法律的にも批判されている韓国版「田澤ルール」撤廃。プラスになるような改革を韓国でも【後編】
9月7日、日本球界にとって衝撃が走るニュースが起きた。なんと田澤ルールの撤廃が発表されたのだ。2008年に設定されたこのルールはNPB入り拒否の意思を示した上で海外球団と契約した際は、高卒なら3年間、大卒と社会人選手なら2年間はNPB球団と契約できないというものだ。
このルール、日本だけではなく、韓国の野球界にもあることはご存知だろうか。それどころか、韓国のプロ野球の規約(KBO規約)にも記載されているのだ。実はその制約は日本以上に厳しいものとなっている。その事情について日本で弁護士の仕事をしながら韓国プロ野球の公認代理人としても関わっている金弘智(キム・ホンジ)さんに詳しく話を伺った。
後編の今回は韓国球界へ期待したいことなどを語っていただいた。
前回までの記事はこちらから!
2年間の契約不可、契約金不可…。日本の田澤ルールより厳しい「韓国版田澤ルール」の制約とは?【前編】
キャリアの上ではマイナスな面もあるのではないか
写真は昨年の世界大会の韓国代表選手たち
日本の田澤ルールよりも厳しい韓国の海外進出選手の国内復帰に対する制約。金さんによれば、実はこの規約が作られた当初は現在の規定よりももっと厳しく、高卒・大卒で海外進出した選手は、海外球団との契約終了後5年間もKBOに戻ることができなかったという。
ただ、この規約は法律上に大きな問題があるとして、2002年に韓国の公正取引委員会から「是正命令」を受けたそうだ。しかしながら、規約自体が完全に廃止されてしまうと、超高校級有望株の海外流出は免れられないとして、KBOはいわば「玉虫色」的な解決として制限を2年間に短縮したが、これもやはり厳しい制約であることは間違いない。
また、金さんはこの規約は選手のキャリアを積む上でマイナスになるものでしかないと批判する。
「プロ野球選手個人の2年間のキャリアがこのような制約で失われることは、とても取り返しがつかないことじゃないですか。リーグの発展・維持を守ることを大義名分として、選手個人のキャリア2年間を一律に奪うことはとても不均衡なことだと思います」
さらに、法律的にも批判されているこのルール。金さんは「ルールというのは、必要性と許容性が認められて初めて成り立ちえます。韓国の高卒・大卒で海外進出した選手の国内復帰制限の規約は自国リーグの産業を守るため、という必要性自体は認められるかもしれませんが、選手個人の活動の自由を一律に奪っていることを考えれば、到底許容されるものではありません。
もっとも、法律的にはおかしなこのルールもまだ韓国では、海外流出を防ぐためにはやむ無しという声もまだ少なくありません。しかしながら、他のどんなスポーツでも選手と球団との契約は自由競争が大原則です。
KBOが国内リーグの産業を守るためという大義名分のもと、韓国の野球界にだけこのルールが認められていることはとてもおかしなことなんです」
次は韓国にも波及してほしい
金弘智(キム・ホンジ)さん
だからこそ日本が田澤ルールを撤廃したことで、次は韓国にも波及してほしいと金さんは期待を込める。
「KBOと韓国の一部マスコミの論調は、あれだけリーグ産業が発展している日本にも存在するルールなのだから、韓国にもあっていい、という考えだったんです。しかしながら、今般、日本では撤廃が決まり、このような制約を設けているのは韓国だけになったのですから、韓国でもこれから大きく変わることを期待しています。本来は、リーグの産業の発展は、大人たち、つまりリーグ側の人間が自分たちの努力で解決すべき問題なのであって、若い個々人の選手たちに犠牲を強いるべきものではありません」
さらに、金さんは、日本の田澤ルール撤廃に関する今回の決定について。
「機が熟すのを待ち、良いタイミングで、NPB、選手会、選手個人の誰もが損をすることなく、法廷闘争もすることなく、議論の中で、言わば「無血革命」のような形でこの難しい問題を解決したことについて、心から敬意を表したいと思います」
金さんにとって、韓国版「田澤ルール」の問題は今も熱を入れている分野であり、この問題を巡って奔走をしているのだという。
今年はコロナ禍によって多くのプロスポーツが壊滅的な打撃を受けている。特に覇権を握っていたMLBは7月に開幕するまで、いろいろな軋轢があった。またNPBも上限5000人で行われ、スタジアム収入で大きな利益を得ていた12球団にとっては経営的に厳しく、今年のドラフト戦略にも大きな影響を与えていると聞く。
その状況下でもプロ野球は多くの選手にとって憧れのプロリーグとなり、選手のキャリアアップのためには理想的な環境となるためにはこの1年が正念場となるだろう。田澤ルール撤廃はまずそのための一歩。これからも選手にとってプラスになるような改革が全世界で起こることを期待したい。
(文・河嶋 宗一)