Column

大阪桐蔭高等学校(大阪)【前編】

2016.03.01

「日本一を本気で目指す」自分の磨き方

 「高校野球界の盟主」。大阪桐蔭をこう呼んでもまったく異論を挟む者はいないだろう。
チームとしては藤浪 晋太郎(2013年卒・阪神タイガース)、森 友哉(2014年卒・埼玉西武ライオンズ2014年インタビュー)バッテリーを擁しての2012年甲子園連覇をはじめ、春1回・夏4回(他に1991年2008年2014年)の甲子園優勝。全国ベスト8以上はもはや当然の出来事である。

 さらに凄いのは強烈な「個」の輩出だ。NPB所属現役選手を見ても東北楽天ゴールデンイーグルスの左腕・川井 貴志(1995年卒)を最年長に2002年卒には岩田 稔(阪神タイガース)、中村 剛也(埼玉西武ライオンズ2015年インタビュー)。2003年卒の西岡 剛(阪神タイガース2013年インタビュー)に、2006年卒の平田 良介(中日ドラゴンズ2009年インタビュー)、2008年卒の中田 翔(北海道日本ハムファイターズ2014年インタビュー)、2009年卒の浅村 栄斗(埼玉西武ライオンズ2015年インタビュー)といった侍ジャパンの主力クラスを含む14名がひしめいている。

 では、なぜ大阪桐蔭はここまでにチームの成績と個の育成を両立できるのか?今回は1993年に同校コーチへ就任し、1998年11月に監督昇格。一度はコーチに退くも2004年4月に監督し就任後は甲子園采配成績36勝7敗と抜群の強さを誇る西谷 浩一監督の言葉を中心に「日本一を本気で目指す」自分の磨き方を考えていきたい。

厳しい状況設定を通じ「自分の磨き方」を知る

ノックに参加する選手たち(大阪桐蔭高等学校)

「準備しろよ!外野手は1人でホームへ返す(直接バックホーム)のつもりでやってくれ!内野手も同じだぞ!」
2月上旬、センバツに向けたメンバー発表を目前に控えた大阪桐蔭高校大東グラウンド。山中に浮かび上がるグラウンド上に緊張感あふれるマイク音声が響き渡る。状況は9回裏、1点差に迫られての一死二塁。ケース打撃での守備側にかけた声の一部である。

 その主はもちろん、西谷 浩一監督。このように大阪桐蔭では練習中は厳しい場面からのケース攻防をバリエーション多く行う。この日のメイン的状況設定は「9回裏・2対0・一死二・三塁・カウント1-1からスタート」。指揮官は代打・代走も実戦さながらに使いながら、自軍の選手たちにじわじわプレッシャーをかけていく。

「投手であれば、ブルペン投球では打者・ランナーがいる場面を想定しづらい。ランナーがいる中での投球術や、打者の反応など、ここを通じていろいろな勉強をするんです」と西谷監督。もちろん取材日のような2月上旬や6月となれば、選手たちはここに加え「自分がベンチ入りメンバーに入れるか、スタメンに入れるか」の重圧もかかる。平常心でのプレーはまず不可能だ。そこで意図が見えないプレーをひとたびすれば「なんで?」と質問がマイクから飛んでくる。

「粘れ!」「ナイスバッティング!」「ネクストバッターをみろよ!」。公立校であれば全員がレギュラー獲得の力を有するハイレベルな中で考え方を磨けば、実戦や甲子園でのプレッシャーなど大きな問題ではない。指示の前に身体が動くような「考え方を磨く」。ここが大阪桐蔭・強さの根源である。

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[page_break:ケース攻防では失敗経験が多いチームの方が結果を残している]

ケース攻防では失敗経験が多いチームのの方が結果を残している

ボールを待ち構える栗林 佑磨捕手(大阪桐蔭高等学校)

 そして、このケース攻防には選手たちにとってもう1つの効果も隠されている。例年12・1月に「この時期は自分のことだけ考えればいい」と西谷監督も号令をかけ、徹底して行う個人練習で磨く「自らの強み」。彼らはその時期に培ったベースを2月のケース攻防で発揮する中で強みが実戦で通用するかを確認し、新たな可能性を探るのだ。

センバツでマスクを被る栗林 佑磨(新3年)の場合もそうだった。1年前のケース打撃。2年の控え捕手がけがをしていたことでB組のマスクをかぶることになった栗林はシート打撃を通じ、考え方について探究を重ねた。

「どうすれば投手に気持ちよく投げられるか。キャッチングも意識しましたし、ワンバウンドも全部止める。盗塁も全部刺すつもりでやった結果、春の大会からベンチに入るようになったんです」

 もちろん、ケース攻防を通じ一気にプレースタイルが変わる選手もいる。2008年夏優勝メンバーの浅村 栄斗が正にそうだった。「あの年はセンバツには出場できなかったんです。この練習を通じ長距離砲に変わっていきましたね」。西谷監督も振り返る。
「このケース攻防で成功体験より失敗体験の多いチームが結果を残したりするんですよ。2014年夏優勝したチームもそうでした。もちろん、ここはアピールチャンスでもありますし、そこがないととダメだと思いますが、正解がない中で正解を見つけ出そうとすることが大事。状況に応じた、または状況を作り出す準備を3つくらいは考えられるようにしてほしいですね」

 このようにケース攻防に潜む「2つの目的」の最終到達点を話すのは1989年からコーチ就任、1998年から秋から部長となり、西谷監督と名タッグを組む有友 茂史部長。大阪桐蔭の部訓「一球同心」に至る過程が、これで皆さんもお分かり頂けたと思う。

  前編はここまで。「考え方を磨く」力を普段の練習から養っている大阪桐蔭。後編では2013年ドラフト1位の森 友哉選手(埼玉西武ライオンズ)のユーモア溢れるエピソードを交えながら、個人の力を磨くための考えをさらに迫っていきたいと思います。

(取材・写真:寺下 友徳


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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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