明徳義塾高等学校(高知)「強豪を形作る『選手主導ゲームプランニング』」【前編】
2016年も春夏連続甲子園出場を果たし、夏の甲子園ではベスト4。新チーム結成後も秋の四国大会優勝と、四国地区のみならず全国屈指の強豪であり続ける明徳義塾(高知)。名将・馬淵 史郎監督による強烈なリーダーシップは、高校野球界を超えた話題を集めている。
がしかし、明徳義塾の強さはそれだけではない。実はゲームプランニングの部分には選手参画の部分が多分に含まれているのだ。そこで今回は3年生6名の証言を下に、「選手主導のゲームプランニング」を紹介。これから冬の練習を迎える現役高校球児の皆さんにも春・夏の公式戦を戦う上で参考になる戦術の一端を、ここで知ってもらえれば幸いだ。
明徳義塾の守備プランニングは「選手主導」
前列下から時計回りに立花 虎太郎・大北 海斗・中野 恭聖・高村 和志・西村 舜・古賀 優大(明徳義塾高等学校)
高校球児の皆さんのみならず、誰もが抱く第一印象だろう。試合前は徹底的に対戦相手を調べ上げ、試合では全知全能を使ったベンチワークで実力差がある相手をも崩してしまう。確かに過去、何度も下馬評を覆した原動力に、この指揮官の力があることは間違いない。しかしながら時代と共に高校野球も変化する。明徳義塾もその対応を迫られる中でミーティング内容を変えてきた。
では、そうやって?ここからは甲子園ベスト4メンバーの3年生たちにグループトークを展開してもらおう。参加者はレギュラーメンバー以下の6名だ。
・高村 和志(7番遊撃手・前主将・170センチ63キロ・右投右打・東大阪リトルシニア<大阪>出身)
・中野 恭聖(9番投手・172センチ70キロ・右投右打・えひめ西リトルシニア<愛媛>出身)
・古賀 優大(4番捕手・178センチ75キロ・右投右打・友愛野球クラブ<フレッシュリーグ・福岡>出身)
※2016年インタビュー:「探究の『肩』と研究の『リード』で真の『女房役』へ」
・大北 海斗(6番三塁手・181センチ77キロ・右投右打・えひめ西リトルシニア<愛媛>出身)
・西村 舜(2番左翼手・169センチ65キロ・右投右打・滋賀野洲ボーイズ<滋賀>出身)
・立花 虎太郎(1番中堅手・181センチ75キロ・右投左打・大阪南海ボーイズ<大阪>出身)
まずは高村が夏の甲子園初戦・鳥取境(鳥取)戦前のミーティングを再現する。
「全体ミーティングではDVDを見ながら監督さんや、(佐藤 洋)部長・コーチの皆さんから『アウトコースのボールが引っかかるので、右打者はそのボールを振らない。甘い球だけを狙っていく』指示がありました」
このように甲子園初戦の場合、対戦相手のDVDは試合2~3日前からつぶさに見て、前日は最終確認して試合に臨む。これが明徳義塾のパターンである。
外野手の返球練習(明徳義塾高等学校)
ただ、明徳義塾の場合、指導者側からつぶさに指示があるのは攻撃面のみ。ポジショニングなど守備面のゲームプランニングは選手側に大半が任されている。
たとえば外野手の場合。中堅手の立花や左翼手の西村は「右中間や左中間のカバーリング。フェンスのクッション、右翼手が谷合(悠斗・1年)だったのでカバーリングの声かけをこまめにすること」を事前に話し合った上で、さらに内野手の後ろに上がったフライについても入念に打ち合わせを済ませていた。
「左中間は基本は浜風でフォローの風が吹くので、遊撃手(高村)の後ろに飛んだフライはできるだけ自分が捕りに行くことは決めていました」と西村が明かしてくれた。
一方、内野手はDVDをポジショニングの参考にする。
「DVDを見て、バットが外回りの場合引っ張りの可能性が高いので、右打者ならば(高村)和志と『こっちにきそうだ』とコミュニケーションを取って、三遊間を締めます。また左打者で小柄な打者の場合は、追い込まれた場合は当てて転がしてくることを頭に入れて声をかけます。イニングや点差を考えて三塁線を締める、締めないも判断していきますね」
三塁手の大北が話した「見るポイント」は高校球児の皆さんにも大いに参考になる話だ。
「投手の持ち味を出す配球法」と「練習で身に付ける」考え方の基本
では、バッテリー間の確認事項は?10月20日のドラフト会議で東京ヤクルト5位指名を受けた古賀は「投手の持ち味を出す」配球法を教えてくれた。
「僕は投手の持ち味を出した中でいかに相手を抑えるかをまず考えていました。試合中は、そこに投手の調子や、DVDと実際の打者の状況をを見比べながら、守備ポジショニングを決めていきます。サイドハンドの金津(知泰・3年・176センチ70キロ・守口リトルシニア<大阪>出身)であれば、引っかける打球が多い。中野の場合もゴロが多くなるので、ポジショニングを指示しました」
「DVDを見て長打がでそうな打者を見極めてからマウンドに上がった」中野が甲子園準々決勝まで「防御率0.00」を継続できたのも、古賀との密なコミュニケーションがあったからに他ならない。
さらに言えば、彼らがこのような思考を試合前からすぐに巡らすようになったようになったのも理由がある。明徳義塾では普段の練習では通常のノックばかりでなく、ランナー付きのノックやケースバッティングがほほ毎日といっていいぐらい採り入れられている。選手たちは試合中に起こりうる様々なケースを体得しながら、最適な守備ポジショニングを学んでいくのだ。
「2年の時には試合でも慌てることなく、状況に応じてプレーできるようになりました」と話すのは1年夏からベンチ入りした高村。2年秋から定位置を確保した立花も「センバツ前にはできていました」と語る。練習で身に付けたものを、試合で発揮するために選手たちが自ら考える。これも明徳義塾がながらく強者である理由の1つである。
明徳義塾のゲームプランニング術は、後編に続く!!
(取材・文=寺下 友徳)