Column

成田高等学校(千葉)

2015.11.06

無駄を省き、質にとことんこだわった成田のランメニューの考え方

 2005年からの過去10年で2度の選抜出場と1度の選手権出場を果たしている成田。投手では唐川 侑己投手(千葉ロッテ)を筆頭に好投手を育成し、打者でも強打者・巧打者を多く育て上げる名門校だ。
好選手を生み出せる背景として、冬のトレーニングでは無駄を省き質をとことん追求して、パフォーマンスアップを図っていることが挙げられる。今回は、そんな成田のトレーニング理論から、練習計画の組み立てなどを伺ったが、とても緻密なものだった。

トレーニング器具のすべては野球に必要な筋力強化のため

ストレッチ用のマシンに取り組む尾身 健太朗選手(成田高等学校)

 成田高校グラウンドを見渡すと、様々なトレーニング器具があることに気づく。まずライトの奥にあるプレハブ小屋にはウエイトルーム、投球練習場には様々なトレーニング用具がある。柔軟性の強化、可動域を広げるためのトレーニング器具、投手に必要な指力を鍛える器具、股関節を鍛えるためのハードル、そして雨天練習場にはストレッチ用のマシンなど、さまざまな器具が揃っている。

 これらはすべて野球に必要な筋肉を強化することと、ケガを防ぐことを目的として取り入れたものだ。この環境からもトレーニングを重視していることがわかる。成田が専門家を招いてトレーニングに力を入れるようになったのは今から21年前のこと。当時、選手だった櫻井 大介副部長が振り返る。
「私が2年秋だった頃ですね。秋の大会が終わって、スポーツジムのトレーナーと契約することになったんです」

 今では高校野球でもトレーナーの意見もふまえて練習メニューを組むことは珍しくないが、成田は20年も前から、それを実践していた。そこから機材も購入し、少しずつ筋力トレーニング、スピード系のトレーニングなどを増やしていった。また唐川投手が現役だった時は、陸上部に1か月預けてトレーニングをさせていたが、その時、どんなトレーニングをしたかという記録を取っていたという。その結果、陸上部が実践している内容で野球部向けのメニューを組み立てることができるようになり、現在では選手を陸上部に預けることはなくなった。

 成田のトレーニングの目的は、夏にパワー、スピードをピークに持っていくことだ。そのためのメニューは一定ではなく、選手の持久力、筋力、スピードのレベルによって、どのトレーニングを優先して行うべきなのか、どこを強化するべきなのかなど、その選手、その時期によって変わってくる。

「だから、うちは固定されたメニューはなく、その世代の選手の能力値を見て、去年はやっていたけど今年はやっていないメニューなどもあります。またどの時期で、どのトレーニングをすれば最適なのかは監督、トレーナーで話し合って決めていくのですが、今日来ているトレーナーの山形さんの方が詳しいので、お話を伺った方が良いと思います」と櫻井部長は教えてくれた。

 そこで、現在、トレーナーを務める山形 一利氏に話を伺った。まず、山形氏がどういうメニューを計画するかについてだが、必ず秋季大会が終わった後に、「測定」を行ってから決めるという。まず身長、体重、除脂肪体重など14項目を計測。そのあと選手たちに、シーズンオフにクリアしなければならない筋力値とベースランニングのタイムを設けている。基準値はベンチプレスは自分の体重の120パーセント以下、スクワットも自分の体重の200パーセント以下、ベースランニングは15秒以内を最低限クリアしなければならないなどなかなか厳しい設定である。

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[page_break:成田高校は11月から600メートル以上のランメニューは組まない]

 この基準は歴代の成田野球部で活躍してきた選手の筋力値を基準としているようで、「成田高校基準値」とも呼ばれている。本気で取り組ませるために、選手たちはトレーニングシートに自身の目標だけではなく、いつまでに達成するかを書き込んで提出する。トレーニングに対しては妥協できない作りとなっている。そしてその結果に基づいて、この選手は筋力をベースに高めた方が良いのか、スピードを高めた方が良いのか、それともまだ体ができていないので、総合的に高めた方が良いのかということが分かり、メニューも変わってくるのだ。

11月から600メートル以上のランメニューは組まない

トレーニング中の成田高等学校ナイン

 それほど、トレーニングに対してこだわりをみせる成田のランメニューとは、一体どんなものか?まず、ランメニューといっても、短距離や長距離とあるが、どの時期でどういうメニューをやっているのだろうか。

「秋季大会までスピードを追求するようなトレーニングを行い、大会が終わると、11月まで心肺持久力を高めるために30分間走を週2回行います。そのあと、11月からはミドルパワーといって、成田高校さんは最長で走るのは600メートルまでで、それ以上走ることはしません。 例えば300メートルダッシュ6本、200メートルダッシュ10本、100メートルダッシュ15本をやって、12月に入っても11月よりも強度を上げたものを行います。1月は長い距離はやらず、1月に入ってからは実戦を意識して、ベースランニングも取り入れたランニングメニューを取り入れてやっています」(山形氏)

