Column

敦賀気比高等学校(福井)【前編】

2016.01.27

 1986年の創部以来、春6回、夏7回の甲子園出場実績を誇り、昨春のセンバツ大会では北陸勢初となる全国制覇を成し遂げた敦賀気比。個々の意識の高さが感じ取れる成熟したチームを毎年作り上げてくる印象が強いが、その源はいったいどこにあるのだろうか。年が明けた1月初旬、筆者は福井県敦賀市に位置する同校を訪問。真冬の冷たい強雨が地面に叩きつける中、野球部グラウンドに到着すると、就任5年目の東 哲平監督が丁重に出迎えてくれた。

寮に戻りたくない1年目のお正月休み

東 哲平監督(敦賀気比高等学校)

「部員のほぼ全員が親元を離れ、高校野球と日々向き合っているという事実だけでもかなり大きいと思いますよ」

今月の特集
のキーワードが「自律」であることを知った東監督はそう切り出した。

 敦賀気比の部員数は現在1、2年生合わせ73名。そのうち68名が学校の敷地内にある寮で生活している。
「わずか15歳にして生まれ育った家を出て、男ばかりの不自由な集団生活の中で野球に打ち込むという覚悟を決めて入部してくるわけです。15歳で親元を離れる決心を下した時点で自律の精神はかなり備わっているといっていいと思いますから」

 まったく予想していなかった話の展開だったが、納得の返答だった。親元を離れ、敦賀気比で高校野球をすると決めた段階で、自律の土台は既に形成されているといっていいのかもしれない。しかし東監督によれば、大半の選手は15歳の時点で決めた覚悟がいかに甘かったかということを、高校入学後、痛感することになるのだという。

このページのトップへ

[page_break:甘い動機・覚悟を知りながらもついていく選手たち]

甘い動機・覚悟を知りながらもついていく選手たち


室内練習場でトレーニングに励む選手たち(敦賀気比高等学校)

「中学と比べ、野球の練習がただでさえきつくなる。その上、慣れない洗濯なども自分ですべて行わねばならず、野球以外の生活リズムも大きく変わる。部屋は2人~4人部屋。周りには常に人がおり、自由気ままなプライベートな時間も激減します。消灯は23時で敷地外に出ることは基本禁止。部屋にテレビはなく、普通の高校生がやりたいことの多くができぬまま、学校の敷地内にある寮とグランドを往復する日々が来る日も来る日も続く。入学して1、2ケ月で8割から9割の選手が家に帰りたい、辞めたいという心境に陥ってしまう。どんなに強い覚悟を抱いて入ってきたつもりでも、現実とのギャップの大きさに打ちのめされてしまうんです」

 生まれ育った京都の自宅を離れ、福井での高校野球生活を選択した現チームの主将を務める林中勇輝内野手もそのギャップに苦しんだ一人だ。
「厳しい練習が終わった後も食事、入浴を短い時間の中で、上級生の合間を見ながら慌ただしく消化しなければならず、その後も掃除、そして慣れない洗濯が加わる。消灯は23時なのでホッとできる時間がほとんどないまま一日が過ぎていきます。中学時代までの生活とあまりにも大きく変化したことで、1年生の頃は精神的にも体力的にも相当きつかったです。自分なりに覚悟をもって敦賀気比に飛び込んだつもりだったのですが、全然甘かったです」

 石川県出身の現チームのエース・山崎颯一郎投手は「甲子園に出れる確率が高そうという動機で敦賀気比を選びましたが、あまりにも甘い考えでした。1年生の時はずっと家に帰りたかったです。完全なホームシック状態。入寮後、初めて親の顔を見た時は泣きそうになりました。あんなに当たり前のように毎日会っていた親なのに…」と振り返った。

 敦賀気比の寮生が自宅に戻れるのは年間を通じ、元日を挟んでの1週間のみ。東監督が保護者から聞いた話を総合すると、1年生の多くがお正月休み明けに「寮に戻りたくない」と親に訴えるのだという。「涙を流しながら寮に戻ることを拒否し、嫌がる選手も少なくないみたいです」

このページのトップへ

[page_break:2年目の変化から見えてくる大いなる成長]

