中央学院高等学校(千葉)「監督、コーチ、選手が一体となって目指す初の甲子園」【前編】
明治35年に創立され、長い歴史を誇る中央学院(千葉)。常に県内上位まで勝ち進み、県内では強豪校として注目されてきた。昨秋は17年ぶりの関東大会進出を決め、今年は初の甲子園出場に期待がかかっている。継続的に甲子園を狙える強豪校であり続けるために必要なこととは?中央学院の改革と取り組みを追った。
主役が選手とコーチになっている理由
相馬 幸樹監督(中央学院)
練習中ノックバットを振るのも、練習の指示や選手に声かけをするのもコーチが中心。率いる相馬 幸樹監督はベンチ付近でじっと見守っている。選手、コーチが主役で、監督が脇役という構図だ。
「今の中央学院の練習スタイルは、私が監督に就任した当時からずっと思い描いていたものでした」(相馬監督)
相馬監督は市立船橋高校時代の1997年夏、投手として甲子園に出場。卒業後は大阪体育大、シダックスまで現役を続けた。大阪体育大時代には上原 浩治投手(現・レッドソックス<関連記事>)と1年間一緒にプレーし、シダックスでは野村 克也氏(元東北楽天監督)や昨年限りで現役を引退した武田 勝氏(元北海道日本ハム)と一緒にプレーした。
現役引退後は大阪体育大学大学院に通い、2007年から中央学院の監督となった。選手として輝かしいキャリアがある相馬監督がいかにして今のようなスタイルになったのか。それを紐解くには監督就任時までさかのぼる必要がある。相馬監督の就任当時、スタッフは相馬監督、部長、学生コーチの3人体制だった。当時について相馬監督は「今と比べるとスタッフもそうですが、環境も含めて、選手たちにとって良いものではなかった」と振り返る。そんな中、5年前の2012年にスタッフの増員に着手。またそれだけではなく、三食寮生活の選手も自宅通いの選手も、一緒に学校の食堂で食事させたり、体の切れを出すためにウォーミングアップにダンスを取り入れるなど、練習の中身も改革した。
体幹トレーニングに取り組む選手たち(中央学院)
現在はAチーム・Bチームに1人ずつ、野手・投手専任のコーチがいるまでに充実した。練習中は選手達を見守るというスタンスになった理由を聞くと、
「高校野球は、監督の比重が大きくなってしまう世界です。もちろんそれも悪いわけではありません。あくまで僕の考えですが、監督が指導に入り込みすぎると、指導している選手だけに熱が入ってしまい、そこにえこひいきが出てしまいチームの和が乱れるリスクがあると感じたんです。
コーチがいて、そして役割分担をしながらあるべき仕事を全うすることが一番大事なのかなと思います。監督という立場上、一歩引いてみている方が全体を俯瞰して見ることができますし、客観的な評価をして判断を下すことができますので、コーチの存在はありがたいですね」
技術的な指導はコーチが行うが、相馬監督も指導者陣も選手たちに一貫して伝えていることがある。それは「野球に対する考え方の構築」だ。この考えに至ったのは相馬監督の現役時代がきっかけだという。
「社会人野球の経験から分かったのは、取り組みが甘い選手は結果を出すことはできないということ、そして、容赦なく『上がり』が宣告される世界だということです。僕が2年目のときに野村 克也さんが監督になりまして。野村さんの就任直後に10人ぐらいはクビになりましたから。こういう現実を目の当たりにしていて、なんとなくやっていてはダメだと、より痛感したんですよね」
社会人で活躍する選手は、野球に対する向き合い方がしっかりしているということを学んだ。相馬監督は「本気で野球に取り組んで築き上げた取り組みや考え方は絶対に錆びることはないですし、それを教えるのが私たちの役目であり、選手たちに口酸っぱく言っていることですね」と語る。
自分の力量を明確に知ってほしい
菅井 聡コーチ(中央学院)
Aチームの投手陣を指導し、母校・中央学院出身の菅井 聡投手コーチも自身の高校時代を振り返り、「自分を知ること」の大切さを説く。
「大事なのは自分の力量を明確に知って、上達に向けて自分には何が足りないのか、何に取り組むべきなのかを知ってほしいですね。僕の高校時代を振り返ると、県外の野球について全く知らず、ただ一生懸命練習をすればプロに行けるのではないかと、漠然と考えて取り組んでいました。だけど立正大に進んで、そうではないと気付かされたんです」
そこで取り組みを改めた菅井コーチは、大学4年生には小石 博孝投手(現・埼玉西武)とともに神宮大会で優勝を経験。日本通運に進んでからは2017年WBC代表の牧田 和久投手(埼玉西武・関連記事)と1年間プレー。牧田投手からは「トレーニングに対する取り組み方」などを学び、現役引退後は2015年秋から投手コーチに就任し、これまでの選手生活で経験したことを惜しみなく伝えている。
エース・大谷 拓海への指導
投手陣たち(中央学院)
4人のコーチたちの指導アプローチは様々だ。菅井コーチが「選手の能力や性格によって指導の仕方や、技術的なテコ入れのタイミングを変えています」と語るように、1年生ながらエースを務め、最速140キロ右腕の大谷 拓海に対しては、技術的なことはいじらず、取り組み面の指導にあたった。
昨秋は関東大会1回戦の山梨市川戦で1安打完封を成し遂げるなど大きく活躍を見せた大谷だが、菅井コーチの目にはまだ全てにおいて発展途上に映っているという。
「1安打完封勝利した試合でもフォームはまだまだバラバラで、本人は全身を使って投げているように見えますが、まだ腕の力だけですね。フォームは全身の連動と体重移動がうまく絡んでいくことが大切ですが、大谷はまだそれができていません。フォームの指導については少しずつ入っていきたいと思います」
この冬は体重増加を行いながら、2月には体重移動を改善させるトレーニングに入っている。菅井コーチは大谷の潜在能力の高さを高く評価しながらも、「我々が描く投手像と本人が描く投手像がマッチングしなければ、指導で空回りするだけなので」とコメント。3月に入ってから、それまでの成長度を確認したり、大谷の会話の受け答えから指導のアプローチを考えていくようだ。
一方、大谷の2番手として活躍した藤井 翔太については手取り足取りで指導した。
「藤井を預かったのは1年冬からですが、当時は投手をやる意欲もなく、技術面も大きく課題がありました。彼を何とかしたいという思いで、1から10まで教える指導をしていきました」
こう話す菅井コーチの指導により、藤井は2番手投手として成長を果たしていった。
後編では各コーチの指導論を伺いつつ、春と夏の大会へ向けての意気込みを伺います。
(取材・文=河嶋 宗一)
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