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藤平 尚真投手(横浜-東北楽天ゴールデンイーグルス)「若鷲投手陣の系譜を継ぐ『頭脳派右腕』」

2017.03.30

「侍ジャパン」や「一流選手」の称号へ向かって日々、レベルアップに励んでいる「プロ野球ネクストヒーロー」。このコーナーでは高校野球で一時代を築いた選手たちのプロ入りまでのプロセスと現在の活躍に迫っていく。今回は横浜高(神奈川)から東北楽天ゴールデンイーグルスに入団したルーキー右腕・藤平 尚真投手。今季4年目を迎える桐光学園高(神奈川)出身・松井 裕樹投手(侍ジャパンWBC代表関連記事、また3年目を迎える済美高(愛媛)出身・安樂 智大投手関連記事に続く高卒ドラフト1位の藤平。今回は「頭脳派右腕」のここまでを追う。

スポーツ万能少年「苦悩」の時期を超えて

藤平 尚真投手(横浜-東北楽天ゴールデンイーグルス)「若鷲投手陣の系譜を継ぐ『頭脳派右腕』」 | 高校野球ドットコム

藤平 尚真(横浜時代)

 豊かな自然に恵まれた千葉県富津市で育った藤平 尚真。富津市立吉野小1年時に吉野ボーイズ(硬式)で野球を始めると、6年時には千葉ロッテマリーンズジュニアチームの一員として「NPB12球団ジュニアトーナメント」に出場。この前年には全国小学生陸上競技交流大会千葉県選考会のソフトボール投げで71.13mを投ずるなど、スポーツ万能の才覚を早くから発揮していた。富津市立大貫中時代は千葉市リトルシニアに所属すると共に、中学校では陸上競技部で走り高跳びにも挑戦。3年時には2メートル01を跳び、ジュニアオリンピックで優勝。野球界のみならず陸上界からも一目置かれる存在となる。

 ただし、2013年11月、愛媛県松山市で開催された「15Uアジアチャレンジマッチ2013」で優勝投手となった最速141キロ右腕の選択肢はやはり野球であった。進学先は神奈川県のみならず全国にその名を轟かす横浜高。スポーツ万能・藤平の動向には入学時から注目が集まった。とはいえ、横浜での当初の2年間は藤平にとって辛く苦しい期間となる。1年時は右ひじの成長痛が続き、ようやく戦列復帰した2年春は春季神奈川県大会直前の練習試合で右ひじに死球を受け、6月まで登板できず。

 しかしこの忍耐の時期を超えたスポーツ万能少年は、強靭な心技体を有するアスリートとなった。調整が完了した2年夏にはエース格までに成長し、140キロ後半の速球とスライダーのコンビネーションを武器に神奈川大会決勝戦へ。決勝ではその後甲子園で優勝した東海大相模に惜しくも敗れたが、ポテンシャルの高さを示す。かくして夏を自信にした藤平は、2年秋は完全なるエースへ。神奈川県大会では準々決勝において8回1失点で東海大相模の夏春連続甲子園優勝を絶ち、県大会決勝桐光学園戦で自己最速の151キロを叩き出し自身初の県タイトルを獲得する。

 しかし続く関東大会初戦。藤平は常総学院(茨城)戦で痛恨の一発を浴び、逆転負けでセンバツ出場は絶望的に。この屈辱が藤平を真に変えた。
「空振りを奪えるストレートの追究」「ダルビッシュ 有(テキサス・レンジャーズ)さんの映像を参考しての速く鋭く曲がるスライダーのマスター」「栄養士さんからアドバイスを受けての肉体強化」、この3本柱を貫き通した2015年冬。そして2016年4月、藤平は最終学年で大きくパワーアップした姿を見せることになる。

[page_break:甲子園出場&U-18代表入り、そしてドラフト1位へ]

甲子園出場&U-18代表入り、そしてドラフト1位へ

藤平 尚真投手(横浜-東北楽天ゴールデンイーグルス)「若鷲投手陣の系譜を継ぐ『頭脳派右腕』」 | 高校野球ドットコム

藤平 尚真(東北楽天ゴールデンイーグルス)

 3年春、優勝した神奈川県大会まではストレート・変化球が高めに浮く場面が目立っていた藤平だが、関東大会までに微調整を施す。一例はストレートの力配分。普段は145キロ前後だが、ここぞというときは140キロ後半の速球を打者の懐に思いきり投げ込む。強弱をつけた投球は相手打者を大いに惑わせる。変化球も同様だ。130キロ前半の高速スライダーをマスターしたことで、右打者の内角だけではなく、左打者の内角にも投げられる決め球ができた。加えて130キロ前半のフォークもマスターし、高確率で空振りが奪えるようになった。

 準優勝を果たした関東大会後も左腕・石川 達也(法政大1年)とさらなる鍛錬を重ね、藤平は夏の神奈川大会では圧巻の投球を見せる。22回3分の2を投げてなんと30奪三振。失点も6に抑えて3年ぶりの甲子園出場を手繰り寄せる原動力となった。さらに甲子園1回戦東北(宮城)戦では重量感たっぷりのストレートを軸に14奪三振。優勝候補・履正社と対戦した2回戦でも、2回途中に石川からマウンドを引き継ぐと、6回3分の1を投げて、7奪三振・無失点の好投。チームは履正社のエース左腕・寺島 成輝(東京ヤクルトスワローズ関連記事)に屈したが、この世代を代表する左右両輪の投げ合いは第98回・夏の甲子園名勝負の1つして人々に大きな印象を残した。

 寺島らと共に当然のように侍ジャパンU-18代表に名を連ねた藤平は、U-15年代に続くアジア選手権優勝を経験。最終学年で最高の結果を残した彼に待っていたのは「東北楽天ゴールデンイーグルス・ドラフト1位指名」の栄誉であった。

総合力と自己管理能力で、1年目からの一軍マウンドへ

 2017年2月1日、キャンプは一軍スタートの藤平。その後、ファームに落ちたものの3月20日のイースタンリーグ開幕戦(横浜DeNA戦・横須賀)では先発3回を投げて6奪三振、無失点。昨年8月27日、侍ジャパン大学代表との壮行試合で、大山 悠輔(白鷗大~阪神タイガース)、吉川 尚輝(中京学院大~読売ジャイアンツ)といったドラフト1位でプロ入りした打者相手に直球中心で三者凡退に抑えた実績が確かなものであることを、背番号「19」は早くも証明している。

 その原動力となっているのは体づくり、自己管理能力の高さだ。侍ジャパンU-18代表でともに戦った佐藤 勇基中京大中京~法政大関連記事)はこう語る。
「藤平はバイキング形式の食事でもバランス良く食べることを心掛け、肘にはサポーターをつけて、肘のけが予防に努めていました」

 となれば、開花の日は近い。これからファームで徐々に長いイニングを投げ、恵まれた素質をさらに熟成できれば……。数年後、田中 将大(現:ニューヨーク・ヤンキース関連記事)に始まり、松井 裕樹安楽 智大に続こうとしている「高卒ドラフト1位・若鷲投手陣」の一角を頭脳派右腕・藤平 尚真が占めることになるはずだ。次世代の東北楽天を担うエースとなり、杜の都・仙台を熱くさせることを期待したい。

(取材=河嶋 宗一

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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