 短い距離を走って、実戦的な要素を取り入れながらスピードを伸ばしていく狙いである。スピードを高めるために長い距離を延々と走ることを省いた、まさに質にこだわった考え方といえる。

 10月まで行っていた30分間走も妥協させないように、しっかりと数を集計して、ランキングも出している。
「30分間走は緩めればいくらでも緩められるです。でも本数は数えて、しっかりと発表させますから、誰が手を抜いているのが分かりますよね」

 また野球部といえば、とにかく延々と走るイメージがあるが、成田はそれを一切やらない。その意図は何だろうか。山形氏はこう答える。
「距離と本数を設定した方が効率的に強度のあるトレーニングができるからです。グラウンド内ならばトレーナーの私、指導者の方が目を光らせれば手を抜けないですからね。でも私からは、妥協して取り組む選手に対して強制させて取り組ませるようなことはしません。妥協するならそれでいい。でもそれでいいのか?という話です」

 抜いてもいいが、何も言わない。でもそれでいいのか?という無言のプレッシャーが成田野球部にはある。尾島 治信監督は、トレーニングに取り組む姿勢によって夏が戦えるか、戦えないかが見えてくると話す。
「手を抜く選手が多い代はやはり勝ち切れていない。一生懸命やるのは当然のことで、うちは一生懸命やっていると思います。しかしそれだけではダメで、いかに自分が目標を設定して、その目標を成し遂げるために自分を追い込んで、夏を戦うために取り組んでいけるかによるのではないでしょうか。それは選手が気付かないといけない」

 その通りである。成田のトレーニングに関する環境、理論、計画はこれ以上ないものがあり、限られた時間の中で、最大限効果を高めるための工夫がされているのが分かる。

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[page_break:最後のプラスαは自分の取り組む姿勢にかかっている]

 そしてストレッチマシンもあるように、故障しないためのアフターケアも揃えている。精神力を付けるために、毎年1月は山形氏が勤務するフィットネスクラブを貸し切って、トライアスロン大会を行う。水泳とランニングマシンを使ったトライアスロンは最も過酷だ。

 また選手の性格によってトレーニングメニューも変える。
「メニューは選手の気質によって変わってきます。1人でしっかりとこなせる選手が多いときは短距離ダッシュ中心とか、まとまりを持たせた方が良い代には全員で協力してやるメニューを取り入れていきます」

 この日は10種類の種目をこなすサーキットトレーニングをこなしていた。このトレーニングもユニークで、終わった後にハイタッチしあって、士気を高める狙いもあるのだという。このように、考え尽くされたメニューの下でトレーニングに取り組める成田の選手たちは恵まれているといえるだろう。

最後のプラスαは自分の取り組む姿勢にかかっている

花嶋 悠吏主将と尾身 健太朗選手(成田高等学校)

 今年の秋、成田県大会初戦で千葉敬愛に敗れた。野球の力は歴代の中と比べても高いといわれているが、負けた要因として、尾島監督は、
「光るものは持っているけれど、捕る技術、投げる技術など野球の基礎的なことができていない選手が多い。基礎的なことができていないと、良い時は良いけれど悪い時は悪い。千葉敬愛戦は悪いところが全て出た試合だったのではないでしょうか」と振り返る。

 選手たちがさらにステップアップするには、自分たちが課題とすることから逃げずに取り組むしかない。そういった姿勢はトレーニングに取り組む姿勢につながると話す。

「トレーニングに本気で取り組めない選手は技術向上や弱点の克服をすることはできないと思っています。よく長所を伸ばせと言われますが、それが言えるのは、プロの選手だけだと思っています。なぜならばプロ入りできる選手は、総合的に能力が高いから。高校球児が欠点としているスキルは、高いレベルから見ればかなり低く、放置することはできないと思っています。それを直さないで、勝負ができるでしょうか」

 厳しいようだが、その通りである。課題に向き合って取り組む。それは地道なトレーニングに取り組む姿勢につながる。
そのような姿勢は指導者が促すのではなく、選手本人が気づかなければならない。選手たちはどう感じているのだろうか。主将の花嶋 悠吏は、自覚十分だった。
「大会が終わってから、監督さんからそういう話をしていただきましたし、チームとしては全国制覇、個人としては千葉県No.1 ショートを目指して取り組んでいます」

 また184センチで、最速138キロを誇る大型右腕・尾身 健太朗も、
「ストレートはキレをより出すことを目指していますし、その中で一冬超えて、150キロを出せる投手になることに目標を置いて取り組んでいます」
と選手それぞれが目標を置いて練習に取り組んでいた。

 本気になって、さらに自分自身が変わるために、より意識を高くして取り組まなければもったいない。最後のプラスαは選手たち自身にかかっている。その意識がしっかりと選手たちの中で根付いていけば、成田流のトレーニングによって、よりハイパフォーマンスを発揮できる選手がさらに育っていくことだろう。

(取材・文=河嶋 宗一


注目記事
・【11月特集】オフシーズンに取り組むランメニュー
・2015年秋季大会特設ページ

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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