

強打を導き出す2つの約束事

盛岡大附(岩手)強打のモリフメソッドを特別伝授 自分が打つストーリーを創り出せ! | 高校野球ドットコム
打撃練習の前で準備する選手

 同時に関口監督は「モリフメソッド」を完成形に導くために、当初から選手たちにある約束事を課す。端的に言えば「低めの球を見逃す」だ。投手にとって勝負球となる低めの球を見逃すことが、投手の失投を誘う。さらに関口監督は選手たちに具体性をもってこう話をしていく。
「例えば2ボールまで見逃す。そうするとストライクゾーンが来る可能性が高くなりますよね。自分のカウントを作って、ストライクゾーンをおびき寄せて打つ。自分で、打てるまでのストーリーを築ける選手が理想です」

 植田 拓も、この「打てるまでのストーリー作り」によって殻を破った1人。入学当時はホームランを打てる長打力を有しながら、なかなか結果を残せなかったものの、マシンで変化球を見極める練習を繰り返したことにより、打率・長打率共に高まり、高校生を代表するスラッガーへ成長を果たした。

 「モリフメソッド」を形作る約束事はもう1つある。かつて高校野球の常識だった「ゴロを打つ」にとらわれないことだ。
 「よくゴロを打て、フライを打つなといいますが、バットとボールが接点が1ミリずれるだけでも、打球がフライになったり、ゴロになったりとコントロールできないものがあります。
 だからうちはフライを打ちあげて怒ることはありません。フライが高く上がるということはそれだけインパクトが強かった証拠ですし、それはナイスバッティング。エンドランでも高いフライでもしょうがないです。ゴロならば、内野手が動けないような打球を打てば、ナイスバッティング。とにかく強いスイングをしてほしいです」

 このように関口監督が話す意図は彼らの打撃練習を見ているとよくわかる。打撃投手・バッティングマシンは通常の18.44メートルから4メートル程度前に出されており、それにもかかわらずどの選手も振り幅が大きいスイングをしている
 当然、最初は振り遅れてバットになかなか当たらない。それでも関口監督は「どんどん振れ」と励ます。そのうちストレートをジャストミートした打球が鋭く外野へ飛ぶ。フェンスを越えたかを選手に確認する指揮官に乗せられるように、さらに選手たちのスイングは活気を増す。これが盛岡大附の日常風景である。

 夏を終えてからはさらにインパクトの強さを身に付けるために、花咲徳栄で採り入ているハンマートレーニングにも力を入れる。現チーム主将の伊藤 大智も「インパクトが強くなった実感があって、良いと思います」と効果を実感している。

 「自分がヒットを打つストーリーをイメージする=モリフメソッド」を具現化するため、様々なアプローチをかけ続ける盛岡大附。その努力は四季を問わず続けられている。

[page_break:原点に立ち返り、内面を磨いて、夏は頂点を]

原点に立ち返り、内面を磨いて、夏は頂点を

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伊藤大智主将(盛岡大附)

 昨秋は四季連続東北大会決勝進出を目指して、戦った盛岡大付。だが、秋の県大会では準々決勝で一関学院に敗れ、2016年夏から3季続いていた甲子園出場は断たれてしまった。関口監督はその理由をこう分析しつつ、あくまで前向きにこの冬を考えている。

 「去年もスタートが遅れましたけど、秋で何とか勝ててセンバツに出場できたことが夏にもつなげることができました。また選手たちは自分のやるべきことが分かっていて、ただ強打だけではなく、守りが良い選手、足が速い選手などそれぞれ個性のある選手をしっかりと18人~20人なりを選ぶことができて、適材適所を発揮することができた1年でした。
ただ今年もスタートが遅れてしまい、やはり去年のようにうまくいきませんでしたね。もう一度、選手たちを知るというところから始めています」

 その効果も徐々に表れている。秋の岩手大会までは福岡ソフトバンクホークス・松本 裕樹の実弟、甲子園経験者の左腕・伊藤 大智松本 跳馬(2年)を中心としたチーム編成だったが、その後の練習試合を通して新戦力が浮上中。「一冬超えて、選手たちの個性を引き出し、そして理解した上で、20人~30人を選んでいきたい」と指揮官も手ごたえを感じている。

 一方、選手たちも3年生の差、違いを受け入れつつ前に進もうとしている。甲子園経験者であり、先輩たちの姿を目の当たりにしていた主将の伊藤 大智も、自らを厳しく見つめる1人である。

 「去年の先輩たちは練習中は常に声を張り出し、全力で練習に向き合うことができました。今の選手たちはまだ先輩と比べると野球に向き合う姿勢、声がまだ足りません」。だからこそ、伊藤は常に選手間ミーティングで意識を高めあっている。

 加えて、このチームになってからスタートさせたことが2つある。それは以前に取り組んでいた「学校付近のごみ拾い」と「読書」。これももう一度原点に立ち直り、自分たちを見つめ直す一環だ。
 「ごみ拾いをすることで、何かが感性が磨かれると思いまして、自分たちはそういうことから変わっていかなければならないと感じています」(伊藤)
 読書は関口監督の勧めから。今まで読書する習慣がなかった選手たちも、分からない漢字があれば、調べて学習するようになることで、弱点をすぐに修正する習慣も備わりつつある。

 「今年夏には、今年の3年生と同じレベルに持っていきたい。それができる可能性を持った選手たちだと思います」(関口監督)
 昨秋、ライバルである花巻東が東北大会準優勝し、センバツ出場を決めた。となれば、彼らの目標はただ1つ。あの「打倒・大谷翔平」に燃えていたころと同じく「すべては夏、勝つために。そして将来のために」。盛岡大附は伝統となった「モリフメソッド」と、チャレンジャー精神を胸に力を蓄え、2018年の頂点到達へのストーリーを創り上げる。

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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