Column

北海道札幌清田高等学校(北海道)【後編】

2015.12.05

 前編では秋季北海道大会の戦いぶりを振り返っていきました。後編では今年のチームを作り上げる上で、原点となったことを振り返りつつ、甲子園出場を目指す札幌清田ナインが今、課題においてやっていることに迫りました。

守備と走塁に重きを置く新チームの原点は昨夏の敗戦にあった

秋は一人で7試合投げ抜いたエースの実松 雄貴(北海道札幌清田高等学校)

 それは札幌第一との札幌支部代表決定戦。当時エースだった中島 啓汰投手(現北海学園大1年)が延長15回を一人で投げ抜き、引き分け再試合となった翌日の試合も9回を一人で投げた。結果は1対3で惜しくも敗れたが、投手を中心とした堅実な守りで甲子園出場経験のある強豪校と互角に戦った。

 この試合が現メンバーに与えた影響は計り知れない。この2試合で中島を好リードした渡部 桂輔は打っても4安打を放ったが「今までで一番悔しかった試合」と振り返る。脳裏に残っているのは、2対2で引き分けに終わった最初の試合、一死満塁で3球三振に倒れた場面だ。3球とも全く同じスライダーを空振りした。中学時代にポニーリーグの日本代表入りしたことのある渡部は「あの時から勝負所で打点を稼ぐことを考えていやっています」とどんな時でもその悔しさを忘れずに練習してきた。今秋は支部予選初戦で勝ち越し打を放つなど、得点が欲しい場面で結果を残した。

 エースの実松 雄貴昨夏、応援部隊でスタンドにいた。
「あの試合を見て、中島さんのことを本当にすごいと思いました。目標にしていますし、いろいろアドバイスももらっています」
新チーム発足当初、ストライクが入らず精神的にも落ち込んでいた時、母校を訪れた先輩に助言を求めた。体重移動と下半身の使い方、スライダーの投げ方など伝授されたことは多い。この冬には、具体的なウエイトトレーニングの方法も教わるつもりでいる。

 不安定だった実松を一本立ちさせたのは、尊敬する先輩の助言だけではない。慶応の選手の一言もきっかけになった。札幌清田は北海道の公立校としては珍しく、春休みに関東遠征を行っている。慶応や法政二と練習試を行い、夏休みには慶応が札幌を訪れる。今年の夏休み、制球が定まらず自滅を繰り返していた実松は、慶応の投手にどのくらいの頻度で投げているのか質問をぶつけた。

「毎日30球くらい投げると聞いて、自分もやってみたら制球が安定しました。いい感覚を無くしたくないので、これからも毎日少しずつ投げたいと思っています」
高校入学後に硬式ボールを握り、本格的に投手を始めた実松は、人一倍研究熱心。1年春から公式戦に出ている山田 竜平や渡部とは違う道筋をたどりながら、今や同じようにチームを支える大黒柱になった。

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甲子園への道

白い息を吐きながら雪上でティー打撃。長靴を履いた選手も(北海道札幌清田高等学校)

 北海道の野球シーズンは短い。11月中旬に学校を訪ねると、積雪に備えてネット類を物置に片付けていた。11月下旬に再び訪れると、一面雪で覆われたグラウンドで白い息を吐きながらティー打撃を行っていた。バッティング手袋を着用すると滑るため、素手でバットを握る選手が多い。かじかんだ手に息を吹きかけて温めながら黙々とバットを振る。ボールがネットを飛び越えると、雪に埋まった白いボールを探すのも一苦労だ。一歩ずつ雪に足を埋めながら進むと、ジャージや靴は濡れて冷たくなってしまう。

 そんな状況でもボールを打つのには理由がある。「冬は守備練習ができないので、打撃を強化して、打ち勝てるようになりたいです」と山田主将は狙いを話す。

 全道大会準決勝北海道栄戦では、序盤の2点のリードを守りきれず、2対7で逆転負けした。個々の能力の違いを見せつけられた格好だが、中でも選手たちが痛感したのが、攻撃力と体格の差だ。

「投手と守備はそこまで感じませんでしたが、得点力の差をすごく感じました。途中までヒット数は勝っていたのですが、つながらず。栄は走者をしっかり進めて返していました。来年は全道レベルの投手をしっかり打てるチームになりたい」
と4番を打つ渡部は言う。昨年夏札幌第一戦の敗戦をバネにして大きく成長したように、この冬は北海道栄戦を忘れずに、来夏を見据える。

 体格差の方は、数字にはっきり現れていた。全道大会のプログラムに掲載されている身長と体重を元に、各チームの平均身長と平均体重を比較した。「私立強豪等と比べると、身長は同じくらいなのに、平均体重が5キロも違いました。しっかり食べて、ウエイトで体を作りたい」と山田主将。現在57キロの体重を65キロに増やすことが目標だ。チームでは栄養指導の専門家を招いての勉強会も行い、一丸となって増量作戦に取り組む。

 一方、エースの実松はこの冬、バランスの良い投球フォームを追求する。現在120キロ後半の直球の平均速度を130キロ台に上げて、140キロの大台突破を目指す。全道大会準決勝北海道栄戦は、腕の張りを感じながら投げていたため「腕に負担のかからない下半身を使ったフォームにしたいと思っています」

 この秋登板した7試合57回、41安打、34三振、21四死球、防御率2.05は安定した数字と言えるが、満足はしていない。スライダーが武器になることは分かったが、他の変化球、特にスピリットを磨くこともオフのテーマだ。宮田 敏夫監督も「来年は一人で8、9試合完投できるように」とハッパをかける。

 冬季間の練習は、雪の積もったグラウンドでのティー打撃、ラグビー部と共用の屋内練習場(20メートル×7メートル)でのティー打撃やゴロ捕球や投球練習、格技場での穴あきミニボール打ち、廊下でのランニングやウエイトトレーニングと限られる。恵まれた環境とは言えないが、工夫することで考える能力も身につく。

「一つ一つの練習の質を高めていきたい。来年の夏は絶対に甲子園に行きたいと思っています。私立を倒すことを考えてこの学校に来ましたから」と渡部は力を込めた。
逆境は冬を乗り切るためのモチベーションにもなるのだ。

 取材の最後、山田主将に来年のチーム目標を尋ねた。返ってきた答えはやはり想像通り。
「目標は全道大会出場です。1回全道に行っただけでは強いと言えないですから。春と夏の全道に行けるように、戦力を上げたいです」
ブレることのない堅実な目標設定。あと2勝まで迫った甲子園を選手たちがそろって「近くない」と実感しているからこそ、まだまだ伸びしろがある。    

(取材・文=石川 加奈子


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・【12月特集】冬のトレーニングで生まれ変わる

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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