Column

県立柏南高等学校(千葉)「選手の気質、雰囲気を尊重したチーム作りで秋・県ベスト4!」

2016.12.18

 群雄割拠の千葉県高校野球。この2016年秋、躍進を見せたのは県立柏南高等学校だ。秋季大会地区予選を勝ち上がり県大会出場を決めると、県大会では1回戦で日体大柏を1対0で下して勢いに乗り、準々決勝では、千葉敬愛延長15回の引き分けを演じ、中1日空いた9月28日の再試合では打撃戦となったが、9対6で破り、準決勝進出。準決勝では中央学院に敗れたとはいえ、5対9と5点を奪い、意地を見せた試合であった。

 今秋だけではなく、この夏の千葉大会では銚子商に逆転勝利、2回戦では木更津総合に1対2と互角の戦いを見せた。また2015年春には、習志野を破ってベスト8進出を果たしている。近年、強豪ひしめく千葉県でも実績を残しつつある柏南の強さの秘訣を探った。

良く打ち、良く守り勝った秋季大会

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マネージャー室に飾られた千羽鶴(県立柏南高等学校)

「打撃戦となった試合もありましたし、一方で、ロースコアの試合となって守り勝った試合もありました」
 秋の大会をそう振り返る武部 外司広監督。金沢桜丘高出身で、立教大では投手。立教大の先輩には、1982年に西武ライオンズにドラフト1位指名を受けた野口 裕美投手がいる。その後、市立柏の指導者、柏南の部長などを経て、今秋から監督に就任した。

 監督就任直後の快進撃だった。武部監督が、チーム作りにおいて大切にしていることは、
「走攻守をバランスよく指導しますが、その年ごとの生徒の持ち味を尊重させることを大事にしています。選手の気質とか、そのチームごとの試合の雰囲気とか、良いところはそのままにしていきます」

 たとえば今年のチームは、練習では前チームの3年生よりも打球を飛ばさないが、いざ試合になると打つという実戦向きな一面を持っていた。
「Bチームの時からガンガン打って大勝したりしていて、実戦になったとたんに、打てるチームになっていくんですよね。バントなど細かいことができないのが課題ですが、それは気にせず打たせていきました」

 そのため新チームスタート後、指揮官はこれまでBチームでやったきた雰囲気を大事にチーム作りをしてきた。
「彼らも前チームから、3年生と一緒に練習をしていますから、意思疎通はできていましたし、特にうるさいことは言わずにやらせました。打撃については、考えながら打席に立てる子が多いですから、それがうまく出た大会だったと思います」

 地区予選県大会を振り返ると、地区予選1回戦の二松学舎柏戦で11対1、県大会では2回戦で東金に14対3、準々決勝の千葉敬愛との再試合では打ち合いを制したりと、打ち勝つ試合が目につく。

 一方で見逃せないのは、守り勝っている試合もあるということ。県大会1回戦では日体大柏に1対0で勝利、[stadium]ゼットエーボールパーク[/stadium]で行われた県大会3回戦袖ヶ浦戦では、雨が降り続いていてグラウンドコンディションが悪い中、堅い守備を見せ続けた。試合は延長10回に及び、2対1でサヨナラ勝ち。そして準々決勝千葉敬愛戦では、最終的には4対4の引き分けになったが、延長14回までは1対1の好勝負だった。この千葉敬愛戦も「もし守りが崩れていれば敗れていた試合だった」とナインは振り返っている。

[page_break:快進撃の要因は練習からの「実戦想定」]

 ではなぜ守り勝ちができたのか?それは練習の中にある。柏南のノックはすべて「無死一塁や、一死二塁」など状況を設定したノック。いわゆる「実戦練習」だ。
「うちはただ捕って投げてのシートノックはありません。だから全員が守りますし、1人当たりのボールを捕れる数はただの捕球練習よりもかなり少なくなります。状況によっては1球も捕らないで練習が終わる選手もいるかもしれません」と武部監督。それでもこのノックをやり続けるのには明確な狙いがあるからだ。

「野球はいろいろな状況を想定して、こういうポジショニングをしなければならない、カバーリングをしなければならないなどと、考えていかなければならないからです。このノックを行うことにより、控えの選手が途中出場しても、それほど戸惑いを見せることなく守ることができています」

「やっぱりいろいろなプレーを想定した練習をすることで、試合に入っても、練習通りのプレーができるので、良い練習だと思います。全体の守備練習が足りないと思ったら捕球練習を行う選手もいますし、逆に意識を高められる良い練習だと思います」と、これには選手たちも手ごたえを口にしている。

快進撃を見せた中心選手たち

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飯田 友輝投手(県立柏南高等学校)

 では柏南ではどんなキャラクターを選手たちが中心となっているのだろうか。まず強豪・日体大柏相手に6回まで無失点に抑えた飯田 友輝(2年)。球速は125キロ程度と極めて平均的な右腕。飯田自身も秋の出来に首をかしげる。

