光泉高等学校(滋賀)【後編】
前編では春季大会までの軌跡を描きました。後編では、今年のキーマンである投手陣や夏へ向けての意気込みを選手たちに伺いました。
ラグビー高校代表の監督に目に留まるほどの体格を持つエース左腕・山田篤史
山田 篤史選手(光泉高等学校)
春に失点を1試合平均1.17点に抑えられたのは、ミスをしなかったことに加えて投手の力によるところが大きい。エースの山田 篤史(3年)は身長192センチの大型左腕。自分より背の高い左投手に会ったことはないという。入学直後はラグビー部の薬師寺 利弥監督から「ラグビーをすれば絶対日本代表になれる」とのラブコールを受けた。
光泉は野球部以外にも部活動が盛んで、中でもラグビー部、バスケットボール部、硬式テニス部、アイスホッケー部は滋賀県では敵なしを誇り、全国大会常連だ。しかもラグビー部の監督は昨年、高校日本代表チームのコーチを務め今年は監督として指揮を執る予定。
その薬師寺監督のお眼鏡にかなった山田だが、野球を選んだ。今でも体重は80㎏弱と線は細いが、これでも入学時からは約15㎏の増量に成功している。得意とするのは右打者の内角を攻めるストレートと低めへのチェンジアップ。長身を生かした球筋は年間100試合以上をこなす強豪校であっても初見で打ち崩すことは難しい。
春は山田が先発を務め終盤を西条 耕太朗(3年)で締めるのが勝ちパターンだった。西条は1年秋から公式戦のマウンドに上がり、経験は豊富。投手陣の中では唯一昨年夏もベンチ入りしていた。しかし、春先の練習試合では先発した試合でピリッとせず。
その結果、山田と交互に先発するのではなく山田から西条へ、長身左腕から右のスリークオーターへの継投が基本スタイルとなった。出番が巡って来るのは6回か7回であることがほとんど。そのため山田がどれだけ完璧なピッチングを披露していても3回からはブルペンに向かう。投手にとって立ち上がりや代わり端は永遠の課題だが西条は途中からでもすんなり試合に入り込める。
夏へ向けては「打たせてとるのが持ち味なんですけど、ウイニングショットを作って三振も取れるようになりたい」とレベルアップを誓う。決め球候補は1年秋から投げているカットボール。現在の完成度は70~80点といったところで、夏までに100点を目指す。
投手陣の柱は山田と西条の左右2枚看板だが、秋の北大津戦で苦いマウンドを経験している小傳良 創にはこの夏、隠し球としての期待がかかる。西条とは中学時代も同じボーイズに所属し当時のチーム内評価は上。高校入学時も新入生の中でナンバーワンの評価を得ていた。左腕から繰り出すストレートの威力は抜群で、ストレートと変わらない腕の振りから投げるスライダーは、ホームベースの手前でワンバウンドする球でさえも打者は思わず手が出てしまう。
春先にインフルエンザにかかりしばらく休んだことでフォームを崩したが、最近になって復調。安定感に欠ける一面もあるがハマった時は打たれない。
甲子園で校歌を歌うためにも好投手揃いの滋賀を勝ち抜く
古澤 和樹監督(光泉高等学校)
「山田がどれだけ放れるかにかかっている。ただ山田だけでは勝てないので、西条もどれだけ放れるか。夏は完投もさせようと思っています。2回戦を山田、3回戦を西条で行けたら最高ですね」と夏を見据えている古澤 和樹監督。春は全試合継投で戦ったが、練習試合では完投させている。しかもその過程で山田が好投。春の優勝が自信となったか調子は今の方が良い。もう一段階上のレベルに行ける予感が漂っている。
「春と同じ戦いをしたい。ピッチャー中心に守備でリズムを作って攻撃につなげる野球が出来れば。高校野球ってメンタルの部分も大きいと思うんですよ。夏はいろんな要素があるので、相手の方が強くてもうちが攻め続けて100の力出すことが出来れば、相手が70や80の時に勝機はある。自分達の力を100%出せるようにしたい」
今年の滋賀には北大津の竹村 航以外にも近江の京山 将弥(3年)と内林 瑞貴(3年)、滋賀学園の神村月光(2年・関連記事)ら好投手が揃う。他にも秋春2季連続準優勝の近江兄弟社はコンスタントに結果を残し、八幡商の打線は強力など、優勝争いは極めて熾烈。ただ安里 翔太(3年)はキャプテンに就任して以来、目標を甲子園出場ではなく「甲子園で勝つこと」に設定しチームに言い続けてきた。
光泉は2002年夏に甲子園に出場しているが、その時は帝京に0対5で敗れ、初戦敗退。練習の最後には全員で校歌を歌って締めるのがお馴染みの光景となっているが、聖地ではまだその歌声を響かせていない。
春に優勝したことで夏は日程に余裕のあるトーナメント表の左端に入る。今年のチームは北大津に並々ならぬ思いを抱いており、新チームになってから1勝1敗の北大津とは反対のゾーンになったため、もし当たるとしたら決勝戦。
彼らは甲子園行きを懸けて北大津と対戦し、そして大舞台で校歌を歌う…
そんな最高なシナリオをすでにチーム全員が同じものを思い描いている。
後は春に続いて実演するだけだ。
(取材・文/小中 翔太)
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