Column

れいめい高等学校(鹿児島)【後編】

2016.05.16

 最速148キロ右腕・太田龍投手など実力派の選手が多く揃うれいめい。しかし秋は鹿児島実業、春は神村学園に敗れている。甲子園出場を目指して、現在、どんな課題を持って取り組んでいるのかを伺った。

鹿児島実戦、神村学園戦の教訓

福山 将真(れいめい高等学校)

 好投手・太田を擁し、古賀 智司主将をはじめ、3番・福山 将真(3年)、4番・堂免 大輔(3年)ら前チームでも主力で活躍した選手が多数いる現チームは「優勝した火ノ浦たちのチームよりも力は上」(湯田監督)と評価されていた。だが昨秋鹿児島実に、今春神村学園に、いずれも準々決勝で敗れた。

 昨秋の鹿児島実戦(試合レポート)は太田と、同じ北薩地区出身の4番・綿屋樹(3年インタビュー)とがハイレベルな勝負を繰り広げるなど、前評判通りの好勝負を繰り広げた中、れいめいは1点差で敗れた。打ったヒットは互いに5本。実力的には全く両者甲乙つけがたかった中で「ここぞという勝負をものにする執念の差」を湯田監督は感じた。太田から1安打もできなかった綿屋だが、唯一四球で出塁した8回、一塁けん制のタッチが甘かったスキを突いて三盗を決め、動揺したバッテリーの捕逸で決勝点となる3点目をものにしていた。

 神村学園戦(試合レポート)は「チームが太田に頼りすぎていた」(古賀主将)ことを痛感させられた。エース太田が大会前の練習試合、佐賀商戦でピッチャーライナーの打球を軸足の右足に当ててしまい、打撲が思った以上にひどくて、踏ん張りの利かない状態だった。4回戦までは順当に勝ち上がれたが、神村学園の強力打線を抑えることができなかった。初回にエラーで幸先よく先制したまでは良かったが、2回に4失点、5回は7失点とビッグイニングを作られ、被安打11、失点11で「監督になって初めて」(湯田監督)の5回コールド負けの屈辱を味わった。

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[page_break:「キャッチボール」からの再出発]

「太田を打つために死ぬ気でやってきたことが打席から伝わってきた。身体つきが昨秋と違っていた」と古賀主将はセカンドで守りながら感じた。昨秋4回戦で快勝した相手が一冬で別のチームに成長したことを図らずも体感する結果になってしまった。厳しいコースはきっちり見送るが、少しでも甘いコースに来れば直球だろうが、変化球だろうが逃さずに打つ。どの打者も徹底されていた。

「キャッチボール」からの再出発

キャッチボールは様々なバリエーションをこなす(れいめい高等学校)

「誰もができることを確実にできるようになる」
湯田監督が就任以来ぶれずに持ち続けている指導方針である。野球はミスがあった方が負ける。接戦だった昨秋の鹿児島実戦も、大敗を喫した春の神村学園戦も、内容を詳細に分析すればエラー、悪送球、バント失敗、走塁ミス…自分たちのミスが敗因になっている。

 アクロバティックなダイビングキャッチや特大ホームランを打てる力は特別な才能が必要かもしれないが「確実性」や「確率」を上げることは、日々の練習の積み重ねで必ずできるようになる。2度の敗戦を経て、再出発のためにたどり着いた結論は、この原点により磨きをかけることだった。

「やはりキャッチボールが何より大事なんですよ」と湯田監督は力を込める。シンプルな捕球、送球だけでなく、中継プレー、ワンバウンド捕球、ゴロ捕り…「守備の場面で起こりうるあらゆる要素がキャッチボールに含まれている」と力説する。

 練習のスタートは2、30分ほど時間をかけてキャッチボールをする。まずは肩肘のストレッチを入念にして、近距離で投球フォームを作る。あとはそれぞれのテーマに基づいて様々なバリエーションのキャッチボールをこなす。古賀主将は二遊間でコンビを組む遊撃手の八木 大輝(3年)がパートナー。「あらゆるポジションの動きをやるようにしています」と古賀。一塁手のハーフバウンドキャッチ、捕手のスローイング、投手のバント処理フィールディング…いろんなポジションの動きをイメージすることは、何よりも大切なチームメートへの思いやりを育む。2人が日々目指すのは「きのう以上のキャッチボールをやる」ことだ。

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[page_break:できることを確実に、その積み重ねの先に…]

 キャッチボールの後のノックは「ノックのためのノックではなく、全てが試合につながるノック」(湯田監督)を目指している。「ユニホームは汚すためにある」が身上の湯田監督だが、いわゆるスパルタノックでやるようなダイビングしないと捕れないような打球はほとんど打たない。さばける範囲内の打球を確実に処理できるようになることがテーマだからだ。アウトカウント、走者、あらゆる状況を常に確認しながら、捕球からの中継プレー、全力疾走のカバーリングまで徹底してやる。

「積極的なミス」なら「次につながるものがある」から叱ることはないが、消極的なプレーや意図の明確でないプレーに対しては、容赦なく罵声を浴びせる。恩師の今村 哲朗監督は県下でも屈指の厳しい監督で知られていたが「おかげさまで僕も声だけは大きくなりました」と湯田監督は苦笑した。取材に訪れた日はノックの後でフリー打撃に移ったが、「時間があれば、ノックの後でもう1回キャッチボールをして、ノックでミスしたプレーを復習するようにしています」

できることを確実に、その積み重ねの先に…

ノックは試合を常に想定し、あらゆるプレーを練習する(れいめい高等学校)

「できることを確実にやれるようになる」は守備だけでなく、打撃でも同じことがいえる。神村学園戦は「先発の内田(雅輝・3年)のスライダーを打てなかったこと」を反省に挙げる選手が多かったが、よく考えればこの発想自体が間違っていた。打つのが難しい相手の決め球を打とうと躍起になる一方で、簡単に打てるボールをことごとく見逃して凡打に打ち取られていた。打てるボールを確実に打ち返す。神村学園はまさにこの打撃をやり切って、太田を攻略した。

 屈辱の敗戦から約1カ月。「練習に入る時から目の色を変えてやるようになりました」と古賀主将は言う。特別に変わったメニューをやる必要はない。走り込み、キャッチボール、ノック、素振り…地味な基礎、基本練習の積み重ねの先にしか、本当の栄冠はないという信念を持って練習に取り組んでいる。「負けたままで終わるのは何より悔しい。5月のNHK旗は神村学園に、夏は鹿児島実に勝って、甲子園に行く」と古賀主将は力強く言い切った。

(取材・文/政 純一郎


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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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