 「県大会を見ると、僕よりも速い球を投げる投手が打たれていて、こんなにもボールが遅い自分が抑えているのが、全く不思議でしょうがないです」。それでも抑えられるの秘訣は?。
「相手打者のタイミングを外すのが得意ですね。投げるまでに打者を見ながら少しだけタイミングを外しています」。

 そんな飯田をリードする坂井 廉太朗(2年)も持ち味を引き出した。
「飯田はコントロールが良いので、僕はリードする中で、相手打者が打ちにくそうなコースを選択しながら打たせて取ることができました」。加えて統率力が高くナインを引き締めるのが得意な坂井。主将の福崎 泰生は「いつも言ってくれるので助かります」と信頼を寄せる。

 打線に目を転じると3番にはチーム一の飛距離を誇り、本塁打を打てる兎澤 悠介、4番・飯田、5番・坂井はパンチ力ある打撃が持ち味。6番には打力の高さをアピールしてそのままベンチ入りして、勝負強い打撃とライナー性の打球を連発する左の好打者・宮川 享大が控える。

 しかし、このチームの中心は「下位打線」である。中心は主将の福崎。打者としては広角に打ち分け、守備では安定した遊撃守備を見せる。福崎は大山口中時代も主将を経験しており、そのリーダーシップの高さはチームメイトも高く評価する。「福崎がしっかりとチームをまとめることで、私が特に言うことはありませんね」と武部監督の信頼も絶大だ。

[page_break:バントの精度を高め、来年、再び躍進を]

 こうして実りの秋が終わり、チーム全体の底上げを目指している柏南。現在は投手力強化を重点的に行っている。実はエースの飯田は秋の大会で受けた死球により以降、投げることができず。さらに捕手・坂井も秋季大会後の練習試合の際に死球で戦線離脱。10月から11月にかけての練習試合は4強入りの原動力となったバッテリーが欠けた中で試合を行った。試合スコアは当然苦しいものとなり、大敗した試合もある。

 しかし、そんな中で伸びてきた選手もいる。1人目は一塁手を務める大森 一秀(2年)。袖ヶ浦戦ではサヨナラ打を打つなどバットコントロールの良さが光る好打者だが、投手も兼任しており、大会後の練習試合では飯田の代わりに主力投手格となった。最速135キロを誇る右投手で、柏南の投手陣の中では最も球速があり、さらにスライダーの切れも光る。春にはエースナンバーを奪いたいと意気込む大森、そして秋季大会で登板した1年生の武川 瑞希も今後の成長に期待がかかる。この3人で切磋琢磨できればと武部監督は期待する。

バントの精度を高め、来年、再び躍進を

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福崎 泰生主将(県立柏南高等学校)

 この期間で課題もはっきり見えた。「バントの精度」である。
「彼らはまだバントが下手ですね。それでも秋の大会や練習試合を通してみても、バントがしっかりと決まった試合は得点に絡んでいます。そこは大事にしていきたいと思っています」

 この秋はチームの持ち味を失わせないよう強打にこだわった。しかし、それだけでは攻撃のバリエーションが少ない。バントをうまく使って、攻撃の幅を広げたい。よって、武部監督が求めるバントは単純なものではない。いわゆる「セーフティバント」である。

「よく投手はバントをしてくれるとアウトを1つもらえるから楽という声があります。僕も投手経験なので分かります。だけどうちが求めるはすべてセーフティバント。アウトになってもいいんです。ギリギリのタイミングであわよくばセーフになれれば儲けものという感覚でやらせています。たとえアウトになっても心理的なプレッシャーをじわじわと与えることができる。この一冬を通して、それができればと思っています」

 主将の福崎もその意見にうなずく。「朝練では、マシンを使って、バント練習を繰り返しやっています」と取り組みの一端を教えてくれた。

 かくしてその代ごとの選手の持ち味を尊重しながらも、守備練習はかなり実戦を想定して行い、さらに戦術においては相手に心理的なプレッシャーを与えるために工夫をしている柏南。来春以降、どんなチームを目指していきたいのか?と武部監督に伺った。
「ベスト4だからさらに上を目指さなければならないという気持ちになって身構えた姿勢で試合に臨んだら、このチームは間違いなくすぐに負けます。実際に秋の大会後の練習試合は負けが多いです。ですので挑戦者の気持ちでやっています」

 そして主将の福崎も。「正直僕たちは去年の3年生たちより弱いと思っています。だから秋のベスト4入りしたことは忘れてやっていますし、挑戦者のつもりでやっていきたいです」と意気込みを語る。
おごる姿を見せることなく、さらに自分を高めている柏南の選手たち。「ハクナン旋風」を巻き起こすことに期待したい。

(取材・文=河嶋 宗一

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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