Column

八王子高等学校(東京)「3年連続初戦敗退を乗り越えて」【vol.2】

2016.09.27

 前回は、この夏、初の甲子園出場を決めた八王子に、「試合の振り返り方」を1つのテーマにお話を伺ってきました。第2回では、これまでの八王子の苦悩から、どのように試合の振り返りを行い、強いチームへと遂げていったかを描いていきます。

3年連続初戦敗退の教訓――生徒を委縮させない

八王子高等学校(東京)「3年連続初戦敗退を乗り越えて」【vol.2】 | 高校野球ドットコム

グラウンドでミーテイングする選手たち(八王子高等学校)

「2011年のチームは前年秋の都大会準決勝まで勝ち進み、勝てば甲子園が確定するところまで行ったチームでした。しかもその準決勝は同点で9回1アウト満塁まで攻めた。それでも点が取れず延長で敗れて、勝った國學院久我山が甲子園に出場したんです。このチームは春の関東大会にも出場したチームでしたが初戦敗退。上手くいかなくなるととたんに崩れるし、ミスをすると連続するし、大事なゲームになるほど生徒は委縮してガチガチになりながら野球をしていました」

 今でもさらっと過去の試合の詳細を思い出せるのはさすがだ。それだけショックだったということか。安藤 徳明監督の心に巣食っていた、言い知れぬ違和感は現実の問題となって姿を現してしまった。

「生徒たちがグラウンドで思い切りのびのびと自分たちを信じて野球をする時って、ミスを恐れたりしないだろう、と。たとえ失敗しても、思い切ってやれるはずだ。そのようにプレーしてもらうためには、どのような言葉がけをしたらいいのか、サインを選択したらいいのか、指示をしたらいいのか…。今振り返ると、勝てなかった時期はそういうことをすごく考えていました」

 この迷いの時期が、現在の「選手たちをやる気にさせる」「練習に真剣に向き合わせようとする」方針を導き出す。

これまでにない苦労をした代

 安藤監督の考え方が徐々に変化するにつれ、八王子も強さを取り戻した。2013年夏3回戦敗退(0対10国士舘)も、2回勝った。2014年夏準々決勝まで勝ち進み、東海大菅生に惜敗する(3対4)。そして2015年夏ベスト8まで勝ち進んだ(準々決勝早稲田実業に5対11で敗退)。そして今年、過去幾度も壁となり立ちはだかられた甲子園出場経験のある強豪校を破り、甲子園初出場を遂げた。なぜ、この夏は壁を乗り越えられたのだろうか。

 じつは甲子園に出場したチームは、昨秋の大会で1回戦負けを喫している(3対5都立城東)。どうやら、この試合の振り返り方にポイントがありそうだ。
安藤監督は、秋、春の公式戦と夏の公式戦を分けて考えている。

「秋や春は――たとえ失敗しても――生徒たちの可能性や能力を広げるために、公式戦であってもテストをしたりします。というより、せざるを得ないんです。あるランナーとあるバッターの組み合わせで一番得点を奪える確率の高い選択肢が、秋、春の段階ではわかりませんから。これが練習試合からわかればいいのですが、練習試合でできることが、独特の緊張感が支配する公式戦ではできない生徒はいっぱいいます。本番で信頼できる選択肢を得るためには、公式戦で試してみないといけないわけです」

 これも一種の試合の振り返り方だろう。個々がどのケースでどの選択肢を得意とするか、またランナーとバッターの組み合わせで最も効果的な選択肢は何か、公式戦でのデータから答えを見出し最後の夏へ活かす。

「なので昨秋の初戦もテストをしていました。初回にスクイズとヒットで2点を奪われて。その後1アウト一塁から三塁打で1点を返し、さらに1アウト三塁の同点のチャンス。ここでどうするか。結果的には打たせて内野ゴロ、ホームでアウトになりました。その後、点差を離され負けたのですが、上記のケースで追いつくか、1点ビハインドで終わるか、ではその後の試合展開は全く違ったはずです」

[page_break:公式戦の1試合と練習試合の1試合は全く違う]

公式戦の1試合と練習試合の1試合は全く違う

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川越 龍元主将(八王子高等学校)

 このケースから学んだのは、この時の三塁ランナーは、足は速いが内野ゴロのスタートはよくないということ。その後の夏の大会時、同様のケースでの選択肢は全く違うものになったという。

「そういう手探りの状態でありながら、秋の初戦で負けたことでコーチともいろいろ話しました。例年に比べ小粒でパワーもなかったから体を大きくしようと。でも、僕の中では前年、前々年の生徒たちの方がはるかに実力は上だった。このまま同じことをしても、行く先はなんとなく見えてしまう。だったら違うところに勝ち目を見出さないと、とてもじゃないけど勝ち抜けないだろうと」

 ここから先は選手目線の話を聞いてみよう。引退したばかりの川越 龍・元主将に話をうかがった。
「変わらなきゃいけない、という話をされて。そこで自分たちでミーティングをしつつ、チームカラーを決めました。それが最終的に『走塁』になったんです」

 川越元主将は、2年夏はベンチ入りせず。それが、いきなり新チームで主将を任され、公式戦に出場した。練習試合の1試合と公式戦の1試合では、同じゲームでも全然違うということを思い知らされたという。その貴重な経験の場が1試合で終わってしまった。その悔しさが、練習に向き合う態度を変えた。

「もともと、うちには注目される選手があまりいません。やっぱり『ありんこ軍団』なんです。自分も八王子に進学した際、正直甲子園に行けるとは思わず、いかに(強豪校に)喰らいついていくか、と考えていて。自分たちで下手くそだとずっと言っていました。でも、下手くそなりにできることはあるんです」

 話を安藤監督の言葉に戻す。
「走塁練習は毎年します。練習するほど上手くなりますし、野球の考え方もよくなりますし、知識の方が上回る分、打つ、投げるに比べて個々の身体能力の制約を受けないので。ただ、変えたのは基本からもう一度徹底的にやり直したことです。彼らは、我々と同じく力のなさを自覚していました。

 だから、どうやったら勝てるかを真剣に考えなければ、強豪校に太刀打ちできなかった。先輩たちに比べて足りないものを、どうやったら補えるかを一生懸命考え、取り組まなければならなかった。そこは、これまでにない苦労をした代だったと言えます」

 (まだまだ続く!第3回もお楽しみに!)

(取材・文=伊藤 亮

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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