この4人は別格。中森俊介(明石商)、高橋宏斗(中京大中京)、篠木健太郎(木更津総合)、小林樹斗(智辯和歌山)の魅力とは
夏になると、多くの選手が台頭し、ニュースターの登場が多く聞かれる。それでもトップ選手の地位は簡単に揺るがないと強く痛感する。2020年の高校生右腕でトップ4として注目していたのが高橋宏斗(中京大中京)、中森俊介(明石商)、篠木健太郎(木更津総合)、小林樹斗(智辯和歌山)の4人だ。
夏の4人の投球を見ると、改めて抜けていることが分かる。まず4人は期待通りのパフォーマンスを発揮するメンタルの強さがある。その上で、高橋、中森、篠木、小林はそれぞれの違いと強みがある。
4選手の強みをもう一度迫っていきたい。
左から篠木健太郎、小林樹斗、中森俊介、高橋宏斗
まず高橋は圧倒的に馬力が違う。常時150キロ台・最速154キロの速球は今年の高校生どころか、大学・社会人と比較してもトップクラスの平均球速。リリーフで活躍した愛知大会の投球を振り返るとこの豪速球に加え、130キロ中盤のフォーク気味に落ちるツーシーム、135キロ前後のカットボールを自在に投げ分け、相手打者をねじ伏せる投球はプロのセットアッパーにひけをとらないものがあった。そして先発として投げた智弁学園戦では最速153キロ・148.4キロ。1イニング別で見ると平均球速149キロ以上だったのが4回と、調子が悪いながらも3失点に止め、改めて別格のパフォーマンスを示した。延長までクオリティが高い投球を実践できたのは試合中の修正がうまくいった。高橋は「ストレートがスライダー回転、シュート回転してしまい、ストライク、ボールがはっきりしてしまいバラバラだった」と語るように、スピードは出ていても甘いコースはあった。そこで高橋はセットポジションに入った時にグラブの位置を高くした。
フォームのバランスも良くなり、終盤にギアを上げる投球ができるようになった。自粛期間中は慶応大野球部だった高橋怜介さんと一緒にキャッチボール、トレーニングを行ってきた。その期間について「兄からより速く質のある速球を投げるための方法、変化球、野球への考え方。すべてにおいて教わりました」と有意義なものだと語っている。
愛知大会、甲子園での投球は自粛期間でしっかり自覚を持って取り組んでいる様子が伝わってきた。どんな進路をたどるのか注目したい。
そして中森はこの3人の中で変化球が多く、多彩な投球を展開する。スライダー、チェンジアップ、ツーシーム、スプリットと縦、横に自在に投げ分ける。この器用さは大学生や社会人にも負けていない。桐生第一戦では最速150キロをマークし、平均球速143.86キロと高校生トップクラスの球速をマーク。150キロを連発していた高橋と比べると物足りなさは感じるかもしれないが、多彩な変化球を投げる中森のタイプとしてはこの平均球速は恐ろしいものがある。最後の公式戦を2失点完投勝利で終えた中森はいつものように自分の投球を厳しく振り返った。
「序盤は良い感じで、テンポよくで投げられましたが、終盤にかけて体力が無くなって来てしまいました。それでバットに当てられることも多かったです」
連日の猛暑。精力的にトレーニングを続けていた中森でも、やはり大変なものがあっただろう。ただ、9回115球と1イニング平均12.77球で少ない球数で終えている。これは中森もテーマにしていたことだった。
「現在の投球のテーマは打たせて取ることです。去年の履正社戦の敗戦の時は警戒しすぎて増やしてしまったので、自分のボールに自信をもってどんどんストライク先行で投げていくことを大事にしました」
効率重視の投球を見せた中森。この安定感、投球術の上手さは素晴らしいものがある、
プロ志望届けを提出すれば、上位候補としてマークされる存在。どんな進路をたどるのか注目である。
篠木健太郎はいわゆる「主人公感」を持った勝負強さが魅力の本格派右腕である。中学時代から成績優秀で、特進クラスで木更津総合に入学。1年春からベンチ入りし、仲間から「ボールの伸びが異質」と驚かされた逸材は、戦国千葉の厳しさを1年生から経験したことで、逆にピンチの場面で力を発揮出来る選手となった。この夏の準決勝の八千代松陰戦では4対5と1点ビハインドで登場した篠木は見事な同点適時打。この場面でも篠木は慌てずに冷静な心境で打つことを心がけた。外角のスライダーを引っ掛けずに、しっかりと合わせてレフト方向へ弾き返す感性の良さは只者ではない。
またピッチングは昨秋と比べてもパワーアップに成功し、4安打完封した準々決勝の千葉明徳戦で、最速146キロ・平均球速143.15キロと高橋、中森に負けない速球を投げ込んだ。再び準決勝の八千代松陰戦では最速148キロをマークし、ストレートのスピードはもちろん、伸びも素晴らしく、志学館、千葉明徳、八千代松陰といずれも強力打線を沈黙させた投球は圧巻の一言。21回を投げ、28奪三振、防御率0.43、K/BB14.00。高橋、中森と全国的な活躍は少ないが、野球選手としての勝負強さ、野球ファンをくすぐるスター性は誰にも負けないものがある。
大学進学が決定的だが、その投球はプロ志望した投手よりも上回るものがある。18日の決勝戦で躍動なるか。
小林も一時期の不調を乗り越えて、最終学年で大きく化けた。敗れた尽誠学園戦で、リリーフ登板し、3回無失点の投球。最速151キロ・平均球速146.86キロと高校トップクラスの速球は伸びがあり、次々と三振を奪えるさらに130キロ後半のカットボール、スプリットを投げ分ける。小林の投球は躍動感があることだ。本人がずっと追求してきた「脱力」。何度も投げる感覚について試行錯誤を続けてきて、現在の投球にたどり着いた。投球フォームを見てもテークバックがコンパクトで、上半身、下半身の動きが連動した完成度の高い投球フォーム。プロで活躍する投手に似たところがあり、一番人気になる可能性は十分に持っている。小林は尽誠学園戦後、「ストレートも走っていて、スプリット、カットボールもストライクが取れてよかったです。また去年から打者の見え方やコントロールも去年から成長し、打者の反応を見ながら投げられているところが成長点だと思います」と語る。
2020年を彩った超高校級投手は自粛期間がありながらも、成長を果たし、ハイレベルなパフォーマンスを示した。まだ進路はわからないが、どの舞台に進んでも世代を牽引する活躍を見せることを期待したい。
(記事=河嶋 宗一)
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