Column

キューバ野球

2020.01.22

『赤い稲妻』

1980年代から90年代にかけて、キューバ野球はそう呼ばれ国際野球に旋風をおこした。
野球がオリンピックの正式種目に選ばれて依頼、金メダル3回、銀メダル2回を獲得している。

そして現在でもWBSC(世界野球連盟)のランキングで5位に位置する強豪国だ。
当然、MLBやNPBにも多数人材を輩出している。

『キューバ野球の強さの秘密とは?』

『それは簡単だよ。野球が国技だからだ。』

レオネス・デ・インダストリアレスのセカンドチームで打撃コーチを勤めるホセ氏はそう言った。

人口1200万人のカリブ海に浮かぶ島国の強さの秘密を知りたくて質問した答えは予想外のものだった。

『国技だから』
そう、野球はキューバの男の子なら普通にやるものなのだ。

キューバの男の子たちは、だいたい4歳から5歳で野球をはじめる。そして7歳から競争の世界にはいる。

キューバのスポーツ社会は競争社会だ。
地元で頭角を現した選手はキューバ14州の各州にあるからスポーツ専門学校、EIDEに選抜され12歳から14歳をすごす。そして、15歳からの16歳17歳にかけて、ESPAという組織に入り、プロを目指すのだ。

そこに脱落した選手は中々上にはあがれない。
実にキューバリーグのトップ選手の約85%がEIDE出身の選手だ。
グリエルもチャップマンもセスペデスも例外でない。

つまり、ここで脱落する事は事実上キャリアの終わりを意味する。そこでEIDE間を移籍した選手もいる。
キューバのスーパースターで、2017年に35本塁打102打点の活躍で本塁打と打点の二冠王となった福岡ソフトバンクの主砲であるデスパイネ。彼もその1人だ。当時、デスパイネは身長が低く、出場機会を求めサンチアゴからグランマにEIDEを移籍している。

競争を生き残る為に皆、必死なのだ。

そして、国内の競争に勝ち抜いた選手達の見据える先は海外でのプレーだ。
海外にプレーしてこそ、富が得られるというのを分かっている。

ただ、現実はシビアだ。

現状、選手が海外に移籍する場合は2つの選択肢に限られる。
野球連盟を通して移籍をするか亡命か。

その亡命も一昔まえのように命の危険を犯しても、というよりは、第三国の居住権をとり、MLBのFA申請ができる基礎条件の1つをとった上での亡命が主流になりつつある。

例えばだが、キューバ→ドミニカ(第三国)→アメリカ。 こんなルートでの亡命も最近では多い。

もう1つの方法が、連盟とスポーツ省の認可を得てからの移籍だ。トップレベルの選手の亡命が問題だったキューバ野球も今では連盟が移籍をサポートして、海外でプレーする機会を与えている。 もちろん、自分の好きなチームを選べない点や移籍過程が不透明など問題も多々ある。ただ過去のように連盟への報酬を50%から10%に下げるなど、改善はしてきている。

どちらの道を選んでも、キューバの選手達にとってハードルの高い海外移籍。
ただ、高みを目指す選手達の流れは、止められない。

街を歩くと空き地やボコボコのグランドで野球をやっている少年達。
日本ではそんな環境が『ハンドリングを上手くする』『ハングリー精神が養われる』と言われているし、私もそうだと思っていた。

ただ、実際にキューバという地に触れてこうも思う。

キューバの街並みは、多くの建物は古く、道路もボコボコだ。
しかし、ゴミがほとんど落ちておらず実に綺麗に街が保たれている。
また道につばを吐く人などもみない。
車も70年代の車が多く走っているが、クラクションの嵐はない。
目まぐるしく経済発展をとげ喧騒な雰囲気の東南アジアと比較するとそこらへんは大きく違う。

自分のことだけでなく、周りに気を配る。
経済規模だけでは測れない国民性。

もちろん、仕事を一緒にする中でスケジュールが中々確定しないなどは中南米ぽいところは多々ある。ただ、国民性も全般的におだやかで、義にあつい。

そして、世界一の経済大国アメリカを敵国政策してきた環境もあり、ブライドがあるのだろう。

プライドに関しては、他の場面でも垣間見得た。特に交渉の席でそれを感じた。今回のセスペデス獲得交渉において、スポーツ省のリディア氏や野球連盟会長であるイヒニョ氏から何度も言われたのは.

彼はWBC代表選手だ。実力はどこでも通用する。(もちろん、こちらもそんな事は百も承知だ。)

本当にプライドがにじみ出ていた。

?? 気配り
?? プライド
?? おおらかで義にあつい

ここらへんの要素がキューバの競争社会を成りたたさせている鍵なのかもしれない。
全てが絡み合い、競争を受け入れる土壌があるのだ。

ただ、競争社会であるがゆえに、楽しむ事も重要になってくると、ホセは言う。

『キューバの野球は競争だ。そして上にいけば、行くほど職業として野球を楽しめない。だからこそ、子供の時は楽しくやらせる。これが重要なんだ。』

そう。キューバの子供たちはこれから始まる過酷な競争をわかっている。
理解しながら、プレーを楽しみながら過ごしていくのだ。そしてその競争に大多数の男の子がエントリーする。

強いわけだ。

そして、昨今キューバの連盟は、ビッグリーグの他にも様々なリーグに選手を輩出している。2018年シーズンはNPBの他に、イタリアやパナマなどでも選手がプレーをする。

国内の競争を勝ち抜いた選手達が今度は様々な世界の野球と融合する。
この流れが、今後キューバ野球にどういう新しい風を作りだすのか興味深い。
色々な地域の野球文化を取り入れながら、今まで以上に強いキューバになることだけは間違いないだろう。

国内競争と海外進出。そしてそれを支える国民性。
『赤い稲妻』は、進化をやめない。

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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