アーム矯正方法
アーム矯正方法 2010年05月29日
初めに
全国には様々な工夫を凝らし、技術習得のために、取り組んでいる学校がある。すべての指導方法が、すべての選手たちの技術力向上につながるとは限らない中で、日々、試行錯誤を繰り返しているのである。
○○高校の練習がいいらしいぞ!▽▽高校は、最近、選手が伸びてるな、どんな練習をしているんだろう?
しかし、だからといって、それを自チームに取り入れれば、すぐに上達するというのは大間違いであるし、また、その練習が適合しているか否かは、すぐに分かるものではない。なるべく多くの指導メソッドに触れあう中で、何が良いかは指導者本人が理解しなければいけない。
ここでいう、『技術ノート』で紹介する練習はあくまでも、方法論の一つにすぎない。それをどのように解釈するかは読者次第であるということを忘れないでほしい。
指導をするのは指導者。よその学校がやっていることの真似事ではいつまでも成果は現れない。いかに、指導者本人が会得するかにかかっていると思う。
アーム矯正方法 【取材高校:倉敷高校】
【倉敷高校 投手陣】
プチ、プチ、プチ
字にすれば、こんな音が聞こえてくる。
倉敷高校の投手陣がボールをリリースする瞬間のことである。
指揮を執る山本晳監督はその理由をこう説明する。
「指にかかっている音。普通ならするんですよ。でも、アームの子はしません。今は、アームの子が多いでしょ。可哀そうですよね。ボールが指にかからなったら、投げていて、面白くないから」。
アーム式―。
ひじを使えない上から振りおろすようなフォームを、バッティングマシンになぞらえて、そう呼ばれることがある。アーム式の欠点は様々ある。球が手元で切れない、制球がまばら、故障が付きまとう。
そこにいち早く、目をつけ、「うちにアームの子はいない」と豪語しているのが、独自のアーム矯正理論を持つ山本監督なのである。「アームはひじが上がっていなので力が抜けちゃう。その状態で投げたら100%に近い確率で故障するんですよ。ちゃんとした投げ方をしないとね。
昔、中学生ですごい選手がいました。関節が柔らかくてね。でも、ひじの落ちる投げ方でアームだったんですよ。あれじゃ、怪我するなって思ってたんですけど、僕は、その才能に惚れこんでいたから、ぜひウチに来てもらって、直そうと思った。でも、ウチにはこなかったんですよね。そしたら、ヨソへ行ってきっちり終わりました。高校3年間、一度もユニフォームを着ることなくね。小学生の時、ソフトボール投げで、90メートルも投げていた子がですよ。伊良部以上ですよ」。
山本がそう言いたいのには、間近で成功例を見たからである。まだ、山本が若かったころ、尽誠学園のコーチ時代にみた伊良部秀輝はまさに、そういう選手だった。
「伊良部は中学時代からサイドだったんですよね。125キロくらいしか投げれなかった。それを上投げにしたら、アームになったんです。で、それを直したら、145キロ。125キロのピッチャーが145キロですからね。いかにアームで投げることが、よくないかということですよ。尽誠学園の指導者がそのまま投げさせていたら、伊良部は終わってましたよね。スゴイ財産が、失われていた。恐ろしいことですよね」。
3つのアーム矯正方法 【取材高校:倉敷高校】
山本監督が提唱するアーム矯正法は大きくわけると3つある。
1:クロール
2:医学的矯正法
3:肩回し
その他:缶を使った矯正法
1:クロール
「(水泳の)クロールって、非常に野球の動きと似ているんですよね。故障をする選手っていうのは前で、前で投げようとする。それを肩甲骨から上げようと意識させることでひじのラインが上がる。ひじのラインが下がった状態だと外旋した時に、負担が大きい」。
ひじを落とさないような動きを覚えることが必要なのだ。「ひじの位置は悪くてレベル。アンダースローでも姿勢がかがんでいるだけで、肩のラインよりひじは上ですからね」とも、山本監督は言う。
- クロール1
- クロール2
- クロール3
- クロール4
2:医学的矯正法
「一番簡単な方法で、アメリカのトレーナーやドクターなどが故障明けで投げ方を忘れてしまった選手などに教える矯正方法です。右投手なら、右手親指を恥骨のあたりに合わして、そのまま右胸まで上げてくる。そして、そこから腰を回転させる。何をやっても治らない選手は、これで治ります。ちょっと機械的なんですけど、コントロールがつきやすい。ただ、遊びがないかなと思います。」
- (1)右手親指を恥骨のあたりに合わして
- (2)そのまま右胸まで上げて
- (3)そこから腰を回転させる
- (4)そこから腰を回転させる(正面)
- (5)そのまま振り下ろす
3:肩回し
「クロールと似ていますが、肩を前に回しながら足をあげて、そこから投球動作に入って、腰を回転させる。そうしたら、自然と肩が上がってきます」
- 肩を前に回しながら
- 肩を前に回しながら
- 肩を前に回しながら
- 足を上げ、
- 投球動作に入り
- 腰を回転させる
その他:缶を使っての矯正法
他には写真は写せなかったが、缶を使っての矯正法も興味深いので、紹介したい。
缶の中に水を入れて(少量)、上からつかむ。そして、これを持ちながら、軽いシャドウをしてみるのだ。テークバックからトップを作る動作の時、水をこぼれないようにスイングするのだ。アームの選手はこの時点で、手のひらが上に向いてしまう場合が多く、これを、水がこぼれないようにスイングすること、その癖が取れるという。
山本監督は「すべてが全員に当てはまるわけではなく、缶で治る子もいれば、クロールが合う子もいる」と話す。それは指導者がすべて、強制して教えるものではないということ。大事なのは見極めることで、導いて指導するのが役目なのではないだろうか。インスタントな指導法ではいけないということである。「分からないモノは分からないで、分かる人に聞けばいい。それを分からないのに、教えるから、選手は潰れる」と同監督は言う。
最後に山本監督はこんな例をあげて、興味深い話をしてくれた。
「クリケットって、知っていますは?野球の基礎になった競技ですよね。あれは、ピッチャー、ひじを使っちゃいけないんです。ルール違反なんです。なんでかと言うと、危ないから。ひじを使うと、速い球を投げすぎちゃうから、上から振りおろす投げ方でしないとだめらしいです。つまり、野球でアームで投げている選手っていうのは、それだけでもハンディを背負っているってことなんですよ」。 プチ、プチっという、指先にボールが掛かる音を感じながら投げるという感覚。投げる楽しみも感じるためにも、ぜひ、アームを強制した投げ方を体得してほしい。
【文=氏原英明】