Column

大阪桐蔭高等学校(大阪)

2016.03.10

 今年、2年連続の選抜出場を決めた大阪桐蔭。2012年から春夏のどちらかは出場を続けており、昨春の選抜ではベスト4。今年のチームも近畿大会を制覇したそのチーム力は全国トップクラスと言っても過言ではない。この選抜出場までどんな道のりがあったのか、また西谷 浩一監督、選手たちは優勝に向けどんなチームを目指しているのか、そして選手1人1人に課題を伺った。

夏4連覇が途絶えた悔しさを乗り越えて

 あの悔しさは二度と忘れない。

昨夏の大阪大会
準々決勝で、大阪史上初の夏4連覇を目指していた大阪桐蔭大阪偕星学園に敗れる。試合に勝利し、歓喜に沸く大阪偕星学園ナインの横で、大阪桐蔭ナインはがっくりと沈んでいた。

インタビューに答える吉澤 一翔主将(大阪桐蔭高等学校)

 下級生からレギュラーだった選手はこの悔しさを忘れない、というのが今の2年生たちの合言葉となっていた。
主将には、1年生から主力打者として活躍する吉澤一翔が就任。努力家であり、自主練習をいつも真剣に取り組む吉澤に対し、西谷監督は「とにかく芯が強い子。練習態度も申し分ない」と評価するが、課題を挙げると「自分の世界に入りすぎてしまうところでしょうね。一選手ならば、それでいいんです。でも主将となると周りが見えていないといけない。そこは厳しく接しました」とこれまでとは指導の接し方を変えた。

 その指導に戸惑いを見せながらも、吉澤は「今まで周りを見ることは苦手でしたし、そこを厳しく言われますが、チームのために僕が怒られるのは当たり前だと思っていますし、チームをまとめることを意識しています」と語り、副主将になった捕手・栗林佑磨も、
「夏に負けたのはどこかチームに油断があったから。大阪偕星学園はベンチだけではなくスタンドにいる選手たちも絶対に甲子園に行くという執念が強かった。あの試合から、どんな試合でも徹底して勝ちに行くという姿勢になりまして、各自のアップから緩みがないかを指摘しあうようになり、そして神宮大会を目指すようになりました」

 大阪偕星学園戦で最後の打者となった中山 遥斗は、「あの場面で一打が出れば間違いなく同点でしたし、悔しさを忘れないように。新チーム以降は、一打席、一打席を大事にしました。今まではそれほど考えてやっていなかったと思うのですが、何を打つべきなのか、事前準備をしっかりして臨むようになりました」と意識を高く持って臨んだ。

柔道でいえば寝技に持ち込んで勝つしぶとさを求めている

 西谷監督はU-18代表監督を務めたため、8月中旬から9月上旬までチームを離れていた。そしてチームに戻った練習日は、1日、何も言わずじっくりと選手たちを観察していた。
「何も言う必要はないと思うぐらいしっかりしていましたね。離れていた時はスタッフから報告を受けていたのですが、実際に見て、意識の高さというのは感じました。甲子園に行きたいという空気、そして意地が感じられました。それは部長、コーチ2人が上手く持っていってくれたと思いますよ」

 そして秋季大会に突入すると、大阪桐蔭は強打で勝ち上がる。ただ本塁打連発かと思いきやそうではなく、選手達は低く強い打球を打つことを心掛け、次々と内野の間、外野の間を抜く打球を連発した。

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[page_break:柔道でいえば寝技に持ち込んで勝つしぶとさを求めている]

秋季大阪府大会では履正社に粘り勝ち(大阪桐蔭高等学校)

 本塁打が飛び出ることはあっても、選手たちはその意識を変えることなく、大阪府大会では大量点を取って勝ち進み、準決勝では寺島成輝2016年インタビュー擁する履正社と対戦。大阪桐蔭の選手たちが「今まで対戦した中で一番の投手です」と口を揃えるプロ注目の左腕に対し、2対1で粘り勝ちし近畿大会出場を決めた。近畿大会ではまず初戦近江兄弟社をコールドで下すと、智辯学園試合レポート)、明石商試合レポート)を破って決勝に進出。決勝では滋賀学園のエース・神村月光2015年インタビューの前に苦しんだが、攻略に成功し近畿大会制覇。新チームスタート始動前に掲げた神宮大会出場を成し遂げたのである。

 そして、もちろんその先に目指すのは神宮大会優勝だった。しかし悔しさが残ったのは準決勝高松商戦だ。7回表が終わって、1対7と大きくリードされ、あわやコールド寸前までいった。そこから巻き返したものの、6対7で敗れ、神宮優勝はならなかった。

 この試合について、主将の吉澤、副主将の栗林は厳しく振り返った。
「自分たちは力がないということが、この試合で分かりました。これまで勝ち上がった試合でも、打線がつながらない。そしてエラーも出る。結果オーライの試合が多かったと思っています。この試合はまさに自分たちの弱さが出た試合で、その分、自分たちがやることが明確になった試合でした」(吉澤主将)

