Column

智辯学園和歌山高等学校(和歌山)

2016.01.17

 和歌山を代表する名門・智辯和歌山。夏の甲子園優勝2回、春の甲子園優勝1回と全国トップクラスの実績を誇っている。昨夏は甲子園1回戦で敗れ、悔しい夏となった。そして秋も二次予選1回戦で敗れ長い冬を送っている智辯和歌山ナイン。2年連続の甲子園出場を目指して、どんな思いで過ごしているのかを伺った。

課題は軸となる選手を作ること

 今は我慢の時。智辯和歌山の練習場にはそんな雰囲気が漂っていた。
昨年のチームは技量が高い選手が多く揃っていた。名前を挙げれば、山本 龍河青山学院大進学予定)、春野航輝と2人のスラッガ―を揃え、エース・齋藤 祐太、正捕手・西山 統麻なども1年から主力選手として活躍。2013年秋には近畿大会準優勝翌年の選抜出場、そして昨年は春の近畿大会ベスト4、そして選手権大会出場、国体ベスト4と、高い実績を残してきた。
また福岡ソフトバンクホークスにドラフト1位指名を受けた高橋純平2015年インタビュー擁する県立岐阜商と練習試合を3試合行っており、一度も負けることはなかった。

 それほど強力な前チームの中心選手はほとんどが3年生。そのため夏の甲子園後は、主力選手が大幅に入れ替わった。昨秋は、和歌山県二次予選の1回戦で近畿大会に出場した高野山に敗れた。
苦しい戦いになることは予想していたが、クリーンナップ、バッテリーが抜けた穴は想像以上に大きかった。昨年甲子園に出場している選手はいるものの、「高野山との試合は勝たないといけない試合でしたね。期待していた2年生がまだ中心選手になりきれていないのが課題です」と振り返った。

高嶋 仁監督(智辯学園和歌山高等学校)

 まず智辯和歌山のチーム作りとして、中心となる選手を育てるというのが高嶋 仁監督の考えだ。打者では本塁打が打てる選手、投手は複数投手制を敷いているが、チームを勝ちに導く絶対的な投手が必要だ。そういった選手たちが揃うことで「周りの選手も引っ張られて活躍ができる」という。

 今年のチームは昨年9月で公式戦が終わったということもあって、この夏を見据えて「中心選手」育成のためのチーム作りを行っている。冬場では走り込み、腹筋、背筋を中心とした体幹トレーニングやウエイトトレーニングなど、様々なトレーニングを行っているという。かつてトレーニングは高嶋監督が考案していたが、今では高嶋監督の教え子であり、2006年夏の甲子園で主将を務めた古宮 克人コーチが指導している。

 古宮コーチは様々な方の下でトレーニング方法を学んできた。
軸となる選手がいないという高嶋監督の言葉に対し、古宮コーチは
「高嶋先生が仰るように軸となる選手はやはり体の強さ、大きさが違います。今年の選手はまだ体が小さいので、その器をしっかりと大きくできるトレーニングをさせています」

 選抜を逃したが、春まで時間があるので、その分、時間をかけて育成ができると話す高嶋監督。この時期は打撃、守備、走塁、体力、精神力のすべてを鍛えられる時期だが、特に重点に置いて取り組んでいるのは「守備」である。

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[page_break:シンプルなものを積み重ねるのが一番強い]

シンプルなものを積み重ねるのが一番強い

ゴロ捕りをする選手(智辯学園和歌山高等学校)

 これまで伝統的に守備を鍛えてきた智辯和歌山だが、今年はより守備の重要性を感じている。やはり昨夏の津商戦(試合レポート)で、守備の乱れで敗れたことが大きな要因だ。高嶋監督は気持ちの油断が原因だと話す。
「やはり油断した気持ちがあったのでしょう。リードされてから選手たちを見ると『あれれ?ちょっとおかしいな』という気持ちが出てしまって、修正しようとするけれど、どうにもできなくて、そのままずるずるといってしまった感じでした」と振り返る。