 山﨑も「1年目の休みが明けて寮に戻るときのあのつらさは今でもよく覚えています」と回想した。
「親元を離れ、寮生活をしているという事実そのものが既に自律を促している」という東監督の言葉が、ますます筆者の中で説得力を帯びていった。甲子園で躍動している華やかな表の部分を眺めているだけでは連想しにくい、リアルな世界を垣間見たような気がした。

(世間では『野球留学』という言葉で簡単に片づけられがちだけど、15歳で家を出て、集団生活を24時間送るっていう世界は、当の選手が望んだこととはいえ、やっぱりタフな状況なんだよなぁ…)
ふと気づけば、そんなことを考えていた。

2年目の変化から見えてくる大いなる成長

山﨑 颯一郎投手(敦賀気比高等学校)

「1年生の時は寮に戻りたくないと駄々をこねた選手たちも、2年生になり、2度目のお正月休みを終えて寮に戻るときには、力強い表情で家を後にするそうです」と東監督。山﨑も「1年目のように、寮に戻りたくないとは思わなかった」と証言した。その気持ちの変化を生んだ背景に興味が湧いてしまう。山﨑は続けた。

「慣れとかではないんです。結局、1年前と比べて、チームのために自分ができることをしっかりとやらなければいけない、やるしかないという気持ちが強くなるからだと思います。1年目はあれほど寮に帰るのが嫌だったのに、2度目となる今回のお正月休みは、家でのんびりしてる場合じゃないという気持ちになりましたから。責任感が全てを上回ってしまえば、嫌だったことも嫌ではなくなる。『1年で自分も随分と変わったもんだな』と思いながら寮に戻ってきました」

 東監督も「2年生ともなると、ベンチメンバーに入る、入らないに関係なく、『自分がチームのために何ができるか』という強い意識を持ってやってくれる選手がものすごく多くなってくる。自律という観点から見ても大きな成長を感じる時期でもあります」と山﨑の言葉を後押しした。

 前編では寮生活など厳しい環境にもまれながらも一歩ずつ成長する選手たちの様子を描いたが、後編では自律を遂げ、大きく成長した2年生3名の選手から自律するためのメッセージをいただいた。

(取材・写真:服部 健太郎


注目記事
【1月特集】2016年、自律型のチームになる!

このページのトップへ

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

関連記事

応援メッセージを投稿

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

RANKING

人気記事

2024.03.27

報徳学園が投打で常総学院に圧倒し、出場3大会連続の8強入り

2024.03.27

【福岡】飯塚、鞍手、北筑などがベスト16入り<春季大会の結果>

2024.03.27

青森山田がミラクルサヨナラ劇で初8強、広陵・髙尾が力尽きる

2024.03.27

【神奈川】慶應義塾、横浜、星槎国際湘南、東海大相模などが勝利<春季県大会地区予選の結果>

2024.03.27

中央学院が2戦連続2ケタ安打でセンバツ初8強、宇治山田商の反撃届かず

2024.03.23

【春季東京大会】予選突破48校が出そろう! 都大会初戦で國學院久我山と共栄学園など好カード

2024.03.24

【神奈川】桐光学園、慶應義塾、横浜、東海大相模らが初戦白星<春季県大会地区予選の結果>

2024.03.23

【東京】日本学園、堀越などが都大会に進出<春季都大会1次予選>

2024.03.27

報徳学園が投打で常総学院に圧倒し、出場3大会連続の8強入り

2024.03.22

報徳学園が延長10回タイブレークで逆転サヨナラ勝ち、愛工大名電・伊東の粘投も報われず

2024.03.08

【大学野球部24年度新入生一覧】甲子園のスター、ドラフト候補、プロを選ばなかった高校日本代表はどの大学に入った?

2024.03.17

【東京】帝京はコールド発進 東亜学園も44得点の快勝<春季都大会1次予選>

2024.03.11

立教大が卒業生の進路を発表!智弁和歌山出身のエースは三菱重工Eastへ、明石商出身のスラッガーは証券マンに!

2024.03.23

【春季東京大会】予選突破48校が出そろう! 都大会初戦で國學院久我山と共栄学園など好カード

2024.03.01

今年も強力な新人が続々入社!【社会人野球部新人一覧】