Column

鹿児島実業高等学校(鹿児島)【後編】

2016.03.13

食事トレーニング導入で意識改革

 前編では鹿児島実業の秋の戦いぶりを振り返りました。後編では鹿児島実業が練習に取り組む姿勢で大事にしていること、そして近年から取り組んでいる食事トレーニングについて迫りました。

宮下監督の厳しい言葉を乗り越えて

永田 智也マネージャー(鹿児島実業高等学校)

 練習の締めくくりに太縄跳びをしながらダイヤモンドの大回りを5周する。一通り練習して疲れもピークにきているところに、これだけでもハードなメニューだが宮下 正一監督は全員を集合させて雷を落とし、もう一度やり直させた。
「1本目の入り方がふわっとしていて、何となく入っていた」と永田 智也マネージャー(3年)。ウォーミングアップ、レギュラー打撃、シートノック、走塁…この日の練習では、初めの一歩をスピーディーに気持ちを入れてやるように幾度となく指示したが、徹底されていなかった。そのあたりの監督の意図を汲み、選手に徹底させるのも男子マネージャーの仕事だが「まだなかなかうまく伝えきれていません」と永田マネージャーと自分の課題に向き合っている。

 練習中、グラウンドの中で宮下監督の表情が緩むことはない。かける言葉も厳しい。なかなか勝てなかった頃は「厳しい言葉をかけると委縮してしまうような雰囲気だった」(宮下監督)。しかし今のチームは「厳しい言葉をかけても、なにくそ、やってやる」という雑草のようなたくましさがあると感じている。

「あんなに厳しく言われたら、へこんだりしないの?」食事時にある選手に聞いてみた。
「もう言われ慣れました」と笑う。「むしろエラーしても何も言われない方が、『何かため込んでいるんじゃないか』と思って怖いです」と苦笑する。

「どんなに負けている試合でも、絶対何とかなるんじゃないかという雰囲気がこのチームにはあるんです」と綿屋主将は言う。5年前の「憧れのチーム」のような飛び抜けた実力を持った選手はいない。だが踏まれれば踏まれるほど、負けん気と向上心を出し、貪欲に勝ちにいこうとするたくましさがこのチームには確かにある。

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[page_break:「食」に対する意識改革]

「食」に対する意識改革

宮﨑トレーナーとの食トレ(鹿児島実業高等学校)

「食」に対する意識を変えて、新たな取り組みを始めたのはちょうど1年前のことだ。甲子園など上を目指そうとする指導者の大半が共通して食の大事さを説く。宮下監督も同じだが、それまでは「たくさん食べて、太らせればいい」と単純に考えていた。だが、なかなか思うように体重は増えないし、ハードな練習の中で故障する選手も多い。
食事に対する考え方を改め、浦和学院(埼玉)などが取り入れている専門家を定期的に呼んで食トレーニングを始めた。

「食事のバランスを考え、動ける身体を作ることです」
鹿児島実に指導にきている宮﨑 達也トレーナーは言う。練習の後で疲労をとろうと思ったらビタミン類をとる、長時間運動できるようにスタミナをつけるためにはご飯など炭水化物を多めに摂取する、筋肉の量を多くしたいと思えばタンパク質の摂取が不可欠…栄養学の原則に基づき、その選手のポジション、求められるパフォーマンス、時期などを考慮して、望ましい食の取り方を指導する。

 取材日が宮﨑トレーナーによる指導の日で、練習の後、寮の夕食をのぞかせてもらった。

センバツ
まで1カ月あまり。これまではオフシーズンで「身体を大きくする」ことがテーマだったが、これから始まるシーズンに向けては「動ける身体を作る」ことを考えていく。身体を大きくするためには肉類など動物性たんぱく質が必要だが、動きやすい筋肉を作るためには、植物性たんぱく質が有効だ。そのためには納豆、豆腐、豆類などを積極的に食べる。「普通は動物性と植物性を1対1、究極のアスリートになろうと思ったら2対8ぐらいの割合で植物性を多めにとるように」と宮﨑トレーナーが語るのを、部員たちはメモを取りながら熱心に聞いていた。

 体重、体脂肪率、骨格筋量、左右バランスなどを測定し、総合点数を出す。宮﨑トレーナーによれば、食トレーニングを取り入れている全国約120校の野球部の中で、普通の野球部の平均値が100、甲子園に出る強豪校で103。鹿実はこの103の数値を超えているという。ちなみに綿屋主将の106は「全国でもトップクラスの数値」だという。「綿屋あたりは宮﨑さんが来る頃になると、数字を上げようとストイックにトレーニングに励んでいる」と宮下監督。「対戦相手」がいない冬場は、己を知りその目安となる点数を上げていくことが選手たちのトレーニングに対するモチベーションになっている。

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[page_break:今では甘いものとお菓子を一切、欲しがらない鹿児島実業ナイン]

今では甘いものとお菓子を一切、欲しがらない鹿児島実業ナイン

今では炭酸飲料を欲しがらない鹿児島実業ナイン

 1年前、食トレーニングを導入するにあたっては、保護者も全員集めて講習会を開いた。練習後に、疲労回復など様々な効果がある特製の強化食を導入するにあたっては保護者の理解と協力が不可欠だからだ。1人あたり月約8000~9000円程度かかる。高校生に取り入れるには決して安くはない出費だが「携帯料金を考えれば、強化食を買う方が身体への投資になる」(宮下監督)。ちなみに鹿児島実野球部員は携帯禁止である。

 こういったことをチーム全体でやれるのは、寮がある野球部の強みだが「ここまで全体で徹底できるところは全国でも珍しい」と宮﨑トレーナーは言う。
食トレを導入して1年。選手1人1人の意識が変わったのはもちろん、「保護者の差し入れも変わってきた」(宮下監督)。

 3年生の前田 龍仁は静岡の出身で、2つ上の兄・翔仁も同じ鹿実野球部だったが「リクエストの内容が兄とは全然違う」と母・由紀子さん。「生活用品の他は100%のジュースのパック、焼きのり、雑魚、ポン酢、缶詰めの焼鳥、蒲焼き、ナッツ、ドライフルーツなどなど。お菓子や甘いものは全く欲しがりません」という。

 投手の丸山 拓也は「牛乳やオレンジジュースを多めに飲むようにしている」。中学時代、1年間で2度骨折した経験があり、「骨を強くする」というテーマを持っている。「チーム一の大食漢」と称される西野 友晴は「早く、たくさん食べる」ことを意識し、体重5キロアップを目指す。「体重70キロを目指していますが、なかなか増えないです」と谷村 拓哉は苦笑する。たくさん食べてはいるが、それ以上に練習で消費するので目標体重達成が高いハードルだが、やるしかない。

「朝起きてからの気分が全然違う」と板越。鹿児島実野球部には朝6時半からのトレーニング、通称「裸練」から一日がスタートする。起きてすぐはさすがに「きつい」と感じるが動き始めればすぐにスイッチが入って、午後からの部活も「やる気を出して練習に取り組めている」という。それぞれ掲げるものは違うが、チームの勝利のために一つの方向に向かって一丸となっている。

(取材・写真:政 純一郎


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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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