Column

県立白岡高等学校(埼玉)【前編】

2016.01.08

 無名の公立校ながら、昨夏の埼玉大会浦和学院試合レポート)、埼玉栄試合レポート)といった強豪を破って決勝進出し、全国の高校野球ファンを驚かせる大旋風を起こした白岡高校。の大会では地区大会の初戦で敗れ、公式戦未勝利だったチームが、なぜ、あれだけの躍進を遂げる事ができたのか?鳥居 俊秀監督をはじめ、レギュラーとして活躍した平塚 裕樹(3年)前主将、谷中 壮樹(3年)投手、永島 一樹(3年)投手、荒井 魁斗(3年)捕手、矢部 陸哉(3年)遊撃手にお話を伺った。

積極性を引き出すためにポイント制を導入

前列左から永島 一樹投手、谷中 壮樹投手。後列左から平塚 裕樹選手、矢部 陸哉選手、荒井 魁斗選手(県立白岡高等学校)

 夏の埼玉大会を勝ち上がった理由について、鳥居監督は「選手たちが自分で考えて、動けるチームになっていたのが大きかった。基本的に盗塁はフリーで『自分で行けると思ったら、行きなさい』という指示を与えていて、こちらからサインを出す事は滅多にありませんでした」と話す。

 こうした作戦をとる事ができたのは、普段の練習試合や紅白戦からノーサインでゲームをやってきたからだ。
「サインを出すのは、夏の大会が始まる1ヶ月前くらいから。それまでは『勝つ為にどんなプレーを選択するか、自分で考えて野球をやりなさい』と指導しています」(鳥居監督)

 ここで選手の積極性を引き出す為に行っているのが、攻撃面でのプレーごとにポイントを付ける事。
「ヒットを打ったらポイントがもらえて、逆に打てなかったらマイナス。その獲得ポイントの多い選手が優先的に試合で使われていました」(平塚前主将)

「ノーサインで盗塁を成功させると6ポイントと得点が高いので、みんな積極的に走っていました」(荒井捕手)

 レギュラーを狙う選手は意欲をかき立てられた。
「この評価システムはある大学の先生が作られたもので、それを利用させていただいているのですが、こうしてどんどん得点を稼ぐプレーをするように仕向けていくと、選手に『ミスをしても、取り返そう』という気持ちが芽生えて、それがだんだんとプレーにも表れてくるんです。

 しかも、控え組のB戦もレギュラー組のA戦と同じ得点を付けているので、控えの選手が一生懸命アピールする事も多かったです。だから、ウチのチームはレギュラーがまったく固定されずに、結構、選手の入れ替えが激しいんです。でも、こういった競争がないとチームは上に行けないですから、私はどんどん煽っているんです」

 頑張れば、誰にでもレギュラーになれるチャンスがある。それは当たり前の事だが、白岡が他校と比べて大きく異なるのは、レギュラーになる為の指標が「監督の評価」という目に見えない曖昧なものではなく、「数字」という誰にでも分かる形で示されている点にある。この明快さが選手のモチベーションを上げる事に繋がっているのだ。

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[page_break:トレーニング面でも積極的に数字を活用]

トレーニング面でも積極的に数字を活用

鳥居 俊秀監督(県立白岡高等学校)

 また、この数字による評価はトレーニング面でも利用されている。
「走力や筋力、三段跳びなどの記録にそれぞれ得点が付けられていて、『この数字に達していない選手はレギュラーにしない』と、鳥居監督から言われているんです」(平塚前主将)

「レギュラーになるには、一定の得点を超えなければいけないので、みんな数字を上げる為に毎日トレーニングをしました。その結果、自分たちの代のレギュラーはみんな目標の数字をクリアしていました」(矢部遊撃手)

 数字を上手に使えているのは、商業科の教員でもある鳥居監督ならではと言えるだろう。
「数字を使った方が選手も目に見える形で理解できる事が多いですし、例年、一冬を越えて筋力の数値が上がった選手は春先の動きや試合での結果もかなり良くなるんです。そういった意味でも『数字は嘘を付かない』と思います」

 鳥居監督はこうした成功体験を大切にしている。「ウチは中学時代に実績を残している選手が少ないので、野球にしても、トレーニングにしても、勉強にしても『頑張れば、これだけの良い結果を残せるんだ』という経験をしていないんです。だから、成功体験を積み上げていかないといけないし、そうしないとチームとしても変わっていかない。だから『数字』という目標を設定するんです」

 白岡野球部には、選手の自主性や自立心の成長を促す上で、大きな出来事がもう一つあった。それはに続いて、春季大会でも地区大会の初戦で敗退した事が引き金になった。
「鳥居監督から突き放されて、3年生は一ヶ月近くただ走るだけの期間がありました。その当時は練習が終わるまでの数時間、延々と学校の外周を走っていました」(平塚前主将)

 この荒療治にも見える指示の狙いについて、鳥居監督は
春季大会では、チーム全体に『勝てるんじゃないか』という気の緩みがあって負けてしまいました。元々、この代は入学時から能力のある選手が揃っていて、ベンチ入りした時期も早く経験もあったのですが、実力を発揮する事ができなかった。でも、『心の部分さえ変われば勝てる』と思っていたんです。ただ、どうしてもウチの生徒はどこかで簡単に諦めたり、『何とかなるだろう』といい加減な気持ちになってしまうなど、心の部分が弱いんです。その心の弱さを変える為には、中途半端な事をしていてもなかなか伝わらないので、極端な事をやりました」

 その鳥居監督の考えが一ヶ月間のランニング練習となった訳だが、「最初は『何で走るんだろう?普通に練習させてくれよ』と思っていました」(荒井捕手)と、やはり選手はすぐに受け入れる事ができなかった。しかし、徐々にではあるが選手の心に変化が生じていく。
「最初の方はみんなやる気がなかったんですけれど、一週間くらい経ってから『ちゃんとやらなきゃいけないな』って空気が出てきたんです。それで、走り終わってから、みんなで集まってミーティングをして自分たちの考えをまとめたりしていました」(谷中投手)

「ミーティングで、『やらされる練習じゃなくて、自分たちからやる練習にしよう』と話し合いました。それまでのランニングでは最初だけ早くて、後半は走るスピードが落ちていたんですけれど、次の日からはみんな粘り強く最後まで走れていたと思います」(平塚前主将)

 自主性を促すために行った、ポイント制を使った取り組みは非常に画期的でした。後編では、1か月間のランニング練習を乗り越え、夏に向かう3年生の様子と夏の大会を振り返っていきます。

(取材・写真:大平 明


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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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