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花咲徳栄高等学校(埼玉)「選手を『育成』しつつ『勝利』も呼び込む二刀流理論 徳栄メソッドの正体」【vol.1】

2017.03.16

 浦和学院聖望学園といった強豪私学に加え、公立校の台頭も目覚ましい埼玉県にあって、2015年夏2016年春と3期連続で甲子園出場を果たした花咲徳栄高校。今年広島にドラフト2位で入団した高橋 昂也投手関連記事に代表されるように、プロへ進む選手を育成する点でも評価が高い学校だ。その選手づくり、チーム作りにはいったいどんな秘密が――。

【花咲徳栄の野球部訪問 3回連載】第1回 / 第2回 / 第3回

好投手なるためのフォーム作り

花咲徳栄高等学校(埼玉)「選手を『育成』しつつ『勝利』も呼び込む二刀流理論 徳栄メソッドの正体」【vol.1】 | 高校野球ドットコム

岩井 隆監督(花咲徳栄)

「ピッチャーは完全にフォームです」
花咲徳栄高校の岩井 隆監督はそう語る。

「コントロールはフォームとリリースポイントで決まる。それとスピードを出すには腕の振りの速さと内転筋と背筋の強さ、それに加えやっぱりフォーム。私の師匠は理論派の職人タイプでした。私はコーチとして学ばせてもらって。当時、花咲徳栄は甲子園には出ていないけれどプロ選手は輩出していました。甲子園までは勝ち進めないけど、プロが出るということはやっている野球は間違っていない。だから、今でも私の中で当時の教えがベースになっています」

 花咲徳栄高校はOBに12人のプロ野球選手がいる。特に投手は、品田 操士(1991年近鉄ドラフト3位)、池田郁夫(1992年広島ドラフト7位)、品田 寛介(1993年広島ドラフト6位)と3年連続でプロ投手を輩出した時期もあった。さらに神田 大介(1996年横浜ドラフト5位)、新井 智(ローソンを経て2002年阪神ドラフト9位)、そして昨年、「高校BIG3」と言われた一人、高橋 昂也(2016年広島ドラフト2位)に至るまで計6人もの投手をプロに送り込んでいる。そして、その指導法は稲垣人司・前監督の頃から一貫しているという。いったいどんな育成理論があるというのか。

 花咲徳栄には砂場や綱を利用した独特なトレーニングメニューがある。では、投手メニューはどうであろうか。その一部を教えてくれたのは福本 真史コーチ。岩井監督の下について6年目を迎える福本コーチは、同校が2003年春のセンバツでベスト8に進出した時のエースである。

「ピッチャーの練習方法や育成方法は私の頃から全く変わっていません。私も中学まで野手で、高校からピッチャーになったのですが、稲垣前監督の投手育成理論で作られたピッチャーだと思っています。入学前は119キロぐらいだったストレートの球速が、最後は146~147キロまで伸びましたから」

 冒頭で岩井監督が言ったように、「ピッチャーはフォームである」という考えはチームの共通認識だ。以下、その前提に立ったメニューをいくつか紹介する。

[page_break:フォームを作る3つのメニュー例 その1]

フォームを作る3つのメニュー例 その1

花咲徳栄高等学校(埼玉)「選手を『育成』しつつ『勝利』も呼び込む二刀流理論 徳栄メソッドの正体」【vol.1】 | 高校野球ドットコム

清水 達也選手(花咲徳栄)

■投げ方1番、2番、3番

 花咲徳栄には「1番」「2番」「3番」と呼ばれる投げ方がある。以下、福本コーチの解説である。
「新入生が入ってきたら、まず必ずやるメニューです。うちのピッチャー陣は歴代通しても、入学後すぐにマウンドに上がることはありません。ある一定の投げ方をマスターし、メニューをこなさないと上がることができないのですが、その代表的なメニューがこれです」

 要約していうと、「投球フォームのチェック」のための投げ方が3つあるということだ。まず2番の投げ方からだが、これが最もオーソドックスな投球フォームに近い。振りかぶって投げる。だが投げ終わった後のフィニッシュ時に軸足を跳ね上げず、地面につけたまま残す。

「身体のバランスで投げることを体に教え込ませるメニューです。もっと言うと、投げる時に右足首にチューブを巻く。通常、投げ終わった後は体につられて頭も横に振れます。これを振れないようにするためには、足を曲げた状態をなるべく維持すること。その感覚を覚えてもらいます。頭が横に振れず残すことができれば、リリースポイントは前に出やすくなります」