 同じ過ちをしないためには、基礎練習を繰り返すことが一番だという。守備を指導する古宮コーチは今年のチームの守備について、「打撃は確かに劣るかもしれませんが、ずるずると崩れないのが今年のチームの強み。このままいけば面白いと思います」と期待を込める。

 では守備力強化のために、智辯和歌山が何か特別なことをしているかといえば、そうではないようだ。取材日の練習は2年生が修学旅行のため不在で、1年生10人だけだった。雨が降っていたので雨天練習場での練習だったが、その内容は基礎練習がほとんどで、ゴロ捕り、キャッチボールを何度も繰り返し行っていた。竹バットを使ったティーバッティングや、投手が投げて打ち返すフリーバッティング、そして雨天練習場の2階にあるトレーニング場でのウエイトトレーニング、体幹など、地道なトレーニングの繰り返しだ。

 シンプルだが、積み重ねていけばそれが一番強いと首脳陣は実感している。夏へピークを持っていくため、逆算をしながら、取り組んでいた。

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[page_break:カギを握る1年生投手陣]

カギを握る1年生投手陣

加藤 諒投手(智辯学園和歌山高等学校)

 そして勝敗のカギを握るのが、1年生中心の投手陣だ。1年生ながら昨年[stadium]甲子園[/stadium]のマウンドに登った加藤 諒。中学時代は137キロ、高校で140キロに到達。試合では、「自分の実力を発揮できませんでした」とほろ苦いデビューとなった。そして活躍を誓った秋だったが、不調に陥り秋の大会でも本来の投球ができずにいた。その原因はフォームの乱れだった。
「フォームがバラバラで、コントロールもダメ、球速も全くでない状態でした」

 こう悩む加藤を救ったのが元プロの鈴木 幸雄コーチ。加藤は鈴木コーチと二人三脚で、フォームの矯正に取り組んだ。まず鈴木コーチは加藤に対し、「悩みすぎだ。何も考えず思い切り投げてみろ」とアドバイス。無心でボールを投げ続け、投げる感触が戻ってから、フォーム、コントロールについてなど具体的な指導に入っていった。

 現在その取り組みは少しずつ実を結んできている。
「フォームはだんだん良くなっていますし、ボールは戻ってきています」と明るい表情を見せる加藤。エースとして期待がかかる今年は、ストレートのスピードはこの夏までに145キロを目指し、さらにコントロール、体力もさらに高めたいと思っている。

「またもう一度、甲子園に戻りたい。そんな思いで日々の練習に取り組んでいます」
そう意気込む加藤に対し、高嶋監督は「もっと努力する姿を見せないといけませんね」と厳しいながらも暖かいエールを送る。また加藤の他に1年生投手では左腕の黒原 拓未が急成長を見せている。古宮コーチに聞くと「コントロールも良く、試合が作れるようになってきました。昨年11月の練習試合では彼が一番手で投げた時もありますし、加藤を抜いているのではないですか」と評する。

 その黒原について高嶋監督は
「しっかりと努力している選手ですからね。夏が楽しみな選手です。その姿を見て加藤を含めて他の1年生投手の意識がどう変わっていくかですね」
と黒原の姿を見て、他の投手もストイックに取り組んでいくことを望んでいる。

 今は我慢の時。それは指導者、選手も実感している。だが、今の時期を大事にすれば、高嶋監督は強いチームになると読んでいる。
「今を大事にすれば、夏が楽しみですし、今度入る新入生と経験を積んでいる1年生がうまくマッチしていけば・・・。今秋以降が一番面白いじゃないですか」

 2年連続の夏の甲子園出場。さらに、その先の大会の躍進を目指して智辯和歌山は一歩ずつ前進を続ける。

(取材・写真:河嶋 宗一


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【1月特集】2016年、自律型のチームになる!

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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