Column

大阪桐蔭高等学校(大阪)【後編】

2016.03.02

 前編では普段のケース打撃から選手にプレッシャーをかけて、その中で考える力を磨く過程についてお伝えしました。後編では同校OBの森 友哉選手2014年インタビューのユーモア溢れるエピソードを紹介!また、自分を磨くためには何が必要なのでしょうか。

「経過」も「生活」も自分を磨く要素

 少し話が堅くなった。ではここで笑いの殿堂・大阪らしい2つの小話を紹介したい。いずれも連覇を達成した2012年の出来事である。

1つ目「ケース攻防での出来事」
3ボールノーストライクからの9人相手のケース攻防。1人目の藤浪 晋太郎は奮闘しながらも最終的には9人中7人に四球。2人目の澤田 圭佑立教大新4年・主将)は無四球。そして森 友哉西谷 浩一監督の下で一言。
「監督、澤田さんの方がいいですよ」
西谷監督「わかっとるわ!」

2つ目「お土産を頂いた日の寮」
お客さんから頂いたお土産の食べ物。全寮制の大阪桐蔭では寮に持ち帰って頂くことになっている。ただし、食べ物は20個ほどしかないためとても全員にいきわたらない。しかも予想以上に多くの選手たちがお土産にありつけなかった。そこで西谷監督は、通称「森さん(森 友哉)」を呼ぶ。

西谷監督「お前、多く持っていったやろ?」
森さん「いや、持っていってません」
西谷監督「持っていったやろ!」
森さん「・・・・・・。すいませんでした」
ジャージの両ポケットからお土産が現れた。

 なぜ、この話を記したのか。これも「自分で考えて行動する」を引き出す首脳陣の観察行動の中にある話だからだ。

ここの答えを出すと、1つ目の話は結果こそ残らなくても奮闘した藤浪の過程も澤田と同時に評価し、2つ目の話は最終的に仲間を立てない行動は注意しつつ、野球に必要な抜け目なく人に先んじる森の生活行動は、一定の部分までは受容したということだ。

ノックする西谷 浩一監督(大阪桐蔭高等学校)

 大阪桐蔭の練習では実際、そんな要素がふんだんに含まれている。アップの場合は通常、全員で15分アップした後、各自の時間を設け全体のダッシュが始まるまでにベストの状態に持っていく。時には全体アップをなくし、各自アップだけにする場合もある。個人練習も時間の半分を自由課題にすることが多い。「僕らはそこでの様子を見てアドバイスをするんです。大学以上では自分でする要素が多いわけですから」(西谷監督)。事実、監督室の前では選手たちが創意工夫しながら個々の課題へ向き合っていた。

 もちろん、個人の課題を見つけ出す環境も整えることも必要。昨年11月、明治神宮大会から戻った西谷監督は、「ゲームを通じて自分の足りないことを認識して個人練習に入ってほしい」と11月の残り2週間、大会レギュラー以外の選手を対象とした練習試合を近隣高校相手に連日組んだ。一方、明治神宮大会の主力は当時の3年生たちを相手に2時間打ち込み。逆に現在は新2年生を中心対象にした朝練習を、センバツ中に見込まれる該当外選手たちの練習不足を見越して取り組んでいる。

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[page_break:「自分のために」練習し、目指す「本気で日本一」]

「僕も決してうまい選手ではなかったから、チャンスをもらえないとその理由を指導者の方へ向けてしまうことはわかるんです。だから試合出場の機会を与えた上で、冬の練習に入っていくことが重要なんです」。そんな指揮官は、他にもノート・面談etcなど自分の強みを見つけていくツールも数多く作っている。実は近年、西谷監督が大阪桐蔭野球部の全寮制にこだわっている理由もそこにある。

 学校・グラウンド・寮。24時間の状態を見て「何を伝えるか、伝えないのか、いつ伝えるのか」のタイミングを計り、毎日必ず選手が書き、監督が読んでから練習に入るノートをベースに「ノートに返事を書くのか、直接声をかけるか」も選択するためには必然的に選手と長く接する時間が必要になるわけだ。

「選手の立場を考えると、どれだけかかわるかが大事。逆に言えば大阪府での競争を勝ち抜き、僕がかかわれる人数の限度が一学年約20人と思っています」。練習後は一度自宅に戻ってから、3年生21人・2年生22人が待つ寮に足を運ぶ日常を過ごす指揮官が、偽りない本音を話してくれた。

「自分のために」練習し、目指す「本気で日本一」

センバツ決定日に記す「決意書」(大阪桐蔭高等学校)

「今の高校生は素直ですよ。僕が『練習をやっていたの?』と聞くと僕の時代は『はい、やっていました』と嘘をつくのに、彼らは『気が抜けていたかもしれません』と言ってくる。そこで僕や有友(茂史)部長でなく、OBでもある石田 寿也コーチや橋本 翔太郎コーチの力も借りながらかかわっていくんです」

西谷監督が話すように「自分のために取り組む」練習に共に向き合い、その集積をチームとしてブラッシュアップして試合に臨む。これが大阪桐蔭「本気で日本一を目指す風土」の深層である。

 センバツ出場決定時に記す「日本一への決意書」もその一環。昨年の主将・福田 光輝のものを見せてもらうと、個別・チームの課題と日本一への道筋と共に、「チームの色、自分の色とはなにか」。字体にも苦悩と、それでも前に進む想いが伝わってくる。
「本気の本気で日本一になろうとした時に、日本一になるチャンスが訪れるかもしれない。そのときにつかめるかだと僕は思っています。だから、日本一という言葉を安易に使いたくないのと同時に、発することでみんなが変わってほしいと思っています」(西谷監督)

 身体も、技術も、もちろん必要。ただ「自分の強みを磨く」ために最も必要なものは何か。日本一を志し、強みを磨きたい「心」であり、方法を見つけようとする「考え」。高校球児のみなさん、これを「雲の上の話」と捉えてそのまま日を過ごすか。それとも、自分の引き出しにして強みを磨く材料にするか。それも「自分しだい」である。

 取材日はちょうどNPBキャンプ真っ最中。この時期、西谷監督にとって練習後の楽しみは深夜に流れている各球団のキャンプ中再放送だという。「練習方法とかも勉強になります」。西谷監督は、こう言ってにっこり微笑んだ。実際、大阪桐蔭は部員43名の練習量を保つため、プロ野球のキャンプをモチーフにした練習法にも取り組んでいる。

 名声におごることなく指導者側も「自分を磨く」。ここにも彼らが高校野球の盟主であり続ける秘訣がある。

(取材・写真:寺下 友徳


注目記事
【3月特集】自分の強みを磨く

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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