 次に1番と3番だが、ともにスタンスの状態から投げる。ただ、2番よりスタンス幅が1足分短いのがポイントだ。
「2番の投げ方の踏み出しからマイナス一足。2番で踏み出した前足のかかとの地点につま先が来るようにします」
1番は2番同様、フィニッシュ時に軸足を跳ね上げず地面につけたまま残す。右足首にチューブを巻くのも2番と同じだ。踏み込むという動作がないため、「重心移動だけで投げることを覚えさせる投げ方です」。
3番は逆にフィニッシュ時に軸足を跳ね上げる。右足首にチューブは巻かない。
「蹴り足の力をボールに乗せる、プラスしていくことを覚えてもらう投げ方です」

 それぞれの投げ方で、意識すべきポイントが違う。逆に、全ての投げ方に共通するのは「リリースポイントは利き腕の前に置く」という一点だ。一連の投球フォームで意識すべき重心移動と首の振りと足の曲げ伸ばし、そして蹴り足とリリースポイント。これらを一つ一つチェックし、1番から3番までの投げ方をマスターすると、それぞれに応用がきくようになる。
「1番でやった頭を逃がさないことを3番に応用すれば、頭を逃がさずにリリースポイントを前に出しつつ、蹴り足の力をボールに加えることができるようになります」

 頭が触れず、リリースポイントが安定すれば制球力は増す。リリースポイントが前に出て、蹴り足の力もボールに乗せられればスピードが増す。こうやって意図的にバランスを整えつつ、自分にとっての理想的なフォームを作っていくのだ。

[page_break:フォームを作る3つのメニュー例 続き]

フォームを作る3つのメニュー例 その2、その3

■シャドーピッチング

 続いて紹介したいのがシャドーピッチング。一般的なトレーニングであるが、花咲徳栄のシャドーピッチングの目的は「フォームを作るため」であると同時に「腕の振りを速くする」ものでもある。
先に紹介した1番、2番、3番の投げ方は、実際にボールを放ることもあるが、シャドーピッチングでも行う。むしろ、ボールを使わない冬場のトレーニングでは主体となる。引き続き福本コーチのお話。
「ボールを投げなくてもピッチングのための練習はできます。自分たちの中では、1年中投げない時を作らないイメージです。かつ、球速を上げるためには腕の振りの速さを追い求めていく必要がありますが、シャドーピッチングは大事なメニューになります」

 花咲徳栄にとって、制球力を上げるためのフォームづくりと、球速を上げるためのフォームづくり、その両方を一度にできるのがシャドーピッチングだ。その意識が高まると、自分で課題を見つけ克服し、さらなる成長につながる足掛かりにもなる重要なメニューだ。昨年の甲子園で登板した経験を持つ清水 達也投手は、「自分は軸足の動きを気にしています。投球時、足を上げて踏み出すまでに軸足を上下動させる中で、タイミングが合った時にいいボールがいく感覚があるので。そのタイミングをシャドーで合わせています」 と持論を語っていた。

■チューブトレーニング

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チューブトレーニングの様子(花咲徳栄)

 こちらもごく一般的なメニューではある。だが、普通はインナーマッスルを強化するためのチューブが、花咲徳栄だとフォームを形作るためのメニューになる。グランド横につなげられているチューブは、インナーを鍛える際に使うものより長いのが特徴だ。
「チューブはゆっくりした動きでフォームを確認する際に使います。さらに、引っ張りますから肩回りを中心とした腕力の強化にもなります」(福本コーチ)

 チューブを持って、始動からフィニッシュまでをゆっくりと行ってみる。すると、チューブの張りを身体のどこで感じるかで、身体の使い方がチェックできる。また、リリースまでしっかり行うことでポイントと力の入れどころも分かる。必要な筋力も強化される。

 その効果を実感しているのが、こちらも昨年の甲子園で登板経験を持つ綱脇 慧投手だ。
花咲徳栄に来て伸びたな、と思うのはチューブトレーニングのおかげです。インナーではなくフォームのためにやるというのは高校に来て初めて知りました。結構強めに引っ張ってフォームを意識しながらリリースを強くすることで、1年秋から冬にかけて強く腕を振ることができるようになったと思います。スピードも伸びました」

 ここに紹介したのはごく一部のメニュー例でしかない。福本コーチが補足する。
「これらのメニューのトータルの形がマウンド上でのフォームになります。そこで、例えば腕の振りは速いが抑えが利かないといった課題が出れば『指ぬき』と呼ばれる鉄アレイを落として指で掴むメニューで指の力を鍛えたり、フィニッシュのバランスが悪いと感じたら『膝出し飛行機』というランジのような下半身強化のメニューで筋力を鍛え、バランスを整えていきます。基本的にピッチャーの練習メニューには全て投げることに直結する内容が入っています。まずは理論的にマウンドに上がるためのフォームづくりを教えていく。マウンドに上がった後の考え方や打者との駆け引きは、また次の段階になります」

 第2回では、広島東洋カープ入りした高橋昂也投手を急成長させた取り組みなどに迫っていきます!お楽しみに!

(取材・文=伊藤 亮

【花咲徳栄の野球部訪問 3回連載】第1回 / 第2回 / 第3回

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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