Column

関東第一高等学校(東京)

2016.02.19

 2年ぶりの選抜出場を決めた関東一。過去5年で3度、秋季都大会優勝を収めており、この勝負強さは恐るべしといえる。昨秋本大会前の取材では、手探り感が強いと話していた米澤監督。ゼロからのスタートで、一歩ずつ積み重ねて夏に向かっていけば良い。それがスタート直後の構想だったが、11月には東京チャンピオンとなり、改めて関東一の強さを見せた秋となった。

 関東一はなぜここまでの強さを維持することができるのだろうか。昨秋の戦いを振り返りつつ、選抜へ向けてどう戦っていくかを伺った。

目の前の戦いを全力で準備、対策をして、全力で戦うだけ

米澤 貴光監督(関東第一高等学校)

 高校野球は何が起こるか分からない。そして団体競技だからこそ、全員の力を団結する必要がある。だからどんな相手でも目の前の一戦を全力で戦えるように、力をピークにもっていくのが関東一の戦い方だ。秋の都大会初戦の相手は強豪・成立学園。率いる米澤 貴光監督はこう語る。
「組み合わせが決まったときは成立学園さんをターゲットにおいて、しっかりとピークにもっていけるように調整をさせました」

 そして臨んだ試合では16対2の大勝。今年のチームは守備のチームと評していたが、チームも驚きの大勝だった。この試合について米澤監督は、「実力的には差がないと思います。でも相手のエラーが絡んだりして、畳みかけられた試合でした」と振り返ったが、選手たちは自信をつかんだ試合だった。主将の村瀬 佑斗は「今まで自分たち打撃陣は、自分の欠点を修正するための打撃に取り組んできました。それが16点取れたことで、何かをつかんだ気がします」と手応えを感じている様子だった。

 それからの関東一の戦いぶりは安定したものだった。2回戦では明大中野八王子に5対1で勝利、3回戦早大学院には6対1、準々決勝では修徳に14対4で大勝。そして準決勝帝京戦には8対1のコールド勝ちで、決勝戦へ駒を進めたのであった。

 結果として見れば、打ち勝っている試合が実に多い。だが米澤監督は、一歩間違えれば負けてもおかしくない相手ばかりだったと振り返る。
2回戦明大中野八王子も強いチームですし、3回戦早大学院戦では、柴田 迅君は好投手で簡単に打てないと思っていましたし、修徳も点差が開きましたけど、ひょっとすれば、大量失点もしてもおかしくない展開だったと思います」

 指揮官が予想する最悪の展開にはならなかった。勝負所を踏ん張っていけるのが関東一の強みではないかと伺うと、
「確かにそれはありますね。準決勝帝京戦ですが、7回表に二死満塁のピンチがありましたが、それを切り抜けて、コールド勝ちにつなげることができていますし、踏ん張れるところで踏ん張れたのが大きいかもしれません」

 関東一の粘り強さを生み出しているのは普段の練習にある。関東一はシーズン中では実戦練習を行うが、そこでは終盤を想定して行っている。主将の村瀬は、
「そこでは8回~9回にして、点差は1点差~2点差と僅差の場面を想定して練習をしていきますが、それを他の学校よりもいつもやってきたことで、終盤に粘り強く戦えるようになってきたんです」

 その終盤を想定した実戦練習が、決勝戦で大きく活きることになった。

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[page_break:激闘となった二松学舎大附戦では持ち味の粘り強さが最大限生きた試合に]

激闘となった二松学舎大附戦では持ち味の粘り強さが最大限生きた試合に

村瀬 佑斗主将(関東第一高等学校)

 準決勝の翌日に予定されていた試合は雨天中止となり、11月9日開催となった。この1日の順延は関東一の選手たちにとってはプラスになったようだ。米澤監督は、「勝てば何でも言えますからね」と苦笑いするが、何がプラスになったのかを選手たちに聞いてみよう。主将の村瀬は、
準決勝までは帝京を攻略することしか頭になかったですが、1日空いたことで、二松学舎大附のエース・大江 竜聖2015年インタビュー対策に時間を取ることができました。それはあちらも同じかもしれませんが、僕たちにとっては本当に大きかったです」

 大江投手の対策としてバッティングマシンで速いボールに設定して、また3年生左腕・阿部 武士が打撃投手を務め、至近距離でどんどん投げ込んで、感覚を養っていた。そして当日を迎え、1番を打つ宮本 瑛己が「思ったより速くない。これならば何打席か打っていけば慣れていけると思いました」と語るように、関東一は勝負は後半と定め、そのためには2失点にとどめることが条件と考えた。

 その期待に応えたのが左腕の佐藤 奨真だ。都大会での登板は少なかったが、好調を維持していた投手だ。135キロ前後の速球とキレのある変化球を投げ分け、7回まで2失点に抑える好投。米澤監督は「よく佐藤が2点に留めました。こちらとしては、2失点になんとか留めて後半勝負にもっていくというのがゲームプランでしたが、我々が描いた試合展開でした」と後半勝負と考えていた米澤監督は佐藤奨の好投を評価した。

 そして8回表、山室 勇輝の同点二塁打で追いつくと、その裏、エースの関東一河合 海斗が粘り強く抑えて9回表に突入。一死二、三塁で、9番石塚 大樹の投ゴロの間に1点を勝ち越すと、二死三塁の場面で1番宮本が打席に立った。打たせまいと全力投球した大江は、宮本に対して最速148キロを計測。

「本当に速かったです。それでスライダーがきたらもうお手上げでしたね。本当に速かったですけど、ストレート連発でしたので、執念でくらいついていきました」

大江の投げた球を必死で当てた宮本。打球はぼてぼての遊ゴロだったが、俊足を飛ばし内野安打に。三塁走者が生還し、4対2とした。その裏、1点差に迫られ、なおも一死満塁のピンチを迎えたが見事に本塁併殺に打ち取り、2年ぶりの秋季大会優勝を決めた。

 普段から行っている終盤の僅差での実戦練習、それが最高の形で活きたのであった。さらに主将の村瀬は夏の甲子園ベスト4入りした先輩たちの手助けも大きかったと話す。
「甲子園に行かれた3年生は僕らの目標になっていますし、引退しても紅白戦をしてくれたり、元主将の伊藤 雅人さんや副主将の鈴木 大智さんも練習後のミーティングに参加してくれて、僕たちが気付かない課題を指摘していただきました。それがあったからこそ自分たちは実力を付けてきたと思いますし、また3年生との紅白戦で互角に戦えた時は自信になりました」

 目の前の1試合、1試合を全力で戦えるために調子をピークにもっていくための調整や対策。そして3年生からのサポート。常に試合終盤、僅差を想定しての実戦練習をしたことで培った驚異の粘り強さ。成立学園戦に大勝したことでチームに流れが生まれたこと。それがすべて合致して、頂点につながった。

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[page_break:選抜でも今まで通りの戦いを]

選抜でも今まで通りの戦いを

神宮大会では全国での「課題」を見つけた(関東第一高等学校)

 しかし優勝を目指して臨んだ明治神宮大会では、苦しんだ。都大会決勝から中3日で札幌第一戦を迎えたが、2回表に相手の0ストライク3ボールから兼村京佑に適時二塁打を打たれ、リズムが狂い出した。
「ノースリーから打つの?とみんな驚きました。あれで、リズムが狂ったというか、守備も、走塁もミス連発で、新チームになってから一番最悪な内容でした」

 結果は4対7で敗れた。この結果で気づかされたことについて、村瀬はこう語る。
「中3日ということについては言い訳はしません。あの試合で気づかされたことは、中3日でも勝っていける精神力、体力、技術がなかったということです。全国へ向けて、それを鍛えていかないといけないと気づかされた試合だったと思います。東京都大会優勝したことでほっとしていたこともあるかもしれませんが、このままでは全国で通用しないと思いますし、そういう意味でこの大会を経験できたのは良かったと思います」

 神宮大会が終わり、個々の実力が足りないと感じた選手たちはこの冬、個々の課題を見直し取り組んできた。主将の村瀬は打撃を課題に挙げ、振り込みを中心に行った。1番を打った宮本は、出塁率を増やすために、広角に打ち分ける打撃に磨きをかけ、エースの河合は球速アップと制球力向上を課題に上げ、技術と体力アップに努めてきた。

 米澤監督が就任してから、春夏合わせて7回目の甲子園になるが、今年のチームは、2014年選抜に出場したチームと似ているところがあるという。
「攻撃力でいえば、2010年夏2015年夏が良かったですが、今年はやっぱり守備のチームで、そこは、2014年春に似ていますね」

 バックの守備には自信を持っているが、課題に抱えるのは、投手陣。駆け引きというところが課題のようだ。
「去年、軸となる投手は不在でしたが、阿部も、田邉 廉も何が良かったかといえば、駆け引きが上手かったです。2人とも緩急をつけられていて、コントロールも良かった。今年の投手陣は、河合はコントロールが良い投手で、他の投手も投げるボール自体は劣っていないのですが、駆け引きというところはまだダメですね」

今年の投手陣の中では、左腕の佐藤奨が能力的なものはかなり高いと評価しているが、今後駆け引きが磨かれて来ればと期待を込める。

 打線については、「ポイントゲッターはいないですが、それでも戦えないということはありません。個人競技ならばうちは負けているかもしれませんが、野球は団体競技。最大限できることをやっていけば戦えます」と選抜でも今まで通りの戦い方をすると語った米澤監督。監督自身、これで4度目の選抜になるが、「県ではなく、地方大会でも上位に勝ち進んだチームと対戦しますから、1勝するのは非常に難しい大会だと思っています。過去3回、いつも大きな宿題をもらって帰っていますから、夏に活かせる大会になれば」と勝利を目指しながらも夏を見据えている。

 目の前の戦いへ向けて全力で対策し、調整を行い、そして戦いにもっていく関東一ナインのスタイルをしっかりと発揮したことで、昨秋は優勝候補と呼ばれた二松学舎大附を破った。
今後も今まで通りのスタイルで、全国であっと言わせるような戦いを見せていきたい。

(取材・写真:河嶋 宗一


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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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