「先発の岩本がケガ明けで、まだボールが上手く制御できていない状況で僕が上手くリードできず、続く投手陣もずるずるいっていまい、そしてエラーになってしまった。さらに僕が最後の打者になってしまい、本当に責任を感じる試合でした」(栗林副主将)

 この敗戦を経て、もう一度、アップから真剣に取り組んでいるのかを見直した。その中でまだ緩みがあると感じ、選手内でミーティングする回数を増やし、それまで以上に主力選手としての自覚を求めていった。

 今年のチームについて、西谷監督は、「まだ何も特徴がないチームです」と表現する。チーム打率.381、6本塁打、120打点と打ちまくり、そして神宮大会で150キロを計測した高山優希がいる。やはり力のあるチームではないかという問いに対し、西谷監督は
「チーム打率が高いとか、高山がいるとかではないんですよね。私は数字に踊らされることなく、競った中で勝てるチームを目指しています。大事なところで、泥臭くても良いので、しっかりと守る。そして勝負所で打って勝つ。柔道でいえば寝技に持ち込んで勝つしぶとさが出てくれば良いと思っています。その中で、一本勝ちできるメンタルが備わればと考えています」

 接戦で勝ち抜くしぶとさはありながらも、勝負所を見逃さなければ、一気に大差を付けて勝つ。そんな構想を描いている。

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[page_break:個人の力を結集し、二度目の春夏連覇を目指す]

個人の力を結集し、二度目の春夏連覇を目指す

 そのためには個人の力を伸ばさなければならない。
「練習には2通りあって、個人の力を伸ばす練習と組織としての練習があります。組織だけの練習を繰り返しても、個人の力がなければ、勝ち切れない。そこで12月はチームのことは気にするな、個人の力を伸ばすことを考えて取り組めと選手たちに伝えました」

話を聞く投手陣(大阪桐蔭高等学校)

 12月は個人練習の期間となった。エースの高山は、エンジンがかからないと135キロ前後しか出ないが、エンジンがかかると一気に140キロ~145キロとスピードアップする極端な投手。「どこにスイッチがあるのか分からない」とスタッフが苦笑いするほどだが、選抜ではそれがないように、140キロ台のストレートを何時でも投げられるように、さらに内外角に投げ分けられる技術と体力の強化に充てた。他の投手陣も、かつて太成学院大高の部長として、今村 信貴(読売ジャイアンツ)を育てた石田 寿也コーチが考案したトレーニングメニューの下、歯を食いしばって取り組んでいた。

 石田コーチは、全員に145キロを投げることを目標にさせている。「たとえベンチ入りできなくても、大学など次のステージで続けてほしいですし、そのスキルをここで磨いてもらえれば」と語るように、選手にモチベーション高く臨ませている。今ではベンチ入りしていない投手でも、130キロ後半から140キロ前半の速球を投げる投手が多くいるという。高山に続く投手を、現在行われている実戦形式の練習から絞り込んでいく予定だ。

 捕手の栗林は、大阪桐蔭のレギュラーとして今のままの打撃ではまずいと打撃強化に取り組んでいる。秋では2本塁打、17打点、打率.362と好成績を残している栗林だが、現状に満足するつもりは全くない。
そして1番を打つ中山は、遊撃守備、打撃をさらに磨き、2番永廣 知紀は守備の安定感を磨くために、同校OBの日本生命の岩下 知永選手から教わった守備理論を思い出しながら、守備力アップに取り組んでいる。

 夏が終わってから初めてAチーム入りし、そしてメンバーを勝ち取った4番三井 健右は秋では17打点を記録したが、「まだチャンスに弱く、打撃フォームも不安定なところがありました。今ではチャンスを想定した場面での打撃、逆方向へ強い打球を打つことを目的にやっています。本塁打ではなく、チャンスで一本が打てる打者になりたい」と大阪桐蔭の4番としてさらに勝負強くなることを決意した。

 そして主将の吉澤は、昨年12月に西谷監督から捕手に戻ってみないかと提案があったが、サード1本で行きたいと直訴。
「まだ三塁守備の捕球面、送球面での確実性がないことが課題ですので、冬はそれに向き合っていきました。個人練習でしたので、非常にやりやすかったですね」と西谷監督が設けた個人練習の期間を有意義に使えたと実感している様子だった。

 目指すはもちろん甲子園優勝。そのため選手たちは勝つために個人の力は磨いても、個人の結果にこだわるつもりはない。選手たちは「チームが勝つことが一番」と謙虚で、奢る様子は全く見られなかった。
二度目の春夏連覇を目指して。その道筋はしっかりと立てている。

(取材・写真:河嶋 宗一


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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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