Column

市立太田高等学校(群馬)【後編】

2016.08.25

 前編では、市太田の守備の自主練習について紹介した。後編では打撃の自主練習での取り組みをお伝えしよう。

打撃の自主練習でもまず指導者が基本とすることに取り組む

全選手の月間目標が記されたホワイトボード
(市立太田高等学校)

 前編の通り、市太田の自主練習ではまず、指導者が考える基本の習得がテーマになっているが、打撃を担当する水久保監督が、基本と考えていることは2つある。それは(1)タイミングの取り方と、(2)引き付けて打つ、だ。

「タイミングが上手く取れるなら、それで8割方はOKというくらい、バッティングではタイミングが重要です。取り方は人それぞれなので、私はどこで取ってもいいとも思うんですが、一般的な高校生だと上半身で取ると、どうしても140キロ超のスピードボールへの対応は難しい。そのため、下半身でタイミングを取るように教えています。

 また“引き付けて打つ”ことを基本としているのは、打者は本能的に詰まりたくないので、ポイントがどうしても前寄りになるからです。金属バットを使っている高校生の場合は、上体の力だけでも打てる分、前でさばきたい意識がその原因になっていることが多いようですね。調子が良くなるほどに、ポイントや軸が前になる傾向もあります。ですが、これでは体の開きにつながったり、フォームを崩す原因にもなります」

[page_break:自分のフォームがイメージできれば修正ポイントがわかる]

自分のフォームがイメージできれば修正ポイントがわかる

真横からのティー打撃で引き付けて打つ技術を身に付ける(市立太田高等学校)

 具体的にどのような練習を自主練習で行っているかというと、基本の1番目のタイミングの取り方については写真の通り、イチ、ニッのリズムで1度前に重心を預けてから、バットを引く。水久保監督によると「ニッの時にズボンの右側、ベルト下の腰のあたりにシワが多くできていれば、下半身でタイミングが取れていて、かつ、強い打球を打つためのパワーが溜まっている証しです」

 基本の2番目の引き付けて打つ、については、有効な練習法が「真横からのティー打撃」だという。

茂木 優悟選手(市立太田高等学校)

「斜めからのティーだと、打っていくうちにだんだん体の重心が前に出てきてしまい、それでも打てるんですが、真横からのティーを打つためには、引き付けて打つ形でなければ打てないからです」

 チームの四番を打つ189センチ82キロの大型打者・茂木 優悟選手(2年)はこの2つのメニューに、独自の練習法をプラスして自主練習をしている。

 1つは自分の姿を見ながらのスイング。茂木選手は「試合でフライを打ち上げてしまうことが多いので、バットヘッドが立った状態でバットが出てくるよう、鏡やガラスを見てチェックしながらスイングしています」。加えて、スイングの時に後ろ足の踵が上がってこないことから「使い古しのティーボールやテニスボールを踏んで、真横からのティー打撃を行っている」という。これは「(後ろ足の踵が上がってきて)右の下半身をぶつけるようにスイングできれば、飛距離も出るようになると考えているからです」

 水久保監督は「今の高校生はスマホなどで、すぐに撮影した自分のフォームの動画が見られるのに、どうも自分のフォームを頭の中でうまくイメージできない」と言っていたが、茂木選手の場合、それができるから、こうした自主練習ができるのだろう。

ドリルを行うことでケガをしない投球フォームを身に付ける

 投手の指導を担当している津久井部長は、投手の基本について「理に叶ったフォームというよりも、とにかくケガをしないフォームで投げること」と考えている。これは津久井部長が、大学卒業後、航空自衛隊の野球部でプレーしていた時「ケガをして全く投げられなくなった経験をしているからです」。投手陣は自主練習で、津久井部長が考案したケガをしないフォームで投げるためのドリルを、それぞれの課題に応じて行っている。例えば軸足が安定しない投手なら、それを改善するメニューに取り組む。

「ドリルのメニューについては、多少こちらの押し付けのところもありますが、そうやって自分の課題に向き合ってほしいと思っています」

 次ページでは、津久井部長に教えてもらった、ケガをしないフォームを作るための課題克服ドリルを紹介。

 

[page_break:津久井部長直伝、ケガをしないフォームを作るための課題克服ドリル]

津久井部長直伝、ケガをしないフォームを作るための課題克服ドリル

■軸足

【1】足を上げる時の軸足作り
バランスクッションなど不安定なところに軸足を置いて足を上げる。
※この段階で軸足がぶれると大きなブレにつながる。

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  • 不安定なところに軸足を置く

  • 軸足はぶれずに上げることができるか

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不安定なところに軸足を置く

軸足はぶれずに上げることができるか

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【2】足の上げ方
そのまま真直ぐに足を引き上げないで、「ハの字」の方向から股関節に乗せることを意識しながら引き上げる。
※こうすると軸足にしっかり力が溜まる。

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  • 足上げ前

  • そのまま真っ直ぐに引き上げない

  • 「ハの字」の方向から股関節に乗せることを意識

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足上げ前

そのまま真っ直ぐに引き上げない

「ハの字」の方向から股関節に乗せることを意識

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【3】軸足でガマンする
軸足に力を溜めながらケトルベルを持ち、軸足を意識してケトルベルを持ち上げる。
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  • 軸足で力を溜めて持つ

  • 軸足を意識して持ち上げる

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軸足で力を溜めて持つ

軸足を意識して持ち上げる

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■踏み込み

【1】ヒップファースト
写真のように捕手の方向を12時として11時の方向にラインを引く。そして腰に意識を注力しながら11時の方向に尻を向ける。
※12時の方向に踏み出すと頭が残りにくい。

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  • 捕手の方向を12時として11時の方向にラインを引く

  • 腰に意識を注力しながら11時の方向に尻を向ける。

  • ※12時の方向に踏み出すと頭が残りにくい。

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捕手の方向を12時として11時の方向にラインを引く

腰に意識を注力しながら11時の方向に尻を向ける。

※12時の方向に踏み出すと頭が残りにくい。

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【2】真直ぐに踏み出す
踵からホームベースの頂点に向かってラインを引き、それに沿ってヒザとつま先を踏み出す。

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  • 踵からホームベースの頂点に向かってラインを引く

  • 足上げ

  • それに沿ってヒザとつま先を踏み出す

  • 横から見た踏み出しの動き

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踵からホームベースの頂点に向かってラインを引く

足上げ

それに沿ってヒザとつま先を踏み出す

横から見た踏み出しの動き

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■リリースとフィニッシュ

 ランジウォークからボールをみぞおちに挟み、そのまま投げる。ここでのポイントはあごの下に肩が入るようにするのと、フィニッシュの際は、軸足の裏が真上に来て、踏み出した足1本で立てるようにすること。
※ボールを前で離そうとする意識が強い余り、体が伸び切り、トップも上がってこず、力が加わっていない状態で投げている投手のフォームを修正するためのドリル。

[pc]

  • ランジウォークからボールをみぞおちに挟む

  • あごの下に肩が入るようにする

  • 軸足の裏が真上に来ること

  • 踏み出した足1本で立てるようにすること

  • 前で離す意識は強すぎないこと

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ランジウォークからボールをみぞおちに挟む

あごの下に肩が入るようにする

軸足の裏が真上に来ること

踏み出した足1本で立てるようにすること

前で離す意識は強すぎないこと

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■肩の入れ替え

 左手で長い棒を持ち、そのまま長い棒を引き寄せるようにして、イチ、ニッ、サンのリズムでシャドースローを行う。

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  • 左手で長い棒を持つ

  • 長い棒を引き寄せるようにして

  • イチ、ニッ、サンのリズムでシャドースロー

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左手で長い棒を持つ

長い棒を引き寄せるようにして

イチ、ニッ、サンのリズムでシャドースロー

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 ドリルを行っていた投手の中で特に目線が高かったのが、エースで「投手長」も務める中村 光投手(2年)。「津久井部長から与えてもらったメニューを“こなす”ではなく、自分でやる、という意識でないとレベルアップできないと思っています」と話す中村は、腕と足に「加圧」の器具を装着し、フォームの課題を修正しながら同時に体力作りも行っていた。

 今回の市太田野球部訪問で印象に残ったのが、自主練習をする上で最も重要なのが、今の自分を知るということ。新チームが結成され、そこでのレギュラーを目指している高校球児も多いだろう。まずはそのために何が必要か、正しく理解し、その上で自主練習に励んで欲しい。

 市太田の水久保監督、津久井部長、そして取材に協力いただいた選手のみなさん、ありがとうございました!

(取材・文=上原 伸一